2022年04月07日

日本銀行の金融緩和解除で長期金利はどの程度上昇するか-日銀の金融緩和政策による長期金利の下押し効果の測定

基礎研REPORT(冊子版)4月号[vol.301]

金融研究部 金融調査室長・年金総合リサーチセンター兼任   福本 勇樹

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1―日本銀行の金融政策の効果を考慮に入れた日本国債金利(10年物)の分析

世界的にインフレ抑制のための金融引き締めが議論される中で、日本では1月の金融政策決定会合を前に、日本銀行が物価目標の2%に到達する前に利上げすることについて可能かどうか議論しているとの報道があった。会合後の記者会見で黒田総裁は物価目標の2%が安定的に達成されるまで長短金利の引き上げは想定していないと述べ、早期利上げ観測を否定した。

2022年3月の金融政策決定会合後の会見で、生鮮食品を除く消費者物価指数が4月以降に2%に到達する可能性があるとしたものの、エネルギーや食料品等を中心とした輸入価格の上昇によるもので好ましい物価上昇ではなく、当面引き締めはないと言及したが、仮に日本銀行が一連の金融政策を解除した際にどの程度の金利上昇が生じるのか、あらかじめ理論的な長期金利の適正水準について分析しておくことは意義のあることだと思われる。

本稿では、被説明変数を日本国債金利(10年物)として、説明変数に米国債金利(10年物)、米ドル円のヘッジコスト(3カ月)、実質GDP成長率予想、期待インフレ率、日本銀行の全体に占める国債保有割合と複数のダミー変数を採用して統計モデルを構築した。

分析結果の概要を説明すると、米国債金利(10年物)が1%上昇すると日本国債金利(10年物)が0.214%上昇する。

米ドル円のヘッジコストは、2016年9月のYCC(イールドカーブコントロール)導入以前は、米ドル円のヘッジコストが1%上昇すると日本国債金利(10年物)が0.04%上昇し、YCC導入後は、ヘッジコストが1%上昇すると日本国債金利(10年物)が0.056%低下し、2020年3月のコロナショック以降は、ヘッジコストが1%上昇すると日本国債金利(10年物)が0.1%上昇する関係になっている。米ドル円のヘッジコストは日本円と米ドルの短期金融市場の内外金利差の情報を含んでいる。日米の金融政策の方向が一致していればヘッジコストは安定的に推移するが、金融政策の方向が違えばヘッジコストは拡大・縮小する。そのため、このファクターを導入することで日米の金融政策の方向性に関する情報を考慮することができる。また、ヘッジコストの拡大・縮小は国内投資家の
対外証券投資の動向に影響を与えるだけでなく、海外投資家が米ドル建てで日本国債に投資する際にヘッジコスト分の利回りが向上するため、海外投資家から見た日本国債の投資妙味にも影響を与える。

実質GDP成長率予想は1%上昇すると日本国債金利(10年物)は0.1%上昇する関係にある。

期待インフレ率は、YCCと同時にオーバーシュート型コミットメントが導入されるまでは、2%と期待インフレ率の差が1%広がると日本国債金利(10年物)が0.094%低下し、導入後は0.043%上昇する関係になっていた。また、2019年10月の消費増税後は2%と期待インフレ率の差が1%広がると日本国債金利(10年物)が0.098%上昇する関係になっている。

日本銀行の全体に占める国債保有割合は1%上昇すると2014年3月までは日本国債金利(10年物)が0.036%低下し、2014年4月以降は0.01%低下する関係にある。定数項のダミー変数の影響は、マイナス金利政策導入で日本国債金利(10年物)を0.211%押し下げ、YCCの導入でさらに0.033%押し下げている。

2―各金融政策による日本国債金利(10年物)に対する押し下げ効果の測定

本稿の統計モデルに基づいて、長期金利の適正水準(理論値)を計測すると、2022年1月末時点で0.97%となる。つまり、財務省のデータによると2022年1月末時点の長期金利は0.177%であったので、日本銀行の一連の金融政策によって長期金利が0.8%程度押し下げられていることになる。この評価結果に基づくと、需給によって一時的に上下することはあるだろうが、現時点で日本銀行がすべての金融政策を解除すると、この押し下げ効果が剥落することで0.8%くらいの長期金利の上昇が生じる可能性について留意しておくべきということになる。

また、2022年1月末時点における各金融政策が長期金利に与えた影響について計測すると[図表]、「日銀のバランスシートの拡大」によって0.64%の押し下げ効果、「物価安定の目標」の導入で0.13%の押し上げ効果、「マイナス金利政策」の導入で0.21%の押し下げ効果、「YCCとオーバーシュート型コミットメント」の導入で0.08%の押し下げ効果があることになる。

物価安定の目標が日本国債金利(10年物)に対して下押し効果をもたず、若干の押し上げ効果を持っている点については、YCCとオーバーシュート型コミットメントの導入に起因していると考えている。特に、YCCの導入によって日本国債金利(10年物)がゼロ%近辺を推移するように政策が変更されたことで、日本国債金利(10年物)が物価目標2%の達成の時間軸に関する期待も含めて将来のインフレ予想に関する情報をほとんど内包しなくなったものと解釈できる。そのため、日本国債金利(10年物)に対する物価目標に関する下押し効果は解消され、YCCの金利目標であるゼロ%をベースとして、市場が想定する物価目標を達成した際にあるべき金利水準にまで押し上げ効果をもたらす形で調整したものとみられる。さらに、2018年7月に日銀が政策の枠組みを強化した際に、日本国債金利(10年物)が0.1%程度を推移する中で「その倍くらいを想定している」と新しいレンジついて説明したが、その後に消費増税によって従来よりも物価目標の達成への期待が高まり、YCC導入の際と同様に金利目標であるゼロ%をベースとして、物価目標を達成した際にあるべき金利水準=0.2%前後)にまで押し上げ効果をもたらす形で調整したものと考えられる。

YCCについては、コロナ禍以前は長期金利を0.3%程度押し下げていたが、コロナ禍以降その効果はほとんど失われている。これは、コロナ禍においてもYCCの目標をゼロ%近辺に維持してきたことが影響しているとみている。つまり、コロナ禍において海外では金融緩和の強化により短期金利・長期金利ともに低下した中で、日本ではマイナス金利政策やYCCの効果もあって短期金利・長期金利ともにほとんど変動しなかったためではないかと考えられる。
[図表]本稿のモデルを用いた長期金利に対する各金融政策の効果の推移

3―もし日本銀行が一連の金融政策を解除するとしたら

2022年1月の金融政策決定会合後の記者会見での説明に基づくと、もし日本銀行が一連の金融政策を解除するのであれば、まずは物価安定の目標の達成が必要になる。そして、バランスシートの縮小の他、マイナス金利政策、YCCを解除することになる。現状、マイナス金利政策とYCCの組み合わせによって、無担保コールレート(オーバーナイト物)と長期金利の長短金利差は0.2%程度になっている。最終的にマイナス金利政策の解除による短期金利の利上げを想定に入れると、逆イールドを避けつつ、徐々に長短金利差を拡大しながら全ての金融政策を解除するという難しいかじ取りが求められる。さらに、マイナス金利政策の3層構造(基礎残高、マクロ加算残高、政策金利残高)は、地域金融強化のための特別当座預金制度や気候変動対応オペで金融機関に対するインセンティブ付けにも活用されるなど、他の政策とも密接に関連している。これらを総合的に考えると、物価目標の達成と同時に全ての金融政策が解除されるのではなく、少なくともYCCとマイナス金利政策はタイムラグをもって解除されることになるだろう。しかしながら、本稿の分析によると、現時点ではYCCによる下押し効果は0.08%程度にとどまるため、YCCのみを解除して、YCCの目標となる金利目標をゼロ%から徐々に引き上げていくにしても、金利目標の対象を10年物から5年物などのより残存期間の短いものに変更するにしても、短期金利を利上げするのに十分な長短金利差は確保されないものと結論付けられる。

そのため、長短金利差を十分に確保する目的で、YCCの解除と同時に日本銀行のバランスシートの縮小を同時に行う、マイナス金利政策の解除の時間軸について明確にしておくなどの対応策が求められるだろう。または、FRBなど海外の中央銀行が金融引き締めに転じる中で、日本銀行があえてしばらく金融緩和を維持することで、米ドル円のヘッジコスト(≒短期金利の内外金利差)の拡大を通じてコロナ禍以前と同等水準のYCCの下押し効果を回復するのを待つというやり方もあるかもしれない。ただし、後者の方法をとる場合、日本銀行が金融緩和から引き締めに転じるのは、海外と比較して数年遅れになるであろうが、その際に経済成長率や物価上昇率の観点で十分に金融引き締めを行っても問題ないようなファンダメンタルズの状況にあるのかどうか、といった点に不確実性がある。
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金融研究部   金融調査室長・年金総合リサーチセンター兼任

福本 勇樹 (ふくもと ゆうき)

研究・専門分野
金融市場・決済・価格評価

(2022年04月07日「基礎研マンスリー」)

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