2022年05月31日

首都圏住宅市場の動向(マンション・戸建て)~市場減速の兆候と個別の住宅価格

金融研究部 准主任研究員 渡邊 布味子

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5――中古マンション、新築・中古戸建ては過去のトレンドから見ると売れすぎている

しかし、現在の住宅市場の規模は、過去のトレンドから線形回帰により推定した妥当な水準(以下、「妥当な水準」とする)からの乖離が大きい。
 
首都圏新築マンションについては、価格維持のために供給量が調整されており、市場規模も縮小している。市場規模は、2022年3月に2.1兆円とコロナ禍前の水準(2020年1月は1.9兆円)を回復した。ただし市場規模減速前の2019年1月(2.2兆円)は回復できていない。個別の新築マンション価格が高くなっているものの、取引量の減少が大きく、相対的に市場規模の拡大が小さい(図表5)。
 
供給量が少ない新築マンションの代わりに住宅需要の受け皿となったのは中古マンション等である。首都圏中古マンション市場は2021年12月に1.5兆円と最大規模となった。妥当な水準1.4兆円を1,600億円超過(+11.5%)している(図表6)。
図表5 新築マンションの市場規模と在庫戸数(首都圏)/図表6 中古マンションの市場規模と在庫戸数(首都圏)
首都圏新築戸建て市場は2022年3月に4.8兆円となり、妥当な水準適正水準3.9兆円を8,300億円超過(+21.2%)している。市場拡大が継続しているが、市場規模を求める際に着工戸数を用いている(新築戸建てが在庫になるのは建物完成時に売れていない場合である)ことから、「完成までの建築期間のタイムラグ」を反映していないことには注意が必要である(図表7)。
 
首都圏中古戸建てが2021年12月に0.5兆円となり、妥当な水準0.4兆円を950億円超過(21.6%)した(図表8)。
 
また、中古マンション市場と、中古戸建て市場は在庫戸数が底をうった月とほぼ同時に、市場規模が妥当な水準を大きく超過し、後に減速している。今後の市場規模の推移に注視したい。
図表7 新築戸建ての市場規模と在庫戸数(首都圏)/図表8 中古戸建ての市場規模と在庫戸数(首都圏)

6――市場規模の拡大が止まっても、実需向けの住宅価格は下落しにくい

6――市場規模の拡大が止まっても、実需向けの住宅価格は下落しにくい

ただし、市場規模が縮小するとしても、価格よりも先に業者側の対応で供給量が調整されていく。まず、(1)在庫戸数が増加をはじめ、(2)成約戸数等の供給量が減少する。ここまでは現時点で既に生じているとみられる。
 
そして、あわせて(3)経済の停滞などにより個人の収入に影響が生じていた場合、(4)ローンの延滞などで所有者が住宅を売却せざるを得ないケースが増加し、(5)住宅を売り出したが買い手がつかない、などの状況になって、はじめて住宅価格の価格水準は低下する。
 
例えば、平成バブルの時期の不動産価格の推移を公示価格でみると、東京圏で1988年に前年比+68.6%となった後、バブル崩壊初期の1992年には前年比▲9.1%、1993年には▲14.6%となり、2006年まで15年間もマイナスが継続した(図表9)。このような状況では、(5)住宅を売り出したがローン残高に見合った価格では買い手がつかず、先行きが見えないため投げ売り状態となり、住宅の価格水準は大きく下落した(図表10)。
 
一方で、2008年のリーマン・ショック後では、公示価格は2009年に前年比▲4.4%となってから5年間マイナスが続いた(図表9)。しかし、平均住宅価格は2007年に2,545万円に対し2009年は2,500万円(2019年比▲1.8%)で、平成バブル時よりも価格の下落が少なかった(図表10)。本当に価格が下がらなかったのかどうかは、詳細に取引された住宅の中身を見る必要があるが、少なくとも現れてくる数字の上では、実需(購入者自身が居住する場合)を背景とする住宅価格は下がりにくい。

また、2022年の公示地の住宅価格も前年比で+0.6%と上昇した。現在は、「(3)経済の停滞などにより個人の収入に影響が生じた」としても、購入時よりも価格が上昇しているケースが多いことから、「住宅購入すると利益がでる」というプラスのイメージを持ちやすく、購入需要が冷えにくい。需要者側の生活必要費等の増加、供給者側の原材料コストの上昇など、懸念事項は増加しているが、現在はまだ住宅価格が下がる状況にはなく、仮に下がるとしても、数年後以降になるのではないかと考える。
図表9 都市圏別公示地価動向(住宅地)
図表10 中古マンションの在庫戸数と成約価格 (首都圏、年次) 

7――おわりに

7――おわりに

コロナ禍においても住宅市場は好調であった。住宅市場の規模は拡大を続け、ここ約2年の間に過去10年で最も市場規模が大きかった時期と同水準にまで住宅市場は成長した。在宅勤務の定着などのニューノーマルによって、この市場規模水準が妥当となったのだと考えることもできるかもしれない。
 
しかし、新築住宅とともに中古住宅を検討する傾向、在庫戸数の増加、市場規模の伸びの横ばい傾向など、やや潮目が変わってきた兆候がある。また、長期金利の上昇、コストプッシュによる物価の上昇、地政学リスクによる建築コストの上昇、賃金が上がらない中での家計の圧迫など、マクロ経済要因から住宅市場を減速させる懸念は高まってきている。住宅市場の市場規模は減速する時期に差し掛かっているように見える。
 
一方で、新築マンション等の供給が少ない状態では特定の一つの住宅に取得希望者が集中しやすく、価格は下がりにくくなる。現在のように、手ごろな価格の住宅の供給数が限られている状況では、個別の住宅価格の調整を妨げる可能性も高い。また、供給者側のコストが上昇しても、実需向けの不動産である住宅は価格転嫁がしやすい。当然ながら価格が高くなると購入できる層は少なくなるが、購入できる層は存在するものである。残念ながら、首都圏においては、少なくとも今年中に住宅価格が下がる可能性は低いのではないだろうか。
 
 

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金融研究部   准主任研究員

渡邊 布味子 (わたなべ ふみこ)

研究・専門分野
不動産市場、不動産投資

経歴
  • 【職歴】
     2000年 東海銀行(現三菱UFJ銀行)入行
     2006年 総合不動産会社に入社
     2018年5月より現職
    ・不動産鑑定士
    ・宅地建物取引士
    ・不動産証券化協会認定マスター
    ・日本証券アナリスト協会検定会員

    ・2022年、2023年 兵庫県都市計画審議会専門委員

(2022年05月31日「不動産投資レポート」)

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