2022年05月13日

東京オフィス市場は賃料下落が継続。住宅価格はさらに上昇-不動産クォータリー・レビュー2022年第1四半期

金融研究部 不動産調査室長 岩佐 浩人

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1. 経済動向と住宅市場

国内経済は、四半期ごとにプラス成長とマイナス成長を繰り返す一進一退の動きとなっている。5/18に公表予定の2022年1-3月期の実質GDPは前期比年率▲2.1%と2四半期ぶりにマイナス成長になったと推計される1。まん延防止等重点措置の影響で対面型サービスを中心に民間消費が減少したことに加えて、財貨・サービスの輸入が輸出の伸びを上回ったため外需がマイナスに寄与した。また、資源価格高騰に伴う交易条件の悪化により海外への所得流出が続くなか、足もとの円安進行により交易利得の悪化幅はさらに拡大する見込みである。

経済産業省によると、1-3月期の鉱工業生産指数は前期比+0.8%と2四半期連続で増産となったが、持ち直しのペースは緩やかである(図表-1)。半導体不足などから生産調整の続く自動車についても2四半期連続で増加したが、21年4-6月期と比べて1割以上低い水準にある。

ニッセイ基礎研究所は、3月に経済見通しの改定を行った。実質GDP成長率は2022年度+2.1%、2023年度+1.7%を予想する(図表-2)2。ロシアのウクライナ侵攻を受けて2022年度の成長率見通しを前回より▲0.4%下方修正した。新型コロナの感染動向とその対応策に関して不確実性が高く、ウクライナ情勢の深刻化によって世界経済全体が急減速する可能性もあり、日本経済は当面下振れリスクの高い状態が続く見通しである。
図表-1 鉱工業生産(前期比)/図表-2 実質GDP成長率の推移(年度)
住宅市場では、価格がさらに上昇するなか、マンションの新規発売戸数や成約件数は前年同期比で2桁の減少となった。2022年3月の新設住宅着工戸数は13カ月連続増加の76,120戸(前年同月比+6.0%)、1-3月累計では約20.0万戸(前年同期比+4.9%)となった(図表-3)。着工戸数はコロナ禍による落ち込みを脱し回復基調にあるものの、今後は建築コスト上昇の影響などを注視する必要がある。
図表-3 新設住宅着工戸数(全国、暦年比較)
2022年3月の首都圏のマンション新規発売戸数は2,492戸(前月同月比▲19.7%)、1-3月累計では5,907戸(前年同期比▲11.5%)とやや低調であった(図表-4)。3月の1戸当たりの平均価格は6,518万円(前年同月比+3.0%)、m2単価は97.6万円(+4.4%)、初月契約率は75.2%(+1.6%)、販売在庫は5,881戸(前年比▲1,476戸)となった。
図表-4 首都圏のマンション新規発売戸数(暦年比較)
東日本不動産流通機構(レインズ)によると、2022年3月の首都圏の中古マンション成約件数は3,405件(前年同月比▲19.5%)、1-3月累計では9,311件(前年同期比▲17.6%)となり3四半期連続で減少した(図表-5)。全ての地域で成約件数が前年同期比マイナスとなる一方で、成約㎡単価はプラスとなった。
図表-5 首都圏の中古マンション成約件数(12カ月累計値)
また、日本不動産研究所によると、2022年2月の住宅価格指数(首都圏中古マンション)は20カ月連続で上昇し、過去1年間の上昇率は+11.9%となった(図表-6)。
図表-6 不動研住宅価格指数(首都圏中古マンション)

2. 地価動向

地価は回復傾向にある。国土交通省の「地価LOOKレポート(2021年第4四半期)」によると、全国100地区のうち上昇が「55」、横ばいが「28」、下落が「17」となり、上昇地区が過半を超えた(図表-7)。同レポートでは、「住宅地はマンションの販売状況が堅調で上昇地区が増加し、商業地についても法人投資家等による取引の動きが見られる地区で横ばい又は上昇に転じた」としている。
図表-7 全国の地価上昇・下落地区の推移
また、野村不動産ソリューションズによると、首都圏住宅地価格の変動率(4月1日時点)は前期比+1.9%(年間+7.0%上昇)となり7四半期連続でプラスとなった。「値上がり」地点の割合は49.1%(前回42.6%)、「値下がり」地点の割合は0%(前回0%)となった。引き続き、堅調な住宅取得ニーズを背景に、住宅地価格は上昇している(図表-8)。
図表-8 首都圏の住宅地価格(変動率、前期比)

3. 不動産サブセクターの動向

3. 不動産サブセクターの動向

(1) オフィス
三鬼商事によると、2022年3月の東京都心5区の空室率は6.37%(前月比▲0.04%)、平均募集賃料(月坪)は20カ月連続下落の20,366円(前月比▲0.2%)となった。オフィス市場は調整局面が継続しているものの、前年比でみた空室率の悪化幅や賃料の下落率は着実に縮小している。他の主要都市をみると空室率は上昇基調にあるものの(図表-9)、募集賃料は大阪と仙台を除いて前年比プラスを維持している3
図表-9 主要都市のオフィス空室率
三幸エステート公表の「オフィスレント・インデックス」によると、2022年第1四半期の東京都心部Aクラスビル賃料(月坪)は3期連続で下落し29,185円(前期比▲4.9%)となった(図表-10)。Aクラスビル賃料の3万円割れは2014年第2四半期以来のことである。

また、日経不動産マーケット情報(2022年4月号)によると、「来年4月までに竣工する全14棟4のテナント内定率は31%で、このうち7棟は調査時点でテナントが決まっていない」としており、新築ビルのリーシング進捗は鈍い動きとなっている。

ニッセイ基礎研究所は、東京都心Aクラスビル市場の見通しを2月に発表した5。「今後5年間の空室率は2023年と2025年の大量供給の影響を受けて2026年には6%まで上昇し、成約賃料についても6%程度下落する」見通しである。東京オフィス市場は来年に大量供給を控えるなか、アフターコロナを見据えたオフィス出社率やオフィス戦略の再構築など、需要サイドの動向を注視したい。
図表-10 東京都心部Aクラスビルの空室率と成約賃料
 
3 2022年3月時点の平均募集賃料は、前年比で、札幌(+0.5%)・仙台(▲0.8%)・東京(▲5.5%)・横浜(+0.5%)・名古屋(+1.6%)・大阪・(▲0.2%)・福岡(+1.8%)となっている。
4 東京23区内にある延べ床面積1万m2以上の賃貸オフィスビルを対象
5 吉田資『東京都心部Aクラスビル市場の現況と見通し(2022年2月時点)』(ニッセイ基礎研究所、不動産投資レポート、2022年2月21日)
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金融研究部   不動産調査室長

岩佐 浩人 (いわさ ひろと)

研究・専門分野
不動産市場・投資分析

経歴
  • 【職歴】
     1993年 日本生命保険相互会社入社
     2005年 ニッセイ基礎研究所
     2019年4月より現職

    【加入団体等】
     ・一般社団法人不動産証券化協会認定マスター
     ・日本証券アナリスト協会検定会員

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