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- 指名委員会等設置会社における取締役選任-東芝の事例を参考に
コラム
2022年05月25日
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報道によると東芝では取締役選任議案が決算短信の場で公表できなかった1とのことである。
4月20日に掲載した研究員の眼では、監査役会設置会社と監査等委員会設置会社について解説を行ったところだが、東芝は、大企業で採用できるもう一つの機関設計を行っている。それが指名委員会等設置会社である。指名委員会等設置会社では、他の機関設計の会社とは異なる取締役選任議案の決定方式を採用している。すなわち、一般の株式会社では株主総会に付議する取締役選任議案は、当該社の取締役会で決定するが、指名委員会等設置会社では、指名委員会という取締役によって組織される委員会で選任議案の決定を行う。
以下、指名委員会等設置会社について順を追って説明していきたい。
そもそも指名委員会等設置会社は平成14年会社法改正によって、英米型のモニタリングモデルの会社組織を参考にして導入された会社形態である。モニタリングモデルとは、経営者から独立した監督組織である取締役会を設置し、取締役会が経営者の業務執行を監督する会社の形態を指す。
しかし、指名委員会等設置会社は制度設計が厳格すぎたためか結果として普及せず2、より柔軟性のある監査等委員会設置会社制度が導入されることとなったという経緯がある。
指名委員会等設置会社では、監査役は選任されず、株主総会では役員として取締役だけを選任する(329条1項)3。取締役は取締役会を組織し、取締役の中から、指名委員会、報酬委員会、監査委員会の委員を各々3名以上選任する(法400条1項、2項)。各委員会の構成員の過半数は社外取締役でなければならない(同条3項)4。また、監査委員となる取締役は、執行役や使用人等でないことが求められる(同条4項)。
そして指名委員会等設置会社では取締役会の決議によって、経営者として業務執行の決定と業務の執行を行う執行役を選任する(法402条1項、2項、図表参照)。
4月20日に掲載した研究員の眼では、監査役会設置会社と監査等委員会設置会社について解説を行ったところだが、東芝は、大企業で採用できるもう一つの機関設計を行っている。それが指名委員会等設置会社である。指名委員会等設置会社では、他の機関設計の会社とは異なる取締役選任議案の決定方式を採用している。すなわち、一般の株式会社では株主総会に付議する取締役選任議案は、当該社の取締役会で決定するが、指名委員会等設置会社では、指名委員会という取締役によって組織される委員会で選任議案の決定を行う。
以下、指名委員会等設置会社について順を追って説明していきたい。
そもそも指名委員会等設置会社は平成14年会社法改正によって、英米型のモニタリングモデルの会社組織を参考にして導入された会社形態である。モニタリングモデルとは、経営者から独立した監督組織である取締役会を設置し、取締役会が経営者の業務執行を監督する会社の形態を指す。
しかし、指名委員会等設置会社は制度設計が厳格すぎたためか結果として普及せず2、より柔軟性のある監査等委員会設置会社制度が導入されることとなったという経緯がある。
指名委員会等設置会社では、監査役は選任されず、株主総会では役員として取締役だけを選任する(329条1項)3。取締役は取締役会を組織し、取締役の中から、指名委員会、報酬委員会、監査委員会の委員を各々3名以上選任する(法400条1項、2項)。各委員会の構成員の過半数は社外取締役でなければならない(同条3項)4。また、監査委員となる取締役は、執行役や使用人等でないことが求められる(同条4項)。
そして指名委員会等設置会社では取締役会の決議によって、経営者として業務執行の決定と業務の執行を行う執行役を選任する(法402条1項、2項、図表参照)。
指名委員会等設置会社における三つの委員会は以下のような権限を有する。
まず、指名委員会は株主総会における取締役選任及び解任に関する議案の決定権限を有する(法404条1項)。上述のように株主総会へ付議する取締役選任議案の決定については、指名委員会に最終的な決定権限がある。
次に、報酬委員会である。指名委員会等設置会社の取締役の報酬については、他の株式会社のように株主総会で決定するのではなく、報酬委員会が個々の取締役(及び執行役)の報酬を定めることとされている(法404条3項)。
そして、監査委員会は執行役や取締役の業務執行の監査を行う(法404条2項1号)。監査の方法は監査役会設置会社とは異なり、会社の内部統制システムに沿って設けられている内部統制所管(監査部や検査部)を通じて監査を行い、これら内部統制所管に指示を出すことで行うことが想定されている5。
指名委員会等設置会社形態が普及しなかった理由はさまざまに言われているが、指名委員会の権限の強さに係る見解が多いようである。この点に関して、(1)そもそも社外取締役自体を経営者が引っ張ってきていることを考えれば、ほぼ経営者の意向通りに決議が行われるため、十分なガバナンスが働かないとの批判がみられる一方で、(2)経営権限の源ともいえる役員人事について社内事情を知らず、社内の人材も知らない社外取締役に握られることで、会社経営の支障となるとの意見も聞かれるところである。
報道によると今回の東芝における混乱には、今後選任される社外取締役が、東芝の分割を検討する特別委員会の構成メンバーとなるということを背景に対立をしている模様である6。そうすると上記(1)(2)のどちらも当てはまらず、主要株主間の利害調節の場になっているとも見える。加えて、指名委員会には主要株主だけではなく、個人株主などの少数株主の利益も考慮すべきことが要請されている。その意味では今回の事案では指名委員会を組織する社外取締役が、会社経営の非常に重要な場面における重たい権限と責任を有する場面があることが明確に示されたと言うことができよう。
1 読売新聞オンライン5月13日 https://www.yomiuri.co.jp/economy/20220513-OYT1T50212/
2 日本取締役協会の調査によれば上場企業のうち85社程度が指名委員会等設置会社形態を選択している。
3 会計参与を選任することもできる。
4 東芝の指名委員会は5名の社外取締役で構成されている。
5 江頭憲治郎「会社法(第8版)」(有斐閣2021年)p592参照。
6 https://news.yahoo.co.jp/articles/c90ac09f104c7ade3ba406a1ddf287c8fd2b32ab 等参照。
まず、指名委員会は株主総会における取締役選任及び解任に関する議案の決定権限を有する(法404条1項)。上述のように株主総会へ付議する取締役選任議案の決定については、指名委員会に最終的な決定権限がある。
次に、報酬委員会である。指名委員会等設置会社の取締役の報酬については、他の株式会社のように株主総会で決定するのではなく、報酬委員会が個々の取締役(及び執行役)の報酬を定めることとされている(法404条3項)。
そして、監査委員会は執行役や取締役の業務執行の監査を行う(法404条2項1号)。監査の方法は監査役会設置会社とは異なり、会社の内部統制システムに沿って設けられている内部統制所管(監査部や検査部)を通じて監査を行い、これら内部統制所管に指示を出すことで行うことが想定されている5。
指名委員会等設置会社形態が普及しなかった理由はさまざまに言われているが、指名委員会の権限の強さに係る見解が多いようである。この点に関して、(1)そもそも社外取締役自体を経営者が引っ張ってきていることを考えれば、ほぼ経営者の意向通りに決議が行われるため、十分なガバナンスが働かないとの批判がみられる一方で、(2)経営権限の源ともいえる役員人事について社内事情を知らず、社内の人材も知らない社外取締役に握られることで、会社経営の支障となるとの意見も聞かれるところである。
報道によると今回の東芝における混乱には、今後選任される社外取締役が、東芝の分割を検討する特別委員会の構成メンバーとなるということを背景に対立をしている模様である6。そうすると上記(1)(2)のどちらも当てはまらず、主要株主間の利害調節の場になっているとも見える。加えて、指名委員会には主要株主だけではなく、個人株主などの少数株主の利益も考慮すべきことが要請されている。その意味では今回の事案では指名委員会を組織する社外取締役が、会社経営の非常に重要な場面における重たい権限と責任を有する場面があることが明確に示されたと言うことができよう。
1 読売新聞オンライン5月13日 https://www.yomiuri.co.jp/economy/20220513-OYT1T50212/
2 日本取締役協会の調査によれば上場企業のうち85社程度が指名委員会等設置会社形態を選択している。
3 会計参与を選任することもできる。
4 東芝の指名委員会は5名の社外取締役で構成されている。
5 江頭憲治郎「会社法(第8版)」(有斐閣2021年)p592参照。
6 https://news.yahoo.co.jp/articles/c90ac09f104c7ade3ba406a1ddf287c8fd2b32ab 等参照。
(2022年05月25日「研究員の眼」)

03-3512-1866
経歴
- 【職歴】
1985年 日本生命保険相互会社入社
2014年 ニッセイ基礎研究所 内部監査室長兼システム部長
2015年4月 生活研究部部長兼システム部長
2018年4月 取締役保険研究部研究理事
2021年4月 常務取締役保険研究部研究理事
2025年4月より現職
【加入団体等】
東京大学法学部(学士)、ハーバードロースクール(LLM:修士)
東京大学経済学部非常勤講師(2022年度・2023年度)
大阪経済大学非常勤講師(2018年度~2022年度)
金融審議会専門委員(2004年7月~2008年7月)
日本保険学会理事、生命保険経営学会常務理事 等
【著書】
『はじめて学ぶ少額短期保険』
出版社:保険毎日新聞社
発行年月:2024年02月
『Q&Aで読み解く保険業法』
出版社:保険毎日新聞社
発行年月:2022年07月
『はじめて学ぶ生命保険』
出版社:保険毎日新聞社
発行年月:2021年05月
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