2022年04月08日

3PL事業者が求める物流機能と物流不動産市場への影響(2)~3PL事業者の拠点特性と社会的な課題を踏まえた3PL事業者の今後の取り組み

金融研究部 主任研究員 吉田 資

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3-2. 加速するトラックドライバー不足への対応(物流の2024年問題)
EC市場の拡大等に伴い、自動車輸送需要が高まったことで、トラックドライバーの労働需給が逼迫している。トラック運送業は、中高年層の男性に労働力を大きく依存しドライバーの高齢化も進んでいる。総務省「労働力調査」によれば、道路貨物運送業の就業者(トラックドライバー)は20~30 代の割合が減少傾向にあり27%に留まる一方、50歳以上が43%となっている(2020年時点)。公益社団法人鉄道貨物協会によれば、今後は高齢ドライバーの退職等が加わり、2028年度にはトラックドライバーが27.8万人不足すると予測している。

さらに、働き方改革関連法の改正によって、トラックドライバー不足が加速する懸念がある。2024年4月1日以降、「自動車運転の業務」に対し、時間外労働時間の上限が年間960時間となる(「物流の2024年問題9」)(図表-8)。これは、月の労働日数を20日とすると、1日の時間外労働時間が4時間以内に制限されることを意味する。
図表-8 働き方改革関連法の改正
厚生労働省「自動車運転者の労働時間等に係る実態調査事業」によれば、トラックドライバーの1日の時間外労働時間が「4時間以上」の割合は、「通常期」で18%、「繁忙期」で24%、「長距離運送」に限定すると、「通常期」で26%、「繁忙期」で35%となっている(図表-9)。働き方改革関連法の改正に伴い、1人のドライバーで長距離輸送を担うことは難しくなると想定される。

このようなトラックドライバー不足は物流施設の立地選好に相当影響を及ぼすとの指摘がある。先行研究10によれば、首都圏から東北圏以北への輸送貨物について、北関東エリアに中継施設を設けて、積替やドライバー交代等を行うことで負担を軽減する事例や、東京中心部への配送のため圏央道周辺に中継施設を設置する事例などが報告されている。

こうした状況下、配送網の見直しに伴う新たな需要拡大を見込んで、3大都市圏以外でも大規模物流施設の開発が増えている11
図表-9 トラックドライバーの1日の時間外労働時間
 
9 加えて、2023年度からの時間外割増賃金の引き上げの適用(中小企業)は、トラックドライバーにも適用される。2024年頃からトラックドライバー不足および物流コストの高騰が懸念されており、「物流の2024年問題」と呼ばれている。
10 萩野保克・剣持 健「最近の物流ニーズと物流施設立地の動向」アーバンインフラ・テクノロジー推推進会議
11 日本経済新聞「大型物流施設 宮城に続々 プロロジスや大和ハウス 東北一円アクセス良好 運転手の労務規制も考慮」」2021/10/13
3-3. 物流における環境対応
菅前総理大臣は所信表明演説において、「2050 年までに、温室効果ガスの排出を全体としてゼロにする」ことを表明し、2021 年4月の気候変動サミットで、2030 年度に温室効果ガス排出量を46%削減(2013 年度比)する目標を示した。2019年度における日本のCo2排出量(11億800万トン)のうち、運輸部門の排出量(2億600万トン)は19%を占めており、脱炭素社会の実現に向けて更なる取り組みの強化が求められている。

運輸部門における対策の1つに、トラックから鉄道や海運などに輸送手段を変更する「モーダルシフト」が挙げられる。輸送量あたりのCo2排出量は、鉄道輸送(18g-co2/トン・km)がトラック輸送(225g-co2/トン・km)の約13分の1、船舶輸送(41g-co2/トン・km)が約5分の1とされ、「モーダルシフト」による削減効果は大きい。

「物流総合施策大綱(2021年度~2025年度)」では、「モーダルシフト」に関して、鉄道による貨物輸送量を184 億トンキロ(2019年度)から209億トンキロ(2025年度)に、海運による貨物輸送量を358 億トンキロ(2019 年度)から389億トンキロ(2025 年度)に増やす目標を掲げている。

こうしたなか、「モーダルシフト」に対応した大規模物流施設の開発が進んでいる。JR貨物は三井不動産と事業パートナーを組み、東京貨物駅構内に「東京レールゲートWEST」(2020年2月竣工)と「東京レールゲートEAST」(2022年竣工予定)を開発した。また、JR貨物は大和ハウス工業と、札幌貨物ターミナル駅構内に、「DPL札幌レールゲート」(2022年竣工予定)を開発中である。
3-4. 「フィジカルインターネット」の進展
「物流総合施策大綱(2021年度~2025年度)」では、「貨物情報や車両・施設などの物流リソース情報について、企業や業界の垣根を越えて共有し、貨物のハンドリングや保管、輸送経路等の最適化などの物流効率化を図ろうとする考え方(「フィジカルインターネット」)が注目を集めている」としている。

経済産業省「フィジカルインターネット実現会議」の資料によれば、「フィジカルインターネット」は、「インターネット通信」に着想を得ている。インターネット普及前のコンピューター間の通信は、「専用回線」で発信端末と着信端末を直接接続するものであった。一方、「インターネット通信」では、データの塊(パケット)のやりとりを行うための交換規約(プロトコル)を定めることで、「共有回線」による不特定多数の通信を実現し、回線の利用効率を高めている。

「物流(フィジカル)」は、発荷主と着荷主を直接結ぶやりとりが多い。そこで、「フィジカルインターネット」では、規格を統一したコンテナ等に貨物を搭載し輸送を行う(インターネット通信のパケットに該当)。その際に、「PIノード」と呼ばれる物流施設を経由し、貨物の積換を行う(インターネット通信のルーターに該当)。トラック等の輸送手段や積換を行う物流施設は、共有で利用し、物流リソース(輸送手段や物流施設)の稼働率向上を目標としている(図表-10)。
図表-10 フィジカルインターネットによる物流効率化のイメージ
「フィジカルインターネット」の実現には、(1)コンテナ規格を標準化し、貨物の混載や積替が容易に行うこと、(2)貨物積替拠点である「PIノード」において、各種のマテハン機器を用いて効率的な積替作業を行うこと、(3)共有する物流リソースの運用ルールを定めること、などが求められる。「フィジカルインターネット」の実現に向けた取り組みは、前述の「物流施設の自動化」等を促進すると考えられる。

経済産業省と国土交通省は、2022年3月に目標達成に向けたロードマップを公表した。こうした動きを受けて、大和ハウス工業は、他のデベロッパーと連携し物流施設の自動化促進などに取り組んでいる12と公表するなど、物流施設市場にも影響が及び始めている。
 
12 LOGI-BIZ online「大和ハウス・浦川氏、物流施設デベロッパーとして「フィジカルインターネット」実現に意欲」」2021/10/26

4. 社会的な課題を踏まえた3PL事業者の今後の取り組み

4. 社会的な課題を踏まえた3PL事業者の今後の取り組み

続いて、本章では、前章で述べた物流に関する社会的な課題を踏まえて、今後、想定される3PL事業者の取り組みについて考察したい。
4-1. M&Aによる事業規模拡大が続く
物流業界で人手不足が加速する中、3PL事業者は、高度な物流サービスを提供し競争力を維持するため、物流施設の自動化および自動運転の取り組みを積極化すると考えられる。

また、コロナウィルス感染拡大を防止する観点からも、非接触・非対面型の実現に向けて、物流施設の自動化が進むだろう。日本ロジスティクスシステム協会「新型コロナウィルスの感染拡大による物流・サプライチェーンへの影響 第3回アンケート調査」によれば、コロナウィルスの感染拡大後、約4割の物流企業が自動化・ロボット化・デジタル化への投資が積極的になったと回答している。

物流施設の自動化等を推進するためには、相応の設備投資が必要となる。3PLビジネスは、元来、規模の経済を利用することで、コストを抑えつつ高度な物流サービスの提供を基本とする。前回のレポートで述べた通り、3PL事業者は、他の物流事業者を積極的にM&A(合併・買収)して、ビジネスの拡大を図ってきた。

月刊ロジスティクスビジネスの調査によれば、「M&A計画の有無」について、「計画がある」との回答は2019年度の45.8%から2020年度の51.1%に増加しており、今後も、M&Aによる事業規模拡大は続くと考えられる。
4-2. 共同配送の担い手に
ドライバー不足やCo2排出量削減の観点から、より少ないトラックで多くの貨物を運ぶ「共同配送13」の必要性が高まっている。近年でも、様々な業種で共同配送に取り組む企業が増えている(図表―11)。

日本物流学会「2018物流共同化実態調査報告書」によれば、物流共同化の事例(2012年~2018年)において、「個別企業が複数集まり共同化を行うケース」(45%)が最も多く、次いで「貨客(客貨)混載サービスにより共同化を図るケース」(19%)、「業務提携・資本提携の結果、共同化を図るケース」(15%)が多かった。現状、荷主企業同士が連携し共同配送を行っているケースが主流のようだ。

しかし、先行研究14によれば、共同配送を荷主主導で進めた場合に、荷主間の利害調整や、生産拠点の移転等に伴う貨物量の変化への対応等から、長期的に継続することが困難になるケースがある。3PL事業者をはじめとする物流企業が共同配送を主導することで、荷主側の不公平感を抑えて、効率化と継続性が増すと指摘している。

3PL事業者が主導する共同配送は既にスタートしている。NTTロジスコは2018年より複数の医療機器メーカーの製品を共同配送するサービスを開始しており、また、大和物流は2020年より建材や設備機器など中ロット貨物の共同配送するサービスを開始している。3PL事業者は、共同配送の担い手として存在感が高める可能性がある。
図表-11 共同配送の事例
 
13 複数の荷主が、同じ配送先の荷物を持ち寄り、共同で配送を行う取り組み。
14 梶田ひかる「3PL主導型の共同物流」ライノス・パブリケーション「月間ロジスティクスビジネス」 2013年6月号
4-3. 環境配慮が3PLビジネスの拡大を後押し
物流分野においても環境配慮の取り組みが求められるなか、3PL事業者は企業の環境配慮を支援するサービスを展開している。例えば、NTTロジスコは、2021年より企業の物流領域におけるCO2削減を支援するサービスを開始した。環境配慮に対するニーズの高まりは、3PLビジネスの拡大を後押しする可能性がある。

3PL事業者の物流施設選択においても、「環境配慮」が重要な基準の1つになりつつある。CBRE「物流施設利用に関するテナント調査202115」によれば、「今後の倉庫の仕様に関する要件の変化」について、「持続可能な施設(環境性能、グリーンビルディング)」では、「大きくなる、増える」との回答が約半数を占めた(図表-12)。
図表-12 今後の倉庫の仕様に関する要件の変化
また、物流施設の供給者である不動産会社や不動産ファンドが第三者の審査登録機関による「環境認証」を取得する事例は増えている。J-REIT 保有物件に占める「CASBEE‐不動産」認証物件の割合は、物流施設で23%、オフィスで18%、商業施設で14%となっている16。環境負荷の大きい物流施設では、特に環境認証の取得が進んでいる。

環境性能の優れた物流施設が増加し、選択肢が広がる中で、3PL事業者は、環境対策のニーズを充たす施設に拠点を新設していくことが予想される。
 
15 回答者の約7割が3PL事業者を含む「物流業」
16 吉田資『オフィス投資で重視される環境配慮への取り組み』ニッセイ基礎研究所、年金ストラテジー、2021年10月5日
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金融研究部   主任研究員

吉田 資 (よしだ たすく)

研究・専門分野
不動産市場、投資分析

経歴
  • 【職歴】
     2007年 住信基礎研究所(現 三井住友トラスト基礎研究所)
     2018年 ニッセイ基礎研究所

    【加入団体等】
     一般社団法人不動産証券化協会資格教育小委員会分科会委員(2020年度~)

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