2022年04月08日

3PL事業者が求める物流機能と物流不動産市場への影響(2)~3PL事業者の拠点特性と社会的な課題を踏まえた3PL事業者の今後の取り組み

金融研究部 主任研究員 吉田 資

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4-4. 物流戦略の提案力強化
「フィジカルインターネット」の実現に向けた取り組みでは、物流施設の自動化やトラック等の輸送手段の共有化が進むことになる。先行研究17によれば、3PL事業者がこれまで強みとしてきた物流オペレーション業務(物流センター業務や配送業務)は、今後コモディティ化(一般化)する可能性が指摘されている。

また、最近では、物流施設の供給者である不動産会社が、テナント企業に対して物流機器のレンタルや導入支援など、物流オペレーションサービスを充実させ、3PL事業者のビジネス領域に参入する動きもみられる18

今後、3PL事業者には、物流オペーション業務の提供だけではなく、顧客の企業競争力向上に寄与する物流戦略の提案が一層求められるだろう。経済産業省「物流市場における競争環境や労働環境等に関する調査」によると、「3PLに対する荷主の課題認識」(アンケート調査)に関して、「プロを有してない」(25%)、「提案・コンサルの提供が出来ていない」(23%)との回答もあり、3PL事業者の専門性に対し懐疑的な意見を有していると指摘している。荷主企業からの期待に応える物流戦略の提案力強化が喫緊の課題となるだろう。
 
しかし、日本の3PL事業者の料金形態は、「トランザクション方式」(取扱個数×単価)や「コスト+フィー方式」(実費+手数料)が多く、物流戦略の提供による成果が料金に反映されていない。今後は、「ゲインシェアリング方式」や、「ベンチマーク方式」を採用するなど、物流戦略提案の成果で利益を追求する必要がある(図表-13)。
図表-13 3PL事業者の料金収受方式
また、欧米の3PL事業者は、荷主企業とはSLA(サービス・レベル・アグリーメント)、キャリアとはOLA(オペレーション・レベル・アグリーメント)を締結し、荷主企業に提供するサービス、キャリアから提供を受ける物流サービス(配送、倉庫内作業)ともに、サービス水準を明確に定めていることが多い19。今後、高度な戦略の提供のためには、こうしたサービス水準のコントロールも必要になるのではないだろうか。
 
17 みずほ銀行産業調査部「フィジカルインターネットによる物流の変化」Mizuho Short Industry Focus 2020年10月6日
18 日経不動産マーケット情報「首都圏の需給悪化は限定的、中長期的課題への準備を」日経BP社2022年4月号
19 船井総研ロジ株式会社ロジスティクスコンサルティング部(2021)「物流改革大全」

5. 3PL事業者が物流不動産市場に与える影響

5. 3PL事業者が物流不動産市場に与える影響

3PL事業者は、物流施設の自動化や運転自動化を推進すべく、M&Aによる事業規模拡大を継続すると見込まれる。また、ドライバー不足の解決等の観点で注目されている「共同配送」の担い手として存在感を高めるだろう。環境配慮の高まりは、3PLビジネスの拡大に寄与する可能性がある。以上を鑑みると、3PL市場の成長は継続すると見込む。

物流施設の自動化を推進する際、物流施設には、複数の自動化機器(自動搬送機やピッキングロボット等)を導入可能な一定以上の床荷重・天井高・面積を有していることが求められる。また、運転自動化に対応するためには、自動運転トラックがスムーズに運行できる一定規模以上の接車バースや、高速道路ICに直結したランプウェイ等が必要となるだろう。また、Co2排出量削減等に取組む際には、LED照明や断熱等の省エネ設備が重要視されると考えられる。

上記のような設備・仕様は、最近の大規模物流施設の建築仕様を合致していることから、3PL事業者は、大規模物流施設の需要を引き続き牽引すると考えられる(図表-14)。

ただし、3PL事業者には、単なる物流オペーション業務の提供ではなく、企業競争力の強化に寄与する物流戦略の提案が一層求められている。社会潮流の変化に即した戦略の提案ができない3PL事業者は、物流業界での存在感が低下する可能性がある。

大規模物流施設市場の見通しをたてる上で、引き続き3PL事業者の動向に注視する必要があると思われる。
図表-14 大規模物流施設の建築仕様
 
 

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金融研究部   主任研究員

吉田 資 (よしだ たすく)

研究・専門分野
不動産市場、投資分析

(2022年04月08日「不動産投資レポート」)

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