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- 霧の中のGDP~経済ショック時のGDP速報をどう捉えるか~
4――諸外国におけるオルタナティブGDP速報
QNA速報には各国の代表的な系列に加え、他の面が公表されている(図表6)。なお、日本においては、現在、GDIの内訳である雇用者報酬が公表されているが、GDPO及びGDIの公表が統計政策上の課題とされ、開発・公表が急がれている。
アメリカでは、GDPの代表系列はGDEであるが、2015年7月よりGDEとGDIの平均値を公表している。この背景には、先行研究(Holdren [2014]、Fixler and et al [2021]7等)で示されたように、2つの集計値の平均値が、基礎統計における経済活動の把握時期のずれや基礎資料の違いによる両者の不整合な結果を削減し、より経済実態を反映するケースがみられると指摘している。
また、オーストラリアのQNA速報は極めて特殊な形態といえる。代表系列は3面で計測されたGDE、GDPO及びGDIの平均値(GDP(A)と表記される)とされている。この考え方の背景には、三面のQNAの各々独立した推計値に同じ程度の計測誤差があり、計測誤差が互いに無相関である場合には、平均値の計測誤差の分散は個々の推計値の分散の3分の1になることが期待されることがある。このため、GDE、GDPO及びGDIのみの集計値のいずれかよりも信頼性の高い活動の測定値であると推測できる。Aspden [1990]は1974年7-9月期から1990年1-3月期までの期間について、3つの集計値とその平均値との関係について検討し、3つの集計量の単純平均値によりある程度相殺されるとしている。
7 Fixler et al. [2021] では、GDPとGDIの平均は、個々のGDPおよびGDIと比較して、MARs (Mean Absolute Revisions) が小さいか等しいという意味で、個々のGDPおよびGDIよりも信頼性の高い経済活動の指標であるとしている。
8 四半期ベースの雇用者報酬は国内ベースではなく国民ベースの数値であることから、GDPと捕捉範囲が異なっている。
オーストラリアでは、四半期GDPのHeadlineにトレンド値と季節調整値の成長率を用いている(図表10)。オーストラリア統計局のGDPのMethodology(2021)によれば、不規則な要因が大きい場合、トレンド推定値も改定される可能性が高い。しかし、その影響は季節済調整値の方が大きくなる可能性が高いとみてトレンド推定値を提供しているとのことである。ここでは、X12-ARIMAの初期設定をもとに、各期の実質原系列GDP(リアルタイムベース)から不規則成分を推計し、公表されている季節調整値から推計したトレンド推定値を算出する9。 また、トレンド推定値の推計では、経済ショック経過後にはショックを認識して推定値に織り込むと考えられる。本論ではそれぞれのショックがある程度経過した時点での推定結果について補図表として掲載している。
9 季節調整の方法には、集計値に直接季節調整を行う直接法と、その内訳の構成項目をそれぞれ季節調整し、それらを集計する間接法の2種類がある。現行の四半期GDPは間接法が用いられている。
5――まとめ
経済ショックは事前には想定できない。ショックを緩和しショック以前の状況に回復させるためには適切な政策が持続的に実施されることが必要となる。しかしながら、回復の速度を誤って判断すると、政策的なサポートが軽減あるいは中止される可能性がある。
この点について、日本を含む諸外国のGDP速報は、平時に比べ経済ショック時には変動性及び改定が大きくなる傾向にある。特に、日本は諸外国の2倍程度の大きさとなっており、諸外国と比較してブレが大きい。日本においても、諸外国と同様に、オルタナティブなGDP速報の公表を急ぐべきである。
(参考文献)
- Aspden C (1990), ‘Which is the Best Short-term Measure of Gross Domestic Product? A Statistical Analysis of the Short-term Movements of the Three Measures of Gross Domestic Product and their Average,’ ABS Cat No 5206.0, June.
- ABS (Australian Bureau of Statistics)(2021), “Australian National Accounts: National Income, Expenditure and Product methodology”
- Fixler, D.J., Eva de Francisco D. Kanal, (2021) “The Revisions to GDP, GDI, and Their Major Components,” Survey of Current Business 101(January 2021).
- Holdren, A.E., (2014) “Gross Domestic Product and Gross Domestic Income: Revisions and Source Data,” Survey of Current Business 94 (June 2014).
- Jacobs, J., Sarferaz, Sturm and Norden, (2020),” Can GDP measurement be further improved? Data revision and reconciliation,” Journal of Business & Economic Statistics, VOL. 40, NO. 1, 423–431.
- Jordà, J., Noah Kouchekinia, Colton Merrill, and Tatevik Sekhposyan (2020), “The Fog of Numbers,” FRBSF Economic Letter, 2020-20, July 15, 2020.
- Manski, C. F. (2015) “Communicating Uncertainty in Official Economic Statistics: An Appraisal Fifty Years after Morgenstern,” Journal of Economic Literature 53 (September): 631–653.
- 小巻泰之(2020)「精度向上を重視すれば四半期GDP成長率のブレは大きくなる~GDPの信頼性に関する報道から~」,東京財団政策研究所『政策データウォッチ(25)』,2020年3月10日.
- 小巻泰之(2015)『経済データと政策決定~速報値と確定値の間の不確実性を読み解く』,日本経済新聞出版社,314ページ,2015年5月13日.
- 鈴木俊光(2020)「わが国における分配側四半期別GDP 速報の導入に向けた検討状況」,内閣府経済社会総合研究所「季刊国民経済計算」第166 号
- 内閣府経済社会総合研究所(2017),「「統計改革の基本方針」のうち国民経済計算の加工・推計手法の改善等に係る対応方針について」,統計委員会第3回国民経済計算体系的整備部会,平成29年4月19日.
- 野木森稔(2011)「先進主要国の生産アプローチに基づく四半期GDPの特徴とその位置づけ -日本での導入に向けてのサーベイ」内閣府経済社会総合研究所『季刊国民経済計算』No.146
- 山本龍平(2011)「分配側GDP 推計の各国における実施状況とわが国における対応― わが国における分配側GDP 四半期推計の試算について ―」内閣府経済社会総合研究所『季刊国民経済計算』No.146
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小巻 泰之
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(2022年05月09日「基礎研レポート」)
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