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- 取引DPF消費者保護法の解説-販売事業者情報の開示
2022年04月25日
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1――はじめに
2021年第204回通常国会で「取引デジタルプラットフォームを利用する消費者の利益の保護に関する法律(取引DPF消費者保護法、以下単に法という)」が可決・成立、公布された。施行は2022年5月1日である。
2020年に成立した「特定デジタルプラットフォーム透明化及び公正性の向上に関する法律(DPF透明化法)」1は、デジタルプラットフォーム提供者が、プラットフォームに参加する事業者や消費者に対して、その取引方法を開示すべきことを定めた法律である。この開示によりデジタルプラットフォーム提供者による独占禁止法に抵触しかねない行為を未然に防止するとともに透明性の高い取引が行われるようにすることを目的とする(図表1)。
2020年に成立した「特定デジタルプラットフォーム透明化及び公正性の向上に関する法律(DPF透明化法)」1は、デジタルプラットフォーム提供者が、プラットフォームに参加する事業者や消費者に対して、その取引方法を開示すべきことを定めた法律である。この開示によりデジタルプラットフォーム提供者による独占禁止法に抵触しかねない行為を未然に防止するとともに透明性の高い取引が行われるようにすることを目的とする(図表1)。
今回制定された法は、デジタルプラットフォームを通じて販売業者が通信販売を行っていることに着目し、デジタルプラットフォームに一定の義務を課すこととするものである。このことにより販売業者と消費者の間に円滑に取引が行われ、苦情発生時における適正な対応が行われるようにするものである。
法の内容はいたってシンプルであり、(1)法の目的や定義規定(下記2の1|)に加え、(2)取引DPF提供者の取引の適正化・紛争解決促進のための措置義務(下記2の2|)、(3)内閣総理大臣(消費者庁長官へ委任)による利用停止等にかかる要請(下記2の3|)、(4)消費者による販売業者等情報の開示請求(下記2の4|)、(5)官民協議会の設置(下記2の5|)である(図表2)。
法の内容はいたってシンプルであり、(1)法の目的や定義規定(下記2の1|)に加え、(2)取引DPF提供者の取引の適正化・紛争解決促進のための措置義務(下記2の2|)、(3)内閣総理大臣(消費者庁長官へ委任)による利用停止等にかかる要請(下記2の3|)、(4)消費者による販売業者等情報の開示請求(下記2の4|)、(5)官民協議会の設置(下記2の5|)である(図表2)。
2――法の概要
ここで(1)について、引用されているDPF透明化法の条文は複雑であるが、簡略化して言うと、デジタルの場であって、両面ネットワーク効果2を有するものを指すとされている。
ちなみにすでに施行されているDPF透明化法ではこのようなデジタルプラットフォーム提供者のうち、一定規模以上のものだけを指定して法律を適用することとされている。現在指定されているのはAmazon(Amazon.com)、楽天(楽天市場)、Yahoo!(Yahoo!ショッピング) Apple・iTunes(App Store)、Google(Google Play)である3。他方、今回施行される法では規模基準はなく、小規模のものにも適用される。
(2)のほうはi)プラットフォーム上の販売業者等が特定商取引法4の通信販売業者に該当する(法2条4項で定義)こと、かつii)契約の申込み等ができる機能を有していることが必要である。
ここで販売業者等が通信販売業者、すなわち事業者に限定されているのは、これら事業者が特定商取引法において消費者保護の責任が課されているからという説明がなされている5。
このような(1)と(2)の要件を満たす取引デジタルプラットフォームを、事業として単独または共同して提供する者を、取引デジタルプラットフォーム提供者と定義している(同条2項、以下取引DPF提供者という)。国会での参考人発言によると上記で述べたデジタルプラットフォームに加え、出前館やウーバーイーツ、宿泊予約サイト、対価性のあるクラウンディングサイトも該当することとなる6。
同条では上に述べた販売事業者等の定義のほか、消費者も定義されている。消費者は個人であって、事業を行う場合を除くとされている。つまり個人事業主が事業のために取引を行う場合は法の適用外となる。
2 両面ネットワーク効果とはプラットフォームの片方(たとえば売り手側)の数が増加することが、もう片方(買い手側)の数を増加させる影響を及ぼすことなどを指す。
3 https://www.meti.go.jp/policy/mono_info_service/digitalplatform/consumer.html 参照
4 特定商取引法における通信販売業者とは郵便やウェブ経由の申込みを受けて物品や役務を販売する事業者であって、電話勧誘を行わないものを指す(特定商取引法2条2項)。
5 第294回国会衆議院消費者問題に関する特別委員会議録第5号、坂田政府参考人発言
6 前掲注5と同じ
ちなみにすでに施行されているDPF透明化法ではこのようなデジタルプラットフォーム提供者のうち、一定規模以上のものだけを指定して法律を適用することとされている。現在指定されているのはAmazon(Amazon.com)、楽天(楽天市場)、Yahoo!(Yahoo!ショッピング) Apple・iTunes(App Store)、Google(Google Play)である3。他方、今回施行される法では規模基準はなく、小規模のものにも適用される。
(2)のほうはi)プラットフォーム上の販売業者等が特定商取引法4の通信販売業者に該当する(法2条4項で定義)こと、かつii)契約の申込み等ができる機能を有していることが必要である。
ここで販売業者等が通信販売業者、すなわち事業者に限定されているのは、これら事業者が特定商取引法において消費者保護の責任が課されているからという説明がなされている5。
このような(1)と(2)の要件を満たす取引デジタルプラットフォームを、事業として単独または共同して提供する者を、取引デジタルプラットフォーム提供者と定義している(同条2項、以下取引DPF提供者という)。国会での参考人発言によると上記で述べたデジタルプラットフォームに加え、出前館やウーバーイーツ、宿泊予約サイト、対価性のあるクラウンディングサイトも該当することとなる6。
同条では上に述べた販売事業者等の定義のほか、消費者も定義されている。消費者は個人であって、事業を行う場合を除くとされている。つまり個人事業主が事業のために取引を行う場合は法の適用外となる。
2 両面ネットワーク効果とはプラットフォームの片方(たとえば売り手側)の数が増加することが、もう片方(買い手側)の数を増加させる影響を及ぼすことなどを指す。
3 https://www.meti.go.jp/policy/mono_info_service/digitalplatform/consumer.html 参照
4 特定商取引法における通信販売業者とは郵便やウェブ経由の申込みを受けて物品や役務を販売する事業者であって、電話勧誘を行わないものを指す(特定商取引法2条2項)。
5 第294回国会衆議院消費者問題に関する特別委員会議録第5号、坂田政府参考人発言
6 前掲注5と同じ
これらが法的義務ではなく、努力義務にとどまっているのは多様な取引DPF提供者がいて、販売事業者等との関係も濃淡があるためと説明されている。
これらの措置を講じたときには、取引DPF提供者は講じた措置の概要、措置の実施状況、その他講じた措置の概要・実施状況を、消費者のPC・スマホ等で常に容易に閲覧できるように明確かつ平易な表現で掲載する必要がある(法3条2項、規1条、2条)。
これらの措置の適切かつ有効な実施に資するために、内閣総理大臣は指針を策定することとなっている(法3条3項)7。指針を定め、または変更した場合は遅滞なく公表する(同条4項)。3項、4項に関する権限は内閣総理大臣自身が行使する(法11条)。
7 正式名称は「取引デジタルプラットフォームを利用する消費者の利益の保護に関する法律第3条第3項に基づき取引デジタルプラットフォーム提供者が行う措置に関して、その適切かつ有効な実施に資するために必要な指針」である。
これらの措置を講じたときには、取引DPF提供者は講じた措置の概要、措置の実施状況、その他講じた措置の概要・実施状況を、消費者のPC・スマホ等で常に容易に閲覧できるように明確かつ平易な表現で掲載する必要がある(法3条2項、規1条、2条)。
これらの措置の適切かつ有効な実施に資するために、内閣総理大臣は指針を策定することとなっている(法3条3項)7。指針を定め、または変更した場合は遅滞なく公表する(同条4項)。3項、4項に関する権限は内閣総理大臣自身が行使する(法11条)。
7 正式名称は「取引デジタルプラットフォームを利用する消費者の利益の保護に関する法律第3条第3項に基づき取引デジタルプラットフォーム提供者が行う措置に関して、その適切かつ有効な実施に資するために必要な指針」である。
3|取引DPF提供者の利用の停止等にかかる要請
内閣総理大臣(消費者庁長官へ委任)は、以下の要件を満たす場合であって、消費者の利益を害するおそれがあるときには取引DPF提供者に対して、商品・役務の取引DPF利用の停止等を要請することができる(法4条1項)。具体的には(1)規則で定める重要事項(後述)について、著しく事実と相違した表示であること、または実際のものより著しく優良・有利であると人を誤認させる表示であると認められ、かつ(2)表示をした販売業者等が特定できないか、所在が明らかでなく、販売業者等による表示を是正することが期待できないときである。
ここでいう規則で定める重要事項としては、i)商品・役務の安全性の判断に資する事項、ii)商品・役務・販売事業者等の事業への国、地方公共団体、著名法人、著名人の関与、iii)商品の原産地、製造地、商標または製造者名、iv)商品等にかかる許可、免許、資格、登録または経験を証する事項、v)その他の消費者の判断に通常影響を及ぼす事項とされている(規3条)。
内閣総理大臣が要請を行ったときは公表することができる(法4条2項)。内閣総理大臣からは命令ではなく、要請にとどまり、強制力はない。ただ、取引DPF提供者が利用停止したことにより販売事業者等に生じた損害について、取引DPF提供者は責任を負わない(同条3項)。
このような要請が行われる前提として、何人も消費者利益が害されるおそれがあると認めるときは内閣総理大臣に適当な措置を取るよう求めることができる(法10条1項)とされ、この場合、内閣総理大臣は必要な調査を行い、適当な措置を取らなければならない(同条2項)。
内閣総理大臣(消費者庁長官へ委任)は、以下の要件を満たす場合であって、消費者の利益を害するおそれがあるときには取引DPF提供者に対して、商品・役務の取引DPF利用の停止等を要請することができる(法4条1項)。具体的には(1)規則で定める重要事項(後述)について、著しく事実と相違した表示であること、または実際のものより著しく優良・有利であると人を誤認させる表示であると認められ、かつ(2)表示をした販売業者等が特定できないか、所在が明らかでなく、販売業者等による表示を是正することが期待できないときである。
ここでいう規則で定める重要事項としては、i)商品・役務の安全性の判断に資する事項、ii)商品・役務・販売事業者等の事業への国、地方公共団体、著名法人、著名人の関与、iii)商品の原産地、製造地、商標または製造者名、iv)商品等にかかる許可、免許、資格、登録または経験を証する事項、v)その他の消費者の判断に通常影響を及ぼす事項とされている(規3条)。
内閣総理大臣が要請を行ったときは公表することができる(法4条2項)。内閣総理大臣からは命令ではなく、要請にとどまり、強制力はない。ただ、取引DPF提供者が利用停止したことにより販売事業者等に生じた損害について、取引DPF提供者は責任を負わない(同条3項)。
このような要請が行われる前提として、何人も消費者利益が害されるおそれがあると認めるときは内閣総理大臣に適当な措置を取るよう求めることができる(法10条1項)とされ、この場合、内閣総理大臣は必要な調査を行い、適当な措置を取らなければならない(同条2項)。
4|販売業者等情報の開示請求
取引DPFを利用する消費者は、通信販売に係る商品・役務について一定額以上の金銭債権を行使するために販売事業者等の情報(販売事業者等情報)の確認を必要とするときには、取引DPF提供者に対して、販売事業者等情報の開示を請求することができる。ただし、販売業者等の信用棄損などの不正な目的である場合はこの請求はできない(法5条1項)。
ここで一定額とは1万円とされ(規4条)、販売事業者等情報とは、(1)氏名及び名称、(2)住所、(3)電話番号、(4)ファクシミリ番号、(5)電子メールアドレス、⑥法人の場合は法人番号である(規5条)。
販売事業者情報の開示を請求しようとする消費者は、i)販売事業者等情報の確認を必要とする理由、ii)開示対象となる販売事業者等情報の項目、iii)不正の目的でないことを誓約する旨を書面または電子的方法(メール若しくは取引DPF提供者のお問い合わせフォームなど)により提出または提供しなければならない(法5条2項、規6条)。
開示請求を受けた取引DPF提供者は、その請求が不正の目的でないと思料するときは、販売事業者等と連絡を取れない場合を除き、販売事業者等の意見を聴かなければならない(法5条3項)。この意見聴取で、販売事業者等から開示に反対する意見が出たからと言っただけでは開示をしない理由にはならない。開示をした結果として、販売事業者等に損害が生じても取引DPF提供者は賠償責任を負わない(図表5)。
取引DPFを利用する消費者は、通信販売に係る商品・役務について一定額以上の金銭債権を行使するために販売事業者等の情報(販売事業者等情報)の確認を必要とするときには、取引DPF提供者に対して、販売事業者等情報の開示を請求することができる。ただし、販売業者等の信用棄損などの不正な目的である場合はこの請求はできない(法5条1項)。
ここで一定額とは1万円とされ(規4条)、販売事業者等情報とは、(1)氏名及び名称、(2)住所、(3)電話番号、(4)ファクシミリ番号、(5)電子メールアドレス、⑥法人の場合は法人番号である(規5条)。
販売事業者情報の開示を請求しようとする消費者は、i)販売事業者等情報の確認を必要とする理由、ii)開示対象となる販売事業者等情報の項目、iii)不正の目的でないことを誓約する旨を書面または電子的方法(メール若しくは取引DPF提供者のお問い合わせフォームなど)により提出または提供しなければならない(法5条2項、規6条)。
開示請求を受けた取引DPF提供者は、その請求が不正の目的でないと思料するときは、販売事業者等と連絡を取れない場合を除き、販売事業者等の意見を聴かなければならない(法5条3項)。この意見聴取で、販売事業者等から開示に反対する意見が出たからと言っただけでは開示をしない理由にはならない。開示をした結果として、販売事業者等に損害が生じても取引DPF提供者は賠償責任を負わない(図表5)。
5|官民協議会
官民協議会とは内閣総理大臣が、取引DPFを利用する消費者の利益の保護のための取組を効率かつ円滑に行うため、内閣総理大臣、国の関連行政機関、取引DPF提供者団体、国民生活センター、地方公共団体、および消費者団体で組織される会議体である(法6条1項)。
官民協議会では法律の実効性や執行状況を確認し、今後の施策の実施や改善を促進するための組織である。官民協議会の事務局員には守秘義務が課せられ(法8条)、違反には懲役1年以下又は50万円以下の罰金に処せられる(法13条)。
官民協議会とは内閣総理大臣が、取引DPFを利用する消費者の利益の保護のための取組を効率かつ円滑に行うため、内閣総理大臣、国の関連行政機関、取引DPF提供者団体、国民生活センター、地方公共団体、および消費者団体で組織される会議体である(法6条1項)。
官民協議会では法律の実効性や執行状況を確認し、今後の施策の実施や改善を促進するための組織である。官民協議会の事務局員には守秘義務が課せられ(法8条)、違反には懲役1年以下又は50万円以下の罰金に処せられる(法13条)。
(2022年04月25日「基礎研レポート」)
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03-3512-1866
経歴
- 【職歴】
1985年 日本生命保険相互会社入社
2014年 ニッセイ基礎研究所 内部監査室長兼システム部長
2015年4月 生活研究部部長兼システム部長
2018年4月 取締役保険研究部研究理事
2021年4月 常務取締役保険研究部研究理事
2025年4月より現職
【加入団体等】
東京大学法学部(学士)、ハーバードロースクール(LLM:修士)
東京大学経済学部非常勤講師(2022年度・2023年度)
大阪経済大学非常勤講師(2018年度~2022年度)
金融審議会専門委員(2004年7月~2008年7月)
日本保険学会理事、生命保険経営学会常務理事 等
【著書】
『はじめて学ぶ少額短期保険』
出版社:保険毎日新聞社
発行年月:2024年02月
『Q&Aで読み解く保険業法』
出版社:保険毎日新聞社
発行年月:2022年07月
『はじめて学ぶ生命保険』
出版社:保険毎日新聞社
発行年月:2021年05月
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