コラム
2022年04月05日

国民負担率は過去最高を更新-高齢化を背景に、今後もさらに上昇するか?

保険研究部 主席研究員 兼 気候変動リサーチセンター チーフ気候変動アナリスト 兼 ヘルスケアリサーチセンター 主席研究員 篠原 拓也

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国民負担率は、過去最高を大きく更新した。2月に財務省は、2020年度の「国民負担率」を公表した。国民負担率は、個人や企業の所得に占める税金や社会保険料の割合で、公的負担の重さを国際比較するための指標として利用される。毎年の公表で、昨年度までの実績、今年度の実績見込み、来年度の見通し、の3つの率が示されている。この国民負担率について、考えてみよう。

◇ 国民負担率は、国民所得に対する比率とされることが一般的

国民負担率は、国税や地方税の租税負担と、国民年金や健康保険の保険料などの社会保障負担の合計を、所得で割り算して算出する。所得には、国民所得もしくは国内総生産(GDP)を用いる。メディアが主に報じるのは、国民所得を用いた数字だ。

広辞苑(第七版)(岩波書店)では、国民負担率を、「国・地方租税負担と社会保障負担(社会保険料負担)の合計額の、国民所得に対する比率」としている。他の国語辞書も同様だ。所得として国民所得を用いた数字が、国民負担率とされることが一般的といえそうだ。

◇ 2020年度は過去最高を大幅に更新

国民所得をベースとする国民負担率の、2020年度の実績は、47.9%だった。2019年度から3.5ポイント上昇して、過去最高を大幅に更新した。前年度からの上昇幅も、同指標の推移が公表されている1970年度以降で最も大きかった。

国民負担率の実績を10年前の2010年度と比べると、10.7ポイントの上昇となっている。この10年間、平均して毎年1ポイント以上上昇したことになる。2021年度の実績見込みは、さらに高い48.0%。また2022年度の見通しは、46.5%となっている。

近年の国民負担率の上昇には、2014年4月と2019年10月の2度の消費税率引き上げや、高齢化に伴う医療や介護などの社会保障負担の増大という背景がある。

2022~24年にかけて、1947~49年生まれの、いわゆる団塊の世代が75歳以上となる。このため、高齢者の医療や介護のニーズは、さらに高まるものとみられる。国民負担率の上昇圧力は、さらに増していくといえそうだ。

◇ 潜在的国民負担率はコロナ禍への対応により急上昇

国民負担率に、国が抱える財政赤字の対国民所得比を加えたものは、潜在的国民負担率とされる。財政赤字を解消するために、将来国民負担が増す分も含めた、潜在的な負担水準といった意味合いだ。

この潜在的国民負担率は、2020年度に62.8%となり、対前年13.0ポイントの急上昇となった。これは、2020年度にコロナ禍への対応で3回の補正予算が組まれたことで、財政赤字が大きく膨らんだことを反映したものとなっている。

なお、2021年度以降は財政赤字の額が少なくなることで、2021年度の実績見込みは、60.7%。2022年度の見通しは、56.9%と、それぞれ低下するとみられている。

◇ 日本は欧州諸国と比べると低水準だが…

それでは、日本の国民負担率は、諸外国と比べてどうか? 国民負担率の国際比較をみてみよう。

比較可能な直近のデータとして、2019年(日本は2019年度)の数字をみてみる。日本44.4%(対前年度 プラス0.1ポイント)、アメリカ32.4%(対前年 プラス0.6ポイント)、イギリス46.5%(同 マイナス1.3ポイント)、ドイツ54.9%(同 変わらず)、スウェーデン56.4%(同 マイナス2.4ポイント)、フランス67.1%(同 マイナス1.2ポイント)となっている。日本とアメリカがプラス、欧州諸国が横ばい~マイナス、という動きだ。

日本は、社会保障負担が伝統的に低水準のアメリカよりは高いが、高福祉の欧州諸国よりも低く推移してきた。

しかし、日本の国民負担率の伸びは大きい。リーマン・ショック前の2006年からの増減をみると、日本は他の国よりも大きく上昇している。2020年度の実績が47.9%に上昇したことを踏まえると、2020年の比較では欧州諸国に迫る水準となっている可能性がある。

世界で最も高齢化が進む日本では、急速に、租税や社会保障の負担が増しているといえる。
図. 国民負担率の国際比較

◇ 海外ではGDP比の指標が一般的

ただ、国民負担率をみるときは注意が必要だ。そもそも“国民負担率”という用語は、世界的に使われている言葉ではない。直接対応する英語やフランス語はなく、日本独特の用語だ。

日本では従来、租税と社会保障の負担を国民所得で割り算した数字を国民負担率としている。これに対して、海外ではGDP比でみた租税や社会保障負担の指標(以下「GDP比の指標」という)を用いることが一般的だ。財務省は、OECD(経済協力開発機構)加盟国のデータから、国民所得とGDPをベースにした2つの数字をそれぞれ計算し、各国の“国民負担率”として国際比較を公表している。

国民所得とGDPには、大きく3つの違いがある。国民所得はGDPをもとに算出するが、 (1) 海外での日本人の所得を加える一方で、国内の日本人以外の所得を除く、 (2) 設備などの減価償却(固定資本減耗)を除く、 (3) 価格に上乗せされた消費税などの間接税を除く一方で、値引きに使われたとみられる補助金を加える――といった調整をしている。

このうち、(3)の間接税の税率は、特に影響が大きい。たとえGDPが同じでも、間接税の税率が高いと、国民所得は小さくなる。そのため、GDP比の指標に比べて、国民所得をベースとする国民負担率は高くなる。つまり、間接税率の高い欧州諸国は、国民負担率が高めに算出されやすくなるわけだ。

◇ 国民負担率をGDP比でみると、欧州諸国との差は縮まる

実際に、GDP比の指標の国際比較をみてみよう。

先ほどと同様に2019年(日本は2019年度) の数字で、日本31.9%、アメリカ25.5%、イギリス33.9%、ドイツ41.2%、スウェーデン37.1%、フランス46.9%となる。各国とも国民所得ベースの国民負担率より数字が下がるが、日本の低下幅は欧州諸国よりも少ない。GDP比の指標でみると、欧州諸国との負担の差は縮まることになる。

2020年度以降、コロナ禍への対応で、多くの国が巨額の財政支出を行ってきた。これが、将来の租税や社会保障の負担にどのように表れるのか。国際比較をする際には、国民所得をベースとする国民負担率だけではなく、GDP比の指標なども用いながら、多面的にみていく必要がありそうだ。

◇ 実績見込みや見通しの数字は、低めに出る傾向がある

また、国民負担率をみるときには、実績見込みと見通しの率にも注意が必要だ。

実績見込みは、年度途中で、今年度末までの実績を見込むもの。見通しは、来年度の見通しを示すものだ。これらは、経済動向の前提に基づく、国民所得や税収などの推移を反映した“推計値”だ。前提の置き方によって、推計値は変わってしまう。

これまでに公表された国民負担率の実績をみると、前年に示された実績見込みや、前々年に示された見通しよりも高くなる傾向がある。たとえば、2020年度の実績(47.9%)は、昨年示された実績見込み(46.1%)や、一昨年に示された見通し(44.6%)よりも高い。2019年度についても、実績(44.4%)は、実績見込み(43.8%)や、見通し(42.8%)よりも高くなっている。
表. 国民負担率の推移
このことは、見方を変えると、2021年度や2022年度の実績は、今年示された2021年度の実績見込み(48.0%)や、2022年度の見通し(46.5%)よりも高くなる可能性があることを示唆している。つまり、今後、国民負担率の実績はさらに上昇していく可能性がありそうだ。

こうしてみると、日本と欧州諸国の国民負担率の差は、さらに縮まるかもしれない。高齢化の動きも含め、国民負担率の動向について、引き続き、注意していく必要がありそうだ。
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保険研究部   主席研究員 兼 気候変動リサーチセンター チーフ気候変動アナリスト 兼 ヘルスケアリサーチセンター 主席研究員

篠原 拓也 (しのはら たくや)

研究・専門分野
保険商品・計理、共済計理人・コンサルティング業務

経歴
  • 【職歴】
     1992年 日本生命保険相互会社入社
     2014年 ニッセイ基礎研究所へ

    【加入団体等】
     ・日本アクチュアリー会 正会員

(2022年04月05日「研究員の眼」)

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