2022年05月31日

コロナ禍でどんな人が孤独・孤立を感じているのか~「第8回 新型コロナによる暮らしの変化に関する調査」より

生活研究部 准主任研究員・ジェロントロジー推進室兼任 坊 美生子

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2) 健康不安
次に、心身や精神面の健康不安との関連も見られた。新型コロナウイルスへの感染と直接関係する項目では、「感染による健康状態の悪化」や「感染しても適切な治療が受けられない」ことに対する不安層が、それ以外のグループに比べて、孤独・孤立に関する不安を感じている割合が大きかった。次に、新型コロナの健康二次被害としては、「持病や新型コロナ以外の疾患などによる健康状態の悪化」と「運動不足による健康状態や身体機能の悪化」の不安層も、孤独・孤立不安の割合が、それ以外のグループに比べて大きかった。

また、「コミュニケーション機会の減少による認知機能低下」「コミュニケーション機会の減少により、うつなどの心の病気になる」の二つについては、不安層の半数が、孤独・孤立への不安も感じており、強い関連を示唆する結果となった。
3) 経済不安
最後に、経済不安とも関連が見られた。「勤務先の業績悪化による収入減少、雇用の不安定化」や「自分や家族の収入減少」、「自分や家族が仕事を失う」に対する不安層のいずれも3割以上が、孤独・孤立への不安を感じており、いずれも、それ以外のグループよりも割合が大きかった。
 
(2) 考察
以上のように、コロナ禍において、社会や暮らしの中に起きている様々な変化から生じる人間関係不安や健康不安、経済不安が、孤独・孤立感と関わっていることが分かった。

この三つに不安のうち、最も対応が難しいのは人間関係不安ではないだろうか。筆者が前回のレポートで「疎遠化、希薄化」と述べたように、家族や友人、地域との交流機会の減少が、孤独・孤立感を招くということは予測できる。逆に、交流機会を復活させれば、そのような孤独・孤立感は一定程度、解消すると期待できる。しかし今回の分析で、孤独・孤立と関連があると分かった人間関係不安は、単なる疎遠化、希薄化によるものだけではない。非寛容や、感染した場合の偏見・中傷といったことへの不安も含まれている。自粛生活の延長で、他人の行動を監視する風潮や、非寛容な心理が生まれたり、感染者に対する偏見・中傷が起きたりし、それらに対する漠然とした不安感や緊張感、委縮が広がり、孤独・孤立感につながっている可能性がある。

このような不安と相まって孤独・孤立感が広がっているなら、それを解消していくための方法として考えられることは、過度な行動制限や自粛生活を見直していくことではないだろうか。今一度、これまでの対策が、感染防止のために合理的な手段であったかどうかを検証し、整理し直すことで、緊張感や委縮が緩和していく可能性がある。

政府は5月に入って、屋外でのマスク着用や、2歳以上の保育園児に対するマスクの推奨について、これまでの方針を変更した。それ以外にも、「人流抑制」の感染抑制効果を疑問視する見方もある5。いずれの行動制限も、副作用を伴うため、過去2年間の効果と突き合わせて、検証を進めるべきであろう。感染防止効果よりも副作用の方が大きい施策については、見直しを進め、社会に広がった過度な不安感や恐怖感、委縮を解いていく必要があるのではないだろうか。

健康不安に関しても、緩和するための取組を進めるべきであろう。新型コロナウイルスへの感染による発症や重症化は、ワクチン接種や治療薬の開発・普及など、医療の進展と供給に依存するが、運動不足やコミュニケーション不足による心身機能の低下やうつ病などは、過度な自粛生活による健康二次被害と言えるものである。これらの生活を見直し、心身の健康状態を維持、回復することができれば、孤独・孤立不安も軽減できる可能性がある。

経済不安に関連した孤独・孤立に対しては、雇用対策や生活支援が考えられるが、そもそも、上述したような過度な行動制限、自粛生活を緩和していけば、例えば外食や旅行などの消費行動が回復し、経済不安そのものが緩和する可能性があるだろう。
 
5 斎藤太郎(2022)「人流抑制で落ち込むサービス消費-繰り返される行動制限への疑問」(Weekly エコノミスト・レター、2022年4月15日)

4――終わりに

4――終わりに

本稿では、ニッセイ基礎研究所の最新調査から、男性では5人に1人、女性では4人に1人が孤独や孤立を感じていること、コロナ禍の様々な暮らしや社会の変化から生じる人間関係や健康面、経済面の不安が、それらと関連していることを説明してきた。また、睡眠時間の減少や、自宅での飲酒量の増加と孤独・孤立不安との関連も分かり、既に深刻な状態に陥っている人がいる可能性があることも分かった。

本稿の分析では、他人との交流の減少だけではなく、より複雑な人間関係不安が、孤独・孤立と関わっていると分かった点もユニークである。コロナ禍における過度な行動制限や自粛生活が、社会にネガティブな風潮を生み、「他人から行動を非難されるのではないか」、「感染したと知られたら、知人や地域から疎外されるのではないか」という漠然とした不安感と緊張感が広がり、孤独・孤立感の一因となっているのではないだろうか。

「孤独」は、客観的な状態を指すのではなく、個人の主観によるものであるため、完全な解決法を示すことは難しいだろう。しかし、上述した不安に対応することで、緩和できる可能性がある。また、3-1|(1)で説明したように、対面コミュニケーションや移動、趣味や娯楽・スポーツ活動、仕事・学業が減少した人など、特定の行動変化があった人には、孤独・孤立を感じている傾向が強いことが分かったため、これらの行動を少しでも回復させるような取組が、対策として考えられるだろう。

コロナ禍は3年目に入った。行動制限の副作用が悪化したり、孤独・孤立感から致命的な段階に進むことがないように、人と人とのつながり、健全な社会生活を保てるような取組が、必要ではないだろうか。
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生活研究部   准主任研究員・ジェロントロジー推進室兼任

坊 美生子 (ぼう みおこ)

研究・専門分野
中高年女性の雇用と暮らし、高齢者の移動サービス、ジェロントロジー

(2022年05月31日「基礎研レポート」)

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