2022年06月03日

ロシア制裁強化、OPECプラス増産拡大、原油価格はどうなる?~今後の注目ポイントと見通し

経済研究部 上席エコノミスト 上野 剛志

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2. 日銀金融政策(5月)

(日銀)維持(開催なし)
5月はもともと金融政策決定会合が予定されていない月であったため会合は開催されず、必然的に金融政策は現状維持となった。次回会合は0.50%の利上げ継続が確実視される米6月FOMC(今月14~15日)の直後にあたる今月16~17日に開催される予定。
日銀の長期国債・ETF買入れ額 なお、5月12日に「金融政策決定会合における主な意見(4月27、28日開催分)が公表された。物価情勢については、「資源・エネルギー価格上昇によって当面2%程度で推移するが、一時的なもの」であり、「エネルギーを除いたインフレの基調は未だ低い」との見方が多く見受けられた。また、こうしたもとで、「経済を下支えするために金融緩和を継続することが適当」という主旨の意見が大勢であり、金利上昇の許容など金融緩和を緩めるべきとの意見は皆無であった。
 
急速に進んだ円安に関連する部分では、「為替レートのコントロールを目標にした政策変更は適当でない」、「金融政策運営にあたっては、資源価格や為替相場の変動そのものではなく、あくまでもそれらが経済・物価に及ぼす影響を考える必要がある」との意見がみられ、いずれも金融政策を用いた円安抑制に対して否定的なものであった。
(今後の予想)
4月の会合で、連続指し値オペの常態化が決定されたことで、改めて日銀の金融緩和継続姿勢が示された。日本の物価上昇率は近々物価目標水準である2%に達するとみられるが、日銀としては、現下のような海外発コストプッシュ型の物価上昇は日銀の目指す姿ではないばかりか、日本経済にとってはむしろマイナスであり、持続性も伴わないと認識していることから、「強力な金融緩和を粘り強く続けていく」というスタンスを維持し続けるだろう。市場で観測が燻る金利変動許容幅の拡大(すなわち、0.25%超への長期金利上昇の許容)についても、実質的な緩和縮小の側面があることから、黒田総裁任期の間は見込み難い。来年4月に次期総裁が就任してしばらくしてから、緩和の副作用軽減を名目に枠組みの修正(誘導目標金利を10年債利回り→5年債利回りへ)を絡めて実質的に金利上昇許容幅を小幅に拡大しにいくと予想している。

当面は、「日銀の金融緩和が悪い物価上昇をもたらす悪い円安をもたらしている」との批判を粘り強く否定し続ける一方、急速な円安については口先でのけん制を行いながら、「資源高圧力やドル高圧力の落ち着きを待つ」のが基本戦略だと見られる。
 
仮に今後もさらに円安に拍車がかかり、政府からの要請・圧力が高まれば、日銀の立場は一層厳しくなるが、政府としても景気に悪影響を与えて財政の余地も狭める利上げは望まないだろう。そうなると、口先介入を強めたり政策金利に関するフォワードガイダンス7を中立に修正したりする(利下げに関する表現を削除)程度のことしか選択肢が無くなり、為替への影響は限定的に留まりそうだ。
 
7 政策金利については、現在の長短金利の水準、または、それを下回る水準で推移することを想定している

3. 金融市場(5月)の振り返りと予測表

3. 金融市場(5月)の振り返りと予測表

(10年国債利回り)
5月の動き 月初0.2%台前半でスタートし、月末も0.2%台前半に。
月初、米経済指標を受けたインフレ懸念やFOMCを控えた利上げ加速観測から米金利が上昇。その余波を受けて9日には0.25%の節目に接近したが、日銀による指し値オペ毎営業日実施で抑制され、以降0.25%を若干下回る水準での膠着した推移が継続。月半ば以降は米利上げによる先々の米景気減速が警戒され、米金利が低下したことで金利上昇圧力がやや和らぎ、25日には0.2%に接近。

月終盤は投資家のリスク回避姿勢がやや和らぎ、米金利低下が一服。さらにインフレ懸念による独金利上昇が金利上昇圧力になり、月末は0.2%台半ばへとやや水準を切り上げた。
日米長期金利の推移(直近1年間)/日本国債イールドカーブの変化/日経平均株価の推移(直近1年間)/主要国株価の騰落率(5月)
(ドル円レート)
5月の動き 月初130円台前半でスタートし、月末は128円台前半に。
月初、インフレ・利上げ加速観測に伴う米金利上昇を背景にドルが買われ、9日には130円台後半に上昇(一時131円台に)。その後は持ち高調整や米金利上昇一服に伴うドル売りが入り、13日には128円台後半に下落。しばらく横ばい圏での推移を挟んだ後、利上げ等に伴う米景気減速懸念が台頭し、20日には127円台後半に。さらに25日には127円へと下落した。一方、月末には上海の都市封鎖解除方針などからリスク回避がやや緩和したほか、FRB高官が積極的な利上げ継続方針を示したことで米金利が上昇し、128円台前半に持ち直した。
ドル円レートの推移(直近1年間)/ユーロドルレートの推移(直近1年間)
(ユーロドルレート)
5月の動き 月初1.05ドル台前半でスタートし、月末は1.07ドル台前半に。
月初、1.05ドル台での一進一退の展開となった後、世界的な株安に伴うリスクオフのユーロ売りドル買いが入ったほか、ウクライナ侵攻に伴うユーロ圏景気の減速懸念の高まりを受けて、12日には1.04ドル台前半に。翌13日には1.03ドル台を付けた。一方、その後は米景気減速懸念の高まりや、議事要旨等を受けたECBの利上げ観測によってユーロが持ち直し、17日には1.05ドル台を回復。さらにECBのラガルド総裁がブログで7月利上げの可能性を示唆したことでユーロが上昇し、24日には1.07ドル台に達した。その後もECBの早期利上げ観測がユーロの支えとなり、月末は1.07ドル台前半で終了した。
金利・為替予測表(2022年6月3日現在)
 
 

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経済研究部   上席エコノミスト

上野 剛志 (うえの つよし)

研究・専門分野
金融・為替、日本経済

(2022年06月03日「Weekly エコノミスト・レター」)

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