2022年04月08日

3PL事業者が求める物流機能と物流不動産市場への影響(2)~3PL事業者の拠点特性と社会的な課題を踏まえた3PL事業者の今後の取り組み

金融研究部 主任研究員 吉田 資

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1. はじめに

前回のレポート1では、3PL2ビジネスの拡大過程や3PL事業者の特徴等、3PLビジネスの現状について概観した。今回のレポートでは、3PL事業者の物流拠点の特徴や、物流に関わる社会的な課題を整理したうえで、今後の3PL事業者の取り組み並びに物流不動産市場への影響について考える。
 
1 吉田資『3PL 事業者が求める物流機能と物流不動産市場への影響(1)』ニッセイ基礎研究所、不動産投資レポート、2022年1月19 日
2 「3PL」とは、「Third Party Logistics」の略。「3PL 事業者」とは、貨物の輸送を依頼する荷主企業と、実際に貨物を運ぶ運送会社に介在して、貨物輸送を仲介する物流事業者を指す。荷主企業と運送会社に対して「第3者」の立場にある物流事業者の提供する新しい物流サービスを総称して、「サードパーティ・ロジスティクス」と呼ばれている。

2. 3PL事業者の物流拠点の特徴

2. 3PL事業者の物流拠点の特徴

CBREの調査によると、2015年以降に竣工した大規模物流施設の入居テナントは、3PL事業者を含む「物流業」が5割程度を占めている。物流不動産市場において、3PL事業者を含む「物流業」の存在感は大きく、物流賃貸需要を牽引している。そこで、本章では最初に、3PL事業者の物流拠点の特徴について確認する。
(1)3PL事業者の拠点分布
図表-1は、首都圏に所在する主な大規模物流施設3を地図上にプロットしたものである。大規模物流施設を丸印で、このうち、3PL事業者が入居する施設を星印で示した。調査対象の大規模物流施設459棟のうち、3PL事業者の入居施設は49%(227棟)を占めている。

大規模物流施設の供給は、東京湾岸部(大田区・江東区)から始まった。その後、圏央道をはじめとして高速道路網が整備されたこと等により内陸部へと拡大し、東京駅から60キロ付近まで広がりを見せている。3PL事業者の入居施設も、東京湾岸部から内陸部にかけて広く分布しており、特に、東京駅から30キロから50キロの間に多く集積している。
図表-1 主な3PL事業者の物流拠点
 
3 2002年以降に竣工した、東京都、神奈川県、埼玉県、千葉県、茨城県に所在する延床面積1万m2以上の物流施設。
(2)3PL事業者が入居する物流施設の建物特性
3PL事業者が入居する物流施設を規模別(延床面積)に確認すると、延床面積「1万坪以上」の割合が約7割に達しており、このうち、延床面積「3万坪以上」の超大規模施設の割合は2割弱を占める。(図表-2左図)。

3PL事業者による荷主企業への提案サービスの1つに、物流効率化およびコスト削減を目的とした物流拠点の統合・集約があり、3PL事業者にはこれらのニーズに適合した大規模施設を選好するインセンティブがあると考えられる。

また、3PL事業者の入居施設を築年数別に確認すると、「5年未満」の割合が約3割を占める一方で、築年数が一定程度経過した「10年以上」の割合も約4割に達している。(図表-2右図)。
図表-2 3PL事業者が入居する物流施設の建物特性(延床面積、築年数)
(3)3PL事業者が入居する物流施設の立地特性
3PL事業者が入居する物流施設の立地エリアを確認すると、「湾岸エリア」が23%、「内陸エリア」が77%であり、約8割の拠点が内陸部に立地している(図表-3)。
図表-3 3PL事業者が入居する物流施設の立地エリア
国土交通省「平成29 年度土地白書」によると、物流施設の立地について「近年は物流施設内の従業員の確保が重要な問題となっており、これを念頭に郊外住宅地の近くや通勤利便性の高い駅に近いこと等も重要な要因となっている」と指摘している。また、国土交通省「物流施設における労働力調査」によれば、延床面積1万坪以上の物流施設における従業員数は平均で約200人に達しており、従業員の確保のしやすさは、物流施設の立地を選ぶ重要な基準となっている。そこで、国土交通省「国勢調査」をもとに、3PL事業者が入居する物流施設の周辺人口(1km圏内)を確認すると、「周辺人口1万人以上」の割合が約4割で、このうち、「周辺人口3万人以上」の割合は1割程度を占める(図表-4左図)。3PL事業者の物流施設の選択においても、従業員の確保のしやすさが重視されているようだ。

また、物流施設の選定基準では、不動産コスト(賃料等)も重視される。CBRE「物流施設利用に関するテナント調査2021」によれば、物流センターの運営コストについて、「建物(不動産)コスト」が25%を占めている。国土交通省「令和3年都道府県地価調査」をもとに、3PL事業者の入居施設の周辺地価(工業地系)を確認すると、「周辺地価5万円/m2未満」の割合は47%を占める(図表-4右図)。「令和3年都道府県地価調査」によれば、東京圏における工業地の平均価格は10.2万円/m2であった。3PL事業者は、高速道路IC周辺など配送利便性の高い立地の中でも不動産コストが比較的廉価な場所を選択し、物流拠点を設置していると言える。
図表-4 3PL事業者が入居する物流施設の立地特性

3. 物流に関わる社会的な課題

3. 物流に関わる社会的な課題

次に、物流に関わる社会的な課題を整理する。日本の物流施策の指針を示す「総合物流施策大綱(2021年度~2025年度)」(2021年6月閣議決定)では、

(1)物流 DX や物流標準化の推進によるサプライチェーン全体の徹底した最適化
(2)時間外労働の上限規制の適用を見据えた労働力不足対策の加速と物流構造改革の推進
(3)強靱性と持続可能性を確保した物流ネットワークの構築、を目標に掲げている(図表-5)。
図表-5 「総合物流施策大綱(2021年度~2025年度)」の目標と施策
以下では、上記目標の達成のカギとなる「(1)物流自動化・自動運転の取り組み」、「(2)加速するトラックドライバー不足への対応(物流の2024年問題)」、「(3)物流における環境対応」、「(4)フィジカルインターネットの進展」の4点について確認する。
3-1. 物流自動化・自動運転の取り組み
(1) 物流施設の自動化
前回の「物流総合施策大綱(2017年度~2020年度)」では、ロボット機器の導入などを通じて物流施設の自動化・機械化を推進し、施設内作業の省力化や現場作業の負担軽減を進める方針が示された。

一方で、ピッキングロボットや無人フォークリフトなど、自動化に向けた様々な機器やシステムの導入には相応の設備投資が必要となる(図表-6)。

ライノス・パブリケーション「月刊ロジスティクスビジネス」の調査によると、「3PL事業者」における自動化設備の導入状況について、「設備を導入した」との回答は、「格納・保管」を自動化する「自動倉庫」では67%、「仕分け」に関わる「自動仕分け機」では61%を占める(図表-6)。「製造業」をはじめとする荷主企業と比較すると4、3PL事業者では施設の自動化がかなり進んでいることが窺える。

直近の「物流総合施策大綱(2021年度~2025年度)」では、「物流業務の自動化・機械化、デジタル化により、従来のオペレーションの改善や働き方改革などの効果を定量的に得ている事業者」の割合を2025年度までに70%に高める目標を掲げている。また、国による自動化設備導入に対する支援制度(国土交通省「自立型ゼロエネルギー倉庫モデル促進事業」)も開始されており、物流施設の自動化が一層進むと予想される。

また、CBRE「物流施設利用に関するテナント調査2021」によれば、「今後3年間に優先また重視する施策」について、「機械化・自動化設備の導入」(64%)との回答が最も多かった。また、「テクノロジーの利用による変化(倉庫スペース)」に関して、「増える(48%)」との回答が、「減る(15%)」との回答を上回った。物流施設自動化の効果を高めるため、施設スペースの拡大を許容する企業は多いようだ。
図表-6 3PL事業者における自動化設備の導入率
 
4 富士電機が2021年6月に「製造業」を対象に実施した「物流・倉庫部門における人手不足の実態調査」によれば、「ロボット・自動機等の活用による自動化・省力化」を関して、「取り組んでおり、効果があった」との回答は7%に留まっている。
(2) 運転自動化
ドライバー不足の解消には、実車率の改善等が有効ではあるものの、その取り組みには限界もあり、運転自動化が本格的に検討されている。国土交通省および経済産業省は、「未来投資戦略2017 年」に基づき、高速道路でのトラック隊列走行の実証実験を開始した。2021年2月には、新東名高速道路の一部区間5において、後続車の運転席を無人とした状態でのトラックの後続車無人隊列走行6を実現している。

「総合物流施策大綱(2021年度~2025年度)」では、上記のトラック隊列走行の実用化(2023年以降)や高速道路でのレベル47の運転自動化(2025年以降)を実現する目標を示している。

また、ラストワンマイルの配送現場でも運転自動化は進んでいる。2019年に経済産業省主催で「自動走行ロボットを活用した配送の実現に向けた官民協議会」が設立され、自動運転配達に向けた検討が開始された。2022年2月時点で、全国10か所で、公道での実証実験が行われている(図表-7)。

損害保険ジャパン日本興亜「「自動運転車」および「MaaS」に関する意識調査」によれば、「自動運転車の普及に関する期待」について、「運輸・物流産業の効率化」との回答が23%を占めた。自動運転の普及は、交通事故の減少や、高齢者の移動支援(行動範囲の拡大)とともに、物流効率化に対する期待も大きい。

こうした運転自動化の取り組みは、大規模物流施設の開発にも影響を及ぼし始めている。三菱地所は、完全自動運転トラックなどの受け入れに対応した高速道路 IC 直結の物流施設を京都府城陽市で開発する方針を発表している8
図表-7 公道での実証実験
 
5 遠州森町PA~浜松SA(約15km)
6 3台の大型トラックが、時速80kmで車間距離約9mの車群を組んで走行。全確保の観点から、後続車の助手席には経験を積んだ保安要員が乗車。
7 限定された地域の運転に関して、システムが全ての運転タスクを行う(利用者による操作はなし)。
8 三菱地所「日本初、高速道路 IC 直結「次世代基幹物流施設」開発計画始動」(2022年2月3日)
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金融研究部   主任研究員

吉田 資 (よしだ たすく)

研究・専門分野
不動産市場、投資分析

経歴
  • 【職歴】
     2007年 住信基礎研究所(現 三井住友トラスト基礎研究所)
     2018年 ニッセイ基礎研究所

    【加入団体等】
     一般社団法人不動産証券化協会資格教育小委員会分科会委員(2020年度~)

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【3PL事業者が求める物流機能と物流不動産市場への影響(2)~3PL事業者の拠点特性と社会的な課題を踏まえた3PL事業者の今後の取り組み】【シンクタンク】ニッセイ基礎研究所は、保険・年金・社会保障、経済・金融・不動産、暮らし・高齢社会、経営・ビジネスなどの各専門領域の研究員を抱え、様々な情報提供を行っています。

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