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「名古屋オフィス市場」の現況と見通し(2022年)

金融研究部 主任研究員 吉田 資
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パーソル総合研究所の「新型コロナウィルス対策によるテレワークへの影響に関する緊急調査」によれば、愛知県におけるテレワーク実施率(2021年8月調査)は20%となった。1回目の緊急事態宣言直後(2020年4月調査)に大きく上昇した後は概ね横ばいである(図表-15)。
また、公益財団法人 名古屋まちづくり公社 名古屋都市センターの調査によれば、「コロナ収束後のオフィスへの理想出社日数」として、テレワークを経験した名古屋の就業者の約8割がコロナ収束後においてもテレワークを取り入れた働き方(テレワークを平日1日以上)を希望している(図表-16)。家族との時間が増えた等のメリットから、今後もテレワークを中心とした働き方を希望する人が増えている模様だ。
リニア中央新幹線の名古屋駅開業に対する期待は大きい。中部圏社会経済研究所「中部圏経済白書2018」によれば、リニア中央新幹線の名古屋駅開業に伴う経済効果は、愛知県で2兆2,738億円(全国で14兆8,204億円)と推計されている。
また、愛知大学三遠南信地域連携研究センターの調査によれば、「リニア中央新幹線後の東海道地域への影響」について、「影響がでる」(「大きな影響がでる」と「多少影響がでる」の合計)との回答が5割弱を占めた(図表-18)。「影響の内容」について、「観光による人の動き」(74%)との回答が最も多く、次いで「新規企業の誘致・企業」(51%)が多かった(図表-19)。企業誘致の活発化等、オフィス需要にプラスの効果が期待されている。
栄にある市有地「栄広場」と隣接エリアを合わせた地区(錦三丁目25番街区)では、上記の制度を活用した複合ビル(延床面積約11万m2)の開発が計画されており、2026年春に竣工予定である5。地上41階、地下4階建てで、高さは約213メートルとなり、名古屋テレビ塔(約180メートル)を超え、栄地区では最も高いビルとなる。
一方、リニア中央新幹線の工事を巡っては、静岡県が大井川の流量に影響を与えるとして静岡工区の工事に反対しており、当初予定の2027年度中の開業は困難な状況になっている6。
また、名古屋鉄道は、名古屋駅機能の整備と駅周辺地区の再開発(「名鉄名古屋駅地区再開発事業」)を計画している。駅機能の整備は2030年頃を目途に完了させたい意向を示しているが、「名鉄名古屋駅地区再開発事業」の着工は、新型コロナウィルス感染拡大に伴うテナント需要の変化を見極めるため、当初予定の2022年から延期し、2024年度を目途に計画内容を決める方針としている7。
リニア中央新幹線の開業工事や、リニア開業を見据えた再開発事業の先行きに不透明感が増しており、その動向を注視していく必要がある。
5 名古屋市「(仮称)錦三丁目25番街区計画の都市計画提案の提出について」
6 日経産業新聞「JR東海、リニア投資13%減、23年3月期計画は3750億円。」2022/4/1
リニア中央新幹線計画関連の設備投資(2022年度)は、3750億円(前年比▲13%)。用地取得が一段落したことに加え、外環道のトンネル掘削工事での陥没事故を受け、リニア中央新幹線の工事スピードを抑えていることが影響。
7 中部経済新聞「名鉄、名駅再開発30年完成へ 高崎社長 駅機能整備を優先 東区に最高級マンションも」2021/6/26
名古屋のオフィスビルの新規供給は、2018年以降、限定的な状況が継続していた(図表-21)。
2021年は、「名古屋三井ビルディング北館」、「丸の内Oneビルディング」、「BIZrium名古屋」、「関電不動産伏見ビル」等、大規模ビルの竣工が相次ぎ、新規供給面積は18,500坪に達し、4年ぶりに1万坪を超えた(図表-21)。
2022年は、1月に「アーバンネット名古屋ネクスタビル」、3月に「名古屋ビルディング桜館」が竣工し、新規供給面積は約12,000坪となる予定である。その後も、2023年に「(仮)名駅4丁目OTプロジェクト」や「中日ビル」、2024年に「(仮)名古屋丸の内一丁目計画」、「(仮)第2名古屋三交ビル」等、大規模ビルの竣工が複数予定されており、2023年と2024年の新規供給は1万坪超える見通しである。
前述の新規供給見通しや経済予測 、オフィスワーカーの見通し等を前提に、2026年までの名古屋のオフィス賃料を予測した(図表-22)。
名古屋市では、人口の流入超過が継続しているもののその勢いは鈍化している。コロナ禍が東海地方の「企業の経営環境」と「雇用環境」に与えたダメージが残り、本格的な回復に至っていない。また、「在宅勤務」を取り入れた働き方が定着し、ワークプレイスの見直しが進んでいる。リニア中央新幹線の開業時期および開業を見据えた再開発の進捗にも先行き不透明感が増している。以上を鑑みると、名古屋のオフィス需要は当面弱含み、空室率は緩やかに上昇する見込みである。
名古屋のオフィス成約賃料は、空室率の上昇に伴い、下落基調で推移すると予想する。2021年の賃料を100とした場合、2022年は「98」、2026年には「90」へと下落する見通しである。ただし、ピーク(2019年)対比で▲12%下落するものの、2017 年の賃料水準「87」を上回り、リーマンショック後のような大幅な賃料下落には至らない見通しである。
(ご注意)本誌記載のデータは各種の情報源から入手・加工したものであり、その正確性と安全性を保証するものではありません。また、本誌は情報提供が目的であり、記載の意見や予測は、いかなる契約の締結や解約を勧誘するものではありません。
(2022年05月17日「不動産投資レポート」)
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03-3512-1861
- 【職歴】
2007年 住信基礎研究所(現 三井住友トラスト基礎研究所)
2018年 ニッセイ基礎研究所
【加入団体等】
一般社団法人不動産証券化協会資格教育小委員会分科会委員(2020年度~)
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