2022年04月04日

米雇用統計(22年3月)-前月から雇用の伸びは鈍化も、労働市場の堅調な回復持続を確認する結果

経済研究部 主任研究員 窪谷 浩

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1.結果の概要:雇用者数は市場予想を下回るものの、失業率は予想を上回る改善

4月1日、米国労働統計局(BLS)は3月の雇用統計を発表した。非農業部門雇用者数は、前月対比で+43.1万人の増加1(前月改定値:+75.0万人)と、+67.8万人から上方修正された前月を下回ったほか、市場予想の+49.0万人(Bloomberg集計の中央値、以下同様)も小幅に下回った(後掲図表2参照)。

失業率は3.6%(前月:3.8%、市場予想:3.7%)と前月から▲0.2%ポイント低下し、改善幅が市場予想を上回った(後掲図表6参照)。労働参加率2は62.4%(前月:62.3%、市場予想:62.4%)と前月から+0.1%ポイント上昇した一方、市場予想に一致した(後掲図表5参照)。
 
1 季節調整済の数値。以下、特に断りがない限り、季節調整済の数値を記載している。<
2 労働参加率は、生産年齢人口(16歳以上の人口)に対する労働力人口(就業者数と失業者数を合計したもの)の比率。

2.結果の評価:雇用の伸びは鈍化も、労働市場の堅調な回復持続を確認する結果

3月の非農業部門雇用者数(前月比)は市場予想を▲5.9万人下回ったものの、2月分が+7.2万人上方修正されたことなどを考慮するとほぼ市場予想に沿う結果と言えよう。一方、3月は前月から雇用の伸びは鈍化したものの、22年の月間平均雇用増加ペースは+56.2万人と1950年の統計開始以来最高となった21年の+56.2万人に一致しており、22年入り後も堅調な雇用回復が持続している。また、雇用者数は新型コロナ流行前(20年2月)を158万人下回る水準まで回復した。

3月の失業率は労働参加率の改善を伴って前月から低下し、こちらは新型コロナ流行前(20年2月)の3.5%の水準までほぼ回復した。
(図表1)時間当たり賃金の伸び率 時間当たり賃金(全雇用者ベース)は、前月比+0.4%(前月改定値:+0.1%、市場予想:+0.4%)と前月比横這いから小幅上方修正された前月を上回った一方、市場予想に一致した。また、前年同月比は+5.6%(前月改訂値:+5.2%、市場予想:+5.5%)と、こちらは+5.1%から小幅上方修正された前月、市場予想を上回った(図表1)。このため、3月は前月比、前年同月比ともに賃金の伸びが加速する結果となった。

このようにみると、3月は雇用の伸びは前月から鈍化したものの、依然として雇用者数、失業率ともに22年入り後も米労働市場の堅調な回復持続を確認する結果と言えよう。もっとも、失業率が新型コロナ流行前の水準にほぼ回復しているのに比べて、雇用者数は依然として新型コロナ流行前の水準を下回っており、労働参加率が新型コロナ流行前(20年2月)の水準を▲1%ポイント下回っていることにみられるように、労働供給の回復は道半ばとなっている。

3.事業所調査の詳細:広範な分野で雇用の伸びが鈍化

事業所調査のうち、民間サービス部門は前月比+36.6万人(前月:+63.7万人)と前月から雇用の伸びが鈍化した(図表2)。
(図表2)非農業部門雇用者数の増減(業種別) 民間サービス部門の中では、専門・ビジネスサービスが前月比+10.2万人(前月:+10.5万人)とほぼ前月並みの伸びを維持したほか、娯楽・宿泊業が+11.2万人(前月:+15.4万人)と前月からは鈍化したものの、堅調な伸びを維持した。一方、小売業が+4.9万人(前月:+11.0万人)、医療・社会扶助サービスが+3.3万人(前月:+9.7万人)と前月から伸びが鈍化したほか、運輸・倉庫が▲0.1万人(前月:+7.0万人)と小幅ながらマイナスに転じた。

財生産部門は前月比+6.0万人(前月:+10.2万人)と前月から伸びが鈍化した。製造業が+3.8万人(前月:+3.8万人)と前月並みの伸びを維持した一方、建設業が+1.9万人(前月:+5.7万人)と伸びが鈍化した。

政府部門は前月比+0.5万人(前月:+1.1万人)と前月から伸びが鈍化した。内訳をみると、連邦政府で▲0.1万人(前月:+0.2万人)と前月からマイナスに転じたほか、州・地方政府が+0.6万人(前月:+0.9万人)と伸びが鈍化した。
前月(2月)と前々月(1月)の雇用増加数(改定値)は前月が+75.0万人(改定前:+67.8万人)と+7.2万人上方修正されたほか、前々月が+50.4万人(改定前:+48.1万人)と+2.3万人上方修正された。この結果、2ヵ月合計の修正幅は+9.5万人の上方修正となった(図表3)。
 
BLSの公表に先立って3月30日に発表されたADP社の推計は、非農業部門(政府部門除く)の雇用増加数が前月比+45.5万人(前月改定値:+48.6万人、市場予想:45.0万人)と+47.5万人から上方修正された前月を下回ったものの、市場予想を小幅ながら上回った。このため、ADP社の統計と雇用統計ともに前月から雇用の伸びが鈍化する結果となった。
 
3月の賃金・労働時間(全雇用者ベース)は、民間平均の時間当たり賃金が31.73ドル(前月:31.60ドル)となり、前月から+13セント増加した。一方、週当たり労働時間は34.6時間(前月:34.7時間)と前月から▲0.1時間減少した。この結果、週当たり賃金は1,097.86ドル(前月:1,096.52ドル)と前月から増加した(図表4)。
(図表3)前月分・前々月分の改定幅/(図表4)民間非農業部門の週当たり賃金伸び率(年率換算、寄与度)

4.家計調査の詳細:労働参加率が6ヵ月連続で回復

家計調査のうち、3月の労働力人口は前月対比で+41.8万人(前月:+30.4万人)と前月から伸びが加速した。内訳を見ると、失業者数が▲31.8万人(前月:▲24.3万人)とマイナス幅が拡大したものの、就業者数が+73.6万人(前月:+54.8万人)と失業者数の減少幅を大幅に上回る増加となり労働力人口を押し上げた。非労働力人口は▲29.8万人(前月:▲18.3万人)と前月からマイナス幅が拡大した。これらの結果、労働参加率は62.4%となり、21年9月の61.7%を底に上昇基調が持続している(図表5)。

一方、プライムエイジと呼ばれる働き盛り(25~54歳)のみの労働参加率は3月が82.5%(前月:82.2%)と前月から+0.3%ポイント上昇した。男女の内訳は、男性が88.7%(前月:88.8%)と前月から▲0.1%ポイント低下した一方、女性が76.5%(前月:75.8%)と+0.7%ポイント上昇した。これで女性は新型コロナ流行前(20年2月)以来の水準に回復した。

3月の失業率は労働参加率の改善を伴って低下しており、労働需給の逼迫が継続している状況を示した(図表6)。
(図表5)労働参加率の変化(要因分解)/(図表6)失業率の変化(要因分解)
3月の長期失業者数(27週以上の失業者人数)は142.8万人(前月:170.2万人)と前月から▲27.4万人の大幅な減少となった。長期失業者の失業者全体に占めるシェアも23.9%(前月:26.7%)と前月から▲2.8%ポイント低下した(図表7)。平均失業期間は24.2週(前月:26.6週)とこちらも前月から▲2.4週短期化した。
 
最後に、周辺労働力人口(136.0万人)3や、経済的理由によるパートタイマー(417.0万人)も考慮した広義の失業率(U-6)4は、3月が6.9%(前月:7.2%)と前月から▲0.3%ポイント低下した(図表8)。この結果、通常の失業率(U-3)との乖離幅は+3.3%ポイント(前月:+3.4%ポイント)と前月から▲0.1%ポイント縮小した。
(図表8)(図表8)
 
3 周辺労働力とは、職に就いておらず、過去4週間では求職活動もしていないが、過去12カ月の間には求職活動をしたことがあり、働くことが可能で、また、働きたいと考えている者。
4 U-6は、失業者に周辺労働力と経済的理由によりパートタイムで働いている者を加えたものを労働力人口と周辺労働力人口の和で除したもの。つまり、U-6=(失業者+周辺労働力人口+経済的理由によるパートタイマー)/(労働力人口+周辺労働力人口)。
 
 

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経済研究部   主任研究員

窪谷 浩 (くぼたに ひろし)

研究・専門分野
米国経済

経歴
  • 【職歴】
     1991年 日本生命保険相互会社入社
     1999年 NLI International Inc.(米国)
     2004年 ニッセイアセットマネジメント株式会社
     2008年 公益財団法人 国際金融情報センター
     2014年10月より現職

    【加入団体等】
     ・日本証券アナリスト協会 検定会員

(2022年04月04日「経済・金融フラッシュ」)

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