2022年05月31日

首都圏住宅市場の動向(マンション・戸建て)~市場減速の兆候と個別の住宅価格

金融研究部 准主任研究員 渡邊 布味子

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1――はじめに

新築マンションの供給量は年々減少し、価格は上昇する傾向が続いている。首都圏新築マンションのこれまでの最高額(年平均)は平成バブル期(1990年)の6123万円であったが、2021年平均は6260万円と最高額を更新し、月次でも2022年4月は6,291万円となった。
 
一方、バブル期であった1990年の発売戸数は4.0万戸、1991年は2.6万戸であった。バブル崩壊後に価格が下落するとともに発売戸数は増加を続け、2000年には過去最多供給の9.6万戸となったが同年をピークに発売戸数は減少し、2021年は3.4万戸、2022年見込みも3.4万戸となった。価格水準も供給戸数も、四半世紀をかけてバブル当時の水準に戻ってきたといえる(図表1)。
 
ただし、現在の住宅市場は低金利に支えられ、高価格帯の新築マンションを戸数調整しながら供給されることで平均価格が上昇を続けており、中古マンションや戸建て等の住宅価格もそれに追従するように上昇をしている。このまま住宅価格は上がり続けるのだろうか。
図表1 首都圏新築マンションの発売戸数と平均価格(年次)

2――新築住宅とともに中古住宅も検討する人が増加

2――新築住宅とともに中古住宅も検討する人が増加

従来、日本の住宅市場での取引は、新築住宅が全体の8割を占める。2021年の首都圏の住宅市場での取引でも、73%(前年比▲1.6%)を新築住宅が占めており、その傾向に変わりはない。
 
2022年3月の首都圏の住宅の平均価格は、新築マンションが6,518万円、中古マンションが4,158万円、新築戸建てが4,054万円、中古戸建が3,741万円である。予算にあわせて、価格水準からどの種類の住宅を検討するかを決める人も多いのではないだろうか。
 
しかし、昨今の新築住宅価格の上昇により、購入希望者の行動に影響が生じているようだ。不動産流通経営協会の2015年の調査では、新築購入者のうち、「新築住宅のみを検討した人」は54.6%、「主に新築住宅を検討した人」は27.2%、「新築・既存にこだわらなかった人」は16.5%であった。

これが、2021年の調査では、「新築住宅のみを検討した人」は45.3%(▲9.3%)、「主に新築住宅を検討した人」は36.8%(+9.6%)に、「新築・既存にこだわらなかった人」は17.3%(+0.8%)となった。
 
新築住宅価格の上昇から新築住宅にこだわる人が減り、新築住宅とともに中古住宅も検討する人が増加している(図表2)。
図表2 新築住宅と中古住宅のいずれを探したか (新築住宅購入者、首都圏)

3――各住宅市場の在庫の状況

3――各住宅市場の在庫の状況

コロナ禍における各住宅市場は、コロナ禍前までに積み上がっていた在庫を売却することで拡大した面もある。そこで、在庫の推移についても確認してみたい。
 
首都圏新築マンション市場については、価格維持のため供給量が適宜調整されている。在庫戸数は供給量に比べて少なく、コロナ禍前も後も、毎年季節毎に一定の水準で推移している。
 
一方、首都圏中古マンションの在庫戸数は大きく減少している。2020年1月の在庫戸数は4.8万戸であったが、2021年6月に3.4万件(2020年1月比▲29.4%)となった。また、首都圏新築戸建て市場でも2020年1月に2.0万戸であった在庫戸数が、2021年6月には0.7万戸(▲62.8%)に、首都圏中古戸建て市場では2.3万戸であった在庫戸数が2021年12月には1.3万戸(▲43.2%)となった。いずれの市場でも、昨年の半ばから後半にかけて、在庫戸数は近年で最も少ない水準なっている。
 
ただし、2022年4月には中古マンションは3.7万戸、新築戸建ては1.1万戸、中古戸建ては1.3万戸と、各市場とも在庫戸数が増加している。
 
首都圏中古マンション市場の過去の推移では、ある月の在庫戸数が「直近で最も減少した月の在庫戸数」から+5%を超えると、そのまま増加した時期が多い(2007年初、2010年半ば、2015年半ば)。2022年4月の首都圏中古マンションの在庫数は、2021年6月比で+12%となっている。また、相対的に変動の波は小さいが、新築戸建て、中古戸建についても、中古マンションと在庫戸数の増減の時期は近似しており(図表3)、今後も中古マンションと連動すると思われる。
図表3 各住宅市場の在庫戸数 (首都圏) 
通常は競争力があって手ごろな価格の住宅が先に売れ、割高な物件が売れ残る。このような在庫戸数の推移の裏では、在庫のなかに相対的に割高な住宅が増加しており、購入希望者が住宅を買いたいと思う価格水準からの乖離が生じ始めていると考えられる。

4――コロナ禍で拡大した住宅市場

4――コロナ禍で拡大した住宅市場

コロナ禍では、テレワークや移動自粛により住宅需要が高まり、マンション・戸建ていずれの市場でも取引量が増加し、価格が上昇したことで市場規模が拡大した。各市場の規模は取引された件数に平均価格を乗じることで、おおよそを求めることができる。算定には、「首都圏新築マンション市場」については月次の発売戸数と平均発売価格を、「首都圏新築戸建て市場」については月次の住宅着工戸数(持家と分譲戸建ての合計)と成約価格を、「首都圏中古マンション市場」・「首都圏中古戸建て市場」については月次の成約戸数と平均成約価格を用い、季節要因の調整のため、12ヶ月移動累計を求めることとする。
 
2022年1月は、首都圏新築マンション市場が2.1兆円(2019年1月比▲3.0%)とコロナ禍前の天井圏の規模をほぼ回復した。また同月の首都圏中古マンション市場が1.5兆円(+22.2%)、首都圏新築戸建て市場が4.7兆円(+14.9%)、首都圏中古戸建て市場が0.5兆円(+32.6%)となった。全市場の合計でも8.8兆円(+11.3%)とコロナ禍前の天井圏の規模を上回り、過去10年で最も住宅市場の規模が拡大した2014年3月の8.9兆円に迫っている。(図表4)。
図表4 各住宅市場の市場規模 (首都圏、12ヶ月移動累計)
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金融研究部   准主任研究員

渡邊 布味子 (わたなべ ふみこ)

研究・専門分野
不動産市場、不動産投資

経歴
  • 【職歴】
     2000年 東海銀行(現三菱UFJ銀行)入行
     2006年 総合不動産会社に入社
     2018年5月より現職
    ・不動産鑑定士
    ・宅地建物取引士
    ・不動産証券化協会認定マスター
    ・日本証券アナリスト協会検定会員

    ・2022年、2023年 兵庫県都市計画審議会専門委員

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