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商業施設売上高の長期予測(2)-少子高齢化・EC市場拡大・コロナ禍による消費行動の変容が商業施設売上高に及ぼす影響
金融研究部 准主任研究員 佐久間 誠
3――EC市場拡大による商業施設売上高への影響
4 物販系分野の消費者向けEC市場規模。「電子商取引に関する市場調査」では、物販系、サービス系、デジタル系の3分野の消費者向けEC市場規模が公表されている。2020年のEC市場規模は、物販系12.2兆円(前年比+21.7%)、サービス系4.6兆円(▲36.1%)、デジタル系2.5兆円(+14.9%)と、コロナ禍による外出自粛を背景に物販系が急拡大する一方、旅行サービスの急減に伴い、サービス系分野が大幅に減少した。3分野合計のEC市場規模は19.3兆円(▲0.4%)と、横ばいとなった。
4――商業施設の売上環境のシミュレーション手法とシナリオ設定
少子高齢化とEC市場拡大の影響に加えて、コロナ禍による消費行動の変容を考慮し、2040年までの商業施設の売上環境の変化を試算する。まず、年齢毎に見た各世帯の可処分所得と消費性向、品目別消費割合は将来時点で一定と仮定した。年齢毎の可処分所得に、消費性向と品目別消費割合を乗じることで、年齢毎の品目別支出が求まる。この年齢毎の品目別支出に、国立社会保障・人口問題研究所による年齢毎世帯数の将来推計を乗じることで、日本全体の物販・外食・サービス支出を求めた。これは日本の商業施設の潜在的な売上規模を示す。そして、日本全体の物販・外食・サービス支出からECによる購入を除いたものを、日本全体の商業施設売上高として推計した(図表11)。
コロナ禍による消費行動の変容が感染収束後も定着するかどうかは、不確実性が大きいため、シナリオを設定する。前稿で考察したように、コロナ禍による消費行動の変容には、消費構造の変化である「コト消費からモノ消費へのシフト」と、消費チャネルの変化である「ECシフトの加速」がある5。また、これらの変化は、2020年にピークを迎えた可能性がある。そのため、消費構造の変化に関しては、品目別支出についてコロナ前の2019年に戻ることを想定した「コロナ前回帰シナリオ」と2021年のウィズコロナの状態が定着する「ニューノーマルシナリオ」の2つのシナリオを設定する。ポストコロナにおける消費構造は依然不透明ではあるものの、恐らくこの2つのシナリオの間に落ち着くことが予想される。また、消費チャネルの変化に関しても、EC化率についてコロナ前回帰シナリオとニューノーマルシナリオの2つのシナリオを設定する。したがって、品目別支出の2シナリオとEC化率の2シナリオを組み合わせた4つのシナリオのもと、商業施設の売上環境の変化を試算する(図表12)。
5 佐久間誠(2022)「商業施設売上高の長期予測(1)-コロナ禍で進んだ「コト消費からモノ消費へのシフト」と「ECシフトの加速」」(不動産投資レポート、ニッセイ基礎研究所、2022年4月4日)
コロナ前回帰シナリオでは、2021年の年齢毎の品目別支出を起点として、2019年水準に回帰した後、一定で推移する。つまり、コロナ禍で進んだコト消費からモノ消費へのシフトが、完全にコロナ前に戻る想定である。
ニューノーマルシナリオでは、年齢毎の品目別支出が2021年水準から一定で推移する。つまり、家計の消費構造が現在のウィズコロナの状況から変化せず、将来の物販・外食・サービス支出は人口動態によってのみ変動することを意味する。
(2)EC化率のシナリオ
コロナ前回帰シナリオでは、2019年までの過去10年と同じペースで拡大する。これは、ECシフトの加速が2020年で終了し、EC拡大ペースはコロナ以前に戻ることを意味する。当シナリオでのEC化率は2020年の8.1%から、2030年に12.9%、2040年に17.6%となる(図表13)。
ニューノーマルシナリオでは、コロナ前回帰シナリオをベースに、食料品と高年層は2021年のEC拡大ペースを維持すると仮定した。2020年に加速したECシフトは、2021年に入りコロナ前のペースまで鈍化している。しかし、品目別に見ると食料品、年齢別に見ると高年層は、2021年においても2019年を上回る拡大ペースを維持しているため、これらの変化をシナリオに反映する。当シナリオでのEC化率は2020年の8.1%から、2030年に15.6%、2040年に23.2%となる(図表13)。

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