2022年06月07日

東京オフィス市場は賃料下落が継続。住宅価格はさらに上昇-不動産クォータリー・レビュー2022年第1四半期

基礎研REPORT(冊子版)6月号[vol.303]

金融研究部 不動産調査室長 岩佐 浩人

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国内経済は、四半期ごとにプラス成長とマイナス成長を繰り返す一進一退の動きとなっている。2022年1-3月期の実質GDPは2四半期ぶりにマイナス成長となった。住宅市場は価格がさらに上昇している。東京オフィス市場は賃料下落が継続している。東京23区のマンション賃料は弱含んでいる。ホテル市場は1-3月の延べ宿泊者数が2019年対比で▲38.1%減少した。物流市場は、首都圏・近畿圏ともに新規供給の増加により空室率が上昇した。第1四半期の東証REIT指数は▲3.1%下落した。

1―経済動向と住宅市場

1-3月期の実質GDP(1次速報)は前期比年率▲1.0%となった。まん延防止等重点措置の影響で民間消費が小幅に減少するなか、財貨・サービスの輸入が輸出の伸びを上回ったため外需がマイナスに寄与した。

1-3月期の鉱工業生産指数は前期比+0.8%と2四半期連続で増産となったが、持ち直しのペースは緩やかである[図表1]。
[図表1]鉱工業生産(前期比)
世界的な半導体不足などから生産調整の続く自動車についても2四半期連続で増加したが、21年4-6月と比べて1割以上低い水準にある。

住宅市場では、価格がさらに上昇するなか、マンションの新規発売戸数や成約件数は前年同期比で2桁の減少となった。1-3月の首都圏のマンション新規販売戸数は前年同期比▲11.5%、1-3月の首都圏の中古マンション成約件数は▲17.6%減少した。また、2月の首都圏の中古マンション価格は20カ月連続で上昇し、1年間の上昇率は+11.9%となった[図表2]。
[図表2]不動研住宅価格指数(首都圏中古マンション)

2―地価動向

地価は住宅地を中心に回復している。国土交通省の「地価LOOKレポート(2021年第4四半期)」によると、全国100地区のうち上昇が「55」、横ばいが「28」、下落が「17」となり、上昇地区が過半を超えた[図表3]。

同レポートでは、「住宅地はマンションの販売状況が堅調で上昇地区が増加し、商業地についても法人投資家等による取引の動きがみられた地区が横ばい又は上昇に転じた」としている。
[図表3]全国の地価上昇・下落地区の推移

3―不動産サブセクターの動向

1│オフィス
三鬼商事によると、3月の東京都心5区の空室率は6.37%( 前月比▲0.04%)、平均募集賃料(月坪)は20カ月連続下落の20,366円となった。東京オフィス市場は調整局面が続いているが、前年比でみた空室率の悪化幅や賃料の下落率は着実に縮小している。他の主要都市をみると、空室率は上昇基調にあるものの[図表4]、募集賃料は大阪と仙台を除いて前年比プラスを維持している。
[図表4]主要都市のオフィス空室率
また、成約賃料データに基づく「オフィスレント・インデックス(第1四半期)」によると、東京都心部Aクラスビル賃料は29,185円(前期比▲4.9%)となった[図表5]。Aクラスビル賃料の3万円割れは2014年第2四半期以来のことである。東京オフィス市場は来年に大量供給を控えるなか、アフターコロナを見据えたオフィス出社率や企業によるオフィス戦略の再構築など、需要サイドの動向を注視したい。
[図表5]東京都心部Aクラスビルの空室率と成約賃料
2│賃貸マンション
東京23区のマンション賃料は、住居タイプによって違いがあるものの、全体では弱含みで推移している。2021年第4四半期は前年比でシングルタイプが▲1.6%、コンパクトタイプが▲1.9%、ファミリータイプが+2.4%となった[図表6]。
[図表6]東京23区のマンション賃料
一方、総務省によると、1-3月の東京23区の転入超過数は累計で+2.6万人となり、2021年対比で1.7倍、2020年対比で7割の水準まで回復した。昨年は長引くコロナ禍のもと転出超過(▲1.4万人)となったが、転入超過の傾向が定着するか注目される[図表7]。
[図表7]東京23区の転入超過数(各年の月次累計値)
3│商業施設・ホテル・物流施設
商業セクターは、前期に続いて持ち直しの動きとなっている。商業動態統計などによると、1-3月の小売販売額(既存店、前年同期比)は百貨店が+6.2%、スーパーが▲0.1%、コンビニエンスストアが+1.1%となった。ホテル市場は、昨年12月に日本人宿泊者数がコロナ禍以前の2019年水準をいったん回復したが、年明け以降、コロナ第6波により再び苦戦を強いられている。宿泊旅行統計調査によると、1-3月の延べ宿泊者数は2019年対比で▲38.1%減少した[図表8]。
[図表8]延べ宿泊者数の推移(2019年対比、202年1月~)
また、CBREの調査によると、首都圏の大型物流施設の空室率(3月末)は4.4%(前期比+2.1%)、近畿圏の空室率は2.1%(前期比+0.9%)となり、ともに新規供給の影響を受けて空室率が上昇した。

4―J-REIT(不動産投信)市場

2022年第1四半期の東証REIT指数は、昨年末比▲3.1%下落した[図表9]。コロナ第6波や米国金利上昇、ロシアによるウクライナ侵攻など外部環境の悪化を受けて一時大きく下落したが、期末にかけて下げ幅を縮小した。

J-REIT市場は急激な外部環境の悪化により下落したものの、海外からの資金流入が下値を支えている。東京証券取引所のデータによると、外国人投資家の買い越し額は1-3月累計で950億円となった。こうした外国人買いの要因の1つに、J-REIT市場の厚いイールドスプレッド(配当利回り-10年金利)が挙げられる。例えば、米国REIT市場をみると、FRBの利上げにより10年金利が2.3%に上昇するなか、イールドスプレッドは0.7%に縮小した(3月末時点)。これに対してJ-REIT市場のイールドスプレッドは3.5%と高い水準を維持しており、相対的な魅力度が増している。海外投資家は、日本の低金利を背景とした高いイールドスプレッドを評価し、J-REITだけではなく現物不動産への投資も積極化しており、不動産価格の上昇をけん引していると言えそうだ。
[図表9]東証REIT指数の推移(2021年12月末=100)
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金融研究部   不動産調査室長

岩佐 浩人 (いわさ ひろと)

研究・専門分野
不動産市場・投資分析

経歴
  • 【職歴】
     1993年 日本生命保険相互会社入社
     2005年 ニッセイ基礎研究所
     2019年4月より現職

    【加入団体等】
     ・一般社団法人不動産証券化協会認定マスター
     ・日本証券アナリスト協会検定会員

(2022年06月07日「基礎研マンスリー」)

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