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デイサービス車両は高齢者の移動を支える「第三の交通網」を形成できるか(中)~群馬県発「福祉ムーバー」の取組から~

生活研究部 准主任研究員・ジェロントロジー推進室兼任 坊 美生子
高齢化によって、要介護者や身体障がい者は増加しているが、移動サービスは供給不足。
遠藤氏: 私は全国移動サービスネットワーク(全国移動ネット)の理事を2006年に拝命しました。全国移動ネットの会員数は200団体で、その多くは福祉有償運送を行っています。理事は45人います。私自身は、大阪府茨木市でNPO法人アクティブネットワークの代表をしています。北嶋さんのところとは全然規模が違いますが、在宅の介護保険サービスや自家用有償旅客運送を行っています。ライフワークは自家用車を使った移動支援です。
まず高齢者向けの移動サービスの歴史を説明したいと思います。始めに、介護保険の動きから紹介します。私は介護保険制度が始まった2000年から介護保険事業に従事していますが、当時、訪問介護のヘルパーが自らのマイカーを使って利用者の自宅から病院まで送迎する「通院介助」が全国的に大流行していました。利用者にとっては、馴染みのヘルパーさんが付き添ってくれるので安心だし、利用料も実質1割負担と低額でした(図表1)。
介護事業者にとっては、当時「身体介護」区分のサービスとして1時間4,300円の介護報酬を請求できたので、時間がかかるほど、高額の報酬を受け取れる。だから混んでいる年末に総合病院まで付き添い、利用者の家に迎えに行ってから帰るまで10時間かかると、事業者は1日で43,000円請求できるという、非常に実入りの良いサービスだった訳です。当時、訪問介護事業所へ行くと、駐車場に軽自動車が20~30台並んでいて、逆に、従来のタクシー会社も、運転手にヘルパーの資格をとらせて訪問介護事業所として通院送迎をやるという形態もありました。
ところが、2006年に道路運送法が改正され、ヘルパーがマイカーを使って通院送迎する場合には、道路運送法に基づく許可や登録が必要と周知されました。介護保険の運用に関しても、厚生労働省から通知が出され、1時間4,300円の区分が適用されなくなりました。それを機に、結論から言うと、通院送迎は一気に萎んでいきました。
いろんな側面があって法的整備が進んだのですが、私の印象としては、保険者である自治体が、「何でタクシー代を介護保険財政で支給しないといけないのか」と反対したのが個人的には大きな引き金だったかと思います。
同じ頃、自家用自動車を用いた有償の輸送として初めて認められた「自家用有償旅客運送」制度も設けられました。公共交通の無い交通空白地や、障害者など公共交通を利用できない人が対象である場合に限って、自治体やNPOなどに実施が認められた、例外的な制度です。2020年法改正で、交通空白地有償運送と福祉有償運送の2種類に整理されましたが、2006年の制度開始から15年、運営団体数はいずれもほぼ横ばいです(図表2)。車両数は2016年をピークに減少しています(図表3)。
一方、福祉有償運送へのニーズを持つ対象者数はどうかと言うと、高齢化を背景に、要介護者や要支援者、障がい者数は当然増えているのですが、供給する団体数が伸びていない(図表4、5)。次に、目的地まで送迎してくれるタクシーの供給量を見ると、法人、個人とも減少しています(図表6)。4条の介護タクシー(福祉有償限定)だけは若干、右肩上がりですが、全体を合計すると減少のトレンドです。
以上のように、道路運送法に基づく高齢者向けの移動サービスが不足している現状において、全国移動ネットが最近、力を入れているのは、道路運送法の許可・登録が不要なボランティアドライバーによる助け合いの活動です。全国的に、ニーズが高まっているからです。
1 2015年の介護保険制度改正によって新設された「訪問型サービスD」は、通院や日常の買物の付き添い支援として行う移送前後の生活支援サービスで、厳密には移送サービスではない。
これまでの公共交通には合わない、移動に付き添いや介助を必要とする需要層が地域に染み出している。
「交通と福祉との連携」ということも、この頃から盛んに言われるようになってきました。2015年度以降、介護保険制度の新しい総合事業の中に「訪問型サービスD」という移動支援のメニューが設けられ、そういうものとも連携していけよ、という話が出てきました。
今、なぜこの助け合いの移動支援が推進されているかということですが、これまで見て頂いた通り、高齢者や要介護者が利用しやすい福祉有償や個別輸送の供給が減少しているのに対して、需要は、確実に増え続けているからではないでしょうか。
実は、これまでの公共交通にも自家用有償旅客運送にもマッチしていない、移動に他人の付き添いや介助を必要とする需要層が、もしかして出現しているのではないか。結果的に、そのような需要が地域に染み出し、あふれている。それに一番敏感な住民の方々が危機意識を持ち、送迎のボランティア活動に突き動かされているのではないか、というのが個人的な印象です。
この流れが進めば、今後、地域を走行する白ナンバーは、自分や家族の移動だけではなく、他人を運ぶ自家用車が多数を占めるという時代が到来するのではないか。もはや、白ナンバーの自家用自動車も、一つの社会資源という捉え方が必要なのではないかと思っています。
坊: たくさんの話題を提供して頂きましたが、高齢化によって、これまでの交通サービスとはマッチしない、移動に他人の付き添いや介助が必要な需要層が出現し、地域に染み出てきているのではないかというご指摘は、とても大きい話だと思いました。まさに、その需要層を対象として、これまでの公共交通とも自家用有償旅客運送とも違う介護業界から出てきたのが福祉ムーバーです。介助の知識と技術を持って、要介護者や要支援の高齢者たちを運ぼうという挑戦です。遠藤さんは、同じ介護事業を運営されるお立場で、この新たな取組をどのように受け止められましたか。

また、介護事業者の立場で言うと、事業所にとって送迎コストが半分になるなら、ほとんどのデイは参加するのではないかと感覚的に思います。
これは話題提供になりますが、うちも以前、旅行業でバリアフリーのツアーをやっていたことがありました。対象は、地域の在宅有料老人ホームにお住まいの要介護者です。潜在需要は本当に大きいと感じました。有料老人ホームの老人はお金を使うところがないから、バリアフリーのツアーにたくさん申込がありました。それでも、広告料が紙媒体で高く、利用者一人に対して介助者一人付き添ったことから、採算が合わず、多額の費用をかけた割に大失敗してしまったのですが。広告料については今の時代ならアプリで解決できるのかもしれませんが。
2 国土交通省(2017)「高齢者の移動手段の確保に関する検討会 中間とりまとめ」(2017年6月)
「緑ナンバーか白ナンバー」という道路運送法の二元論的な整理に無理が生じ始めている
遠藤さんのご説明で、介護保険制度が始まった当初は、ヘルパーがマイカーで通院送迎をやっていたが、請求金額が膨らみ、市町村から見ると「何でそんなことに介護保険の金をかけないといけないのか」といって反発が起きた、というのは、その時代の移動支援に対する意識を象徴しているように思います。
当時は移動支援を必要としている要介護者、要支援者もまだ少数で、介護予防としての外出支援の意義に対する理解も現在ほど進んでおらず、「何で公費でタクシー代を出さないといけないのか」というような受け止めだった。それが今では、高齢化が進み、移動支援を必要としている層が地域にどんどん増えている。でも、そういう人が気軽に利用できる乗り物がない。
また、デイサービスの送迎車両については、現状では独自の対価を取っていないことから、無料送迎とみなされ、道路運送法上も白ナンバーでOKという扱いですが、実際には、送迎をしないと介護報酬を減算処理されるから、実態としては有償なサービスです。道路運送法の「緑か白」という二元論的な整理にも、無理が生じているとも言えるのではないでしょうか。
(2022年04月27日「ジェロントロジーレポート」)
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03-3512-1821
- 【職歴】
2002年 読売新聞大阪本社入社
2017年 ニッセイ基礎研究所入社
【委員活動】
2023年度~ 「次世代自動車産業研究会」幹事
2023年度 日本民間放送連盟賞近畿地区審査会審査員
坊 美生子のレポート
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