2022年06月07日

G7次期議長国としての日本の役割

基礎研REPORT(冊子版)6月号[vol.303]

氷見野 良三

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1―G7・G20の役割変化

来年、日本はG7の議長国となる。

世界金融危機以降、主要先進国のみならず主要新興国もメンバーとするG20の役割が大きくなり、G7の果たす役割はかつてよりは小さくなった。しかし、ロシアによるウクライナ侵略以降、経済制裁をはじめ、G7の共同行動が果たす役割が大きくなっている。他方、ロシアやロシアと親しい国もメンバーとなっているG20の運営は困難を増している。

もちろん、対立を内包するからこそG20での対話の価値が大きいともいえるが、例えば、4月20日にワシントンで開催されたG20財務大臣・中央銀行総裁会議では共同声明は出されなかった。本年のG20議長国はインドネシア、来年はインドだが、大変難しいかじ取りを迫られるだろう。

日本はG20においても議長国をサポートしていかなければならないが、G20が進路を見失わないようにするためには、来年日本がG7議長国として世界共通の課題について方向性を的確に示し、G7が先導役を務められるようにしていくことも重要だろう。

2―世界秩序の再構築

来年は、このたびの戦争を踏まえた世界秩序の再構築が本格化する最初の年となるのではないか。冷戦後の秩序が大きな転換点を迎える中、来年、世界がどのような進路を見出せるかは、日本自身の生存と安全にとっても死活的な重要性を持つ。

日本は、ロシアのみならず中国をも隣人とする国、アジア唯一のG7メンバー、核兵器の非保有国、国連安全保障理事会常任理事国ではない世界第三位の経済大国だ。日本ならではの視点を踏まえた提案を積極的に行っていくことは、G7の主張の世界全体に対する説得力を高めるだろう。逆に、日本がこの年にG7議長国となるという巡り合わせを最大限活用しなければ、世界秩序再構築の議論は北大西洋条約機構(NATO)加盟国を中心に進むのではないか。

3―ゴールからトランジションへ

根本的な点に遡って議論が必要となっているのは安全保障の問題だけではない。気候変動問題に関しては、日本は「最終的な到達点(ゴール)だけではなく、そこに至る移行過程(トランジション)も重要だ」と早くから主張してきた。しかし、これまでは、「グリーン以外はすべてブラウンとして一日も早く排斥すべき」とする立場からは、しばしば疑いの目を向けられてきた。

こうした状況は変化しつつある。既に昨年10 月のG20 ローマ・サミットは、COP26の成功に向けた決意と産油国への増産要請を同時に議論しなければならない難しい状態に陥っていた。更に、現在は、ロシアの天然ガスに依存することの含意に直面し、移行過程におけるエネルギー安定供給の問題が最前面に出てこざるをえなくなっている。

これまではまずは野心的な目標を設定することが中心だったが、来年は取り組みを成熟させていくことに焦点があたるのではないか。

4―地に足のついたアジェンダ設定を

2019年、日本はG20の議長国だった。トランプ前大統領のアメリカ・ファースト政策、ブレグジット、デリバティブズ規制をめぐる米欧間の対立などを踏まえ、金融の分野での「市場の分断」への対応をアジェンダに掲げた。多くの国々の支持を得、サミットの宣言文に盛り込まれただけではなく、例えば、本年1月には証券監督者国際機構(IOSCO)から報告書「グローバル監督カレッジの活用から得られた教訓」が公表されるなど、その後も具体的な取組が続いている。

ただ、現実には、市場の分断はこれからむしろ深刻になっていくのではないかと考えられる。宣言文について20か国のコンセンサスを築くことも容易ではないが、それを具体的な取組に移すことは更に難しく、現実に世界を変えていくことは一層難しい。

国際租税面での日本の長年にわたる粘り強い取組が近年大きく花開いた例もあるが、多くの場合は、膨大な努力を注ぎ込んだ結果、世界が1ミクロンでも現実に変われば、大成功といわなければならない。逆に、短期的に目覚ましい成果を追おうとすれば、紙の上だけの成果になる可能性が高くなる。

会議設営、警備、おもてなし、そして印象的な映像を残せる場面を作ること(SNS映え)ももちろん重要だが、それらに専念して済む年回りでないことはいうまでもない。

議長就任前からG7内外のさまざまなステークホルダーと綿密に議論を重ね、地に足のついたアジェンダ設定を行っていくことが望ましい。政府だけではなく、わたしたち政府の外にいる者も、内外の幅広い議論の輪に加わり、課題の指摘だけではなく解決策・提案を具体的に考え貢献していくことが大切だろう。
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(2022年06月07日「基礎研マンスリー」)

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