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外国人就労政策の行方~特定技能の受入れ拡大を巡る議論~

総合政策研究部 准主任研究員 鈴木 智也
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1――はじめに
今般の見直しで特に注目されるのは、特定技能「2号」の扱いだ。現在、その対象業種拡大について検討が進められている。ただ、永住権の取得や家族帯同も可能となる、特定技能「2号」の受入れ拡大は、移民政策や治安などへの懸念から異論もあり、どのような形で決着するか見通しづらい。
本稿では、対象業種拡大の検討が進む特定技能について、制度創設後の状況を整理し、今後のポイントについて考えてみたい。
2――特定技能の制度概要
同制度の特徴としては、日本人従業員と同等以上の待遇を確保することが、受入れ企業に義務付けられたほか、同一の業務区分内であれば、外国人労働者に転職を認めたことなどが挙げられる。また、混同されることも多い、技能実習制度との比較では、受入れ職種や在留期間のほか、制度創設の趣旨や対象となる人材に違いがある。
例えば、制度創設の目的については、技能実習が、技術移転を通じた、発展途上国の人材育成や経済成長の支援といった、国際貢献が目的であるのに対して、特定技能は、国内の人手不足分野における、労働力の確保を目的としている。また、在留資格の取得要件にも違いがあり、技能実習が介護職種を除いて、日本語能力試験などを要件としていないのに対して、特定技能では、日本語能力試験に加えて、職種ごとに実施される技能試験を要件としている。これは、特定技能が高度人材のように、際立った専門性を有した人材であるとまでは言えないものの、技能実習制度に比べて、相対的に高いスキルを有した人材であることを意味している。なお、特定技能は、その技能水準に応じて「1号」「2号」の2種類があり、それぞれ対象とする人材や受入れ分野などに違いがある[図表1]。
特定技能「2号」については、「特定産業分野に属する熟練した技能を要する業務に従事する外国人向けの在留資格」であり、「現行の専門的・技術的分野の在留資格を有する外国人と同等又はそれ以上の高い専門性・技能を要する」レベルの人材に認められる。在留期間は、更新の必要はあるが上限はない。要件を満たせば家族帯同も可能であり、登録支援機関などによる支援も義務ではなくなる。
2022年1月時点で、特定技能「1号」の対象業種となっているのは、「介護分野」「ビルクリーニング分野」「素形材産業分野」「産業機械製造業分野」「電気・電子情報関連産業分野」「建設分野」「造船・舶用工業分野」「自動車整備分野」「航空分野」「宿泊分野」「農業分野」「漁業分野」「飲食料品製造業分野」「外食業分野」の14分野であり、このうち特定技能「2号」へ移行できるのは、「建設分野」「造船・舶用工業分野」の2分野だけである。
3――国論を二分した制度
実際、新たな在留資格の制度創設を巡る議論は、2018年2月の経済財政諮問会議において検討が始まり、6月に閣議決定された「経済財政運営と改革の基本方針(骨太方針)」に明記され、12月の臨時国会で成立するというスピード感で進められた。焦点の1つになった対象分野を巡っては、6月の当初想定では、介護、宿泊、農業、造船、建設の5分野であったものが、業界からの要望を受けて、いつの間にか14分野まで拡大していた。また、外国人就労政策を巡っては、現行の技能実習制度の問題、外国人の社会保障や年金給付に係る問題、治安や国内労働市場への悪影響などの様々な論点が浮上し、激しい議論が交わされている。特に保守層からは、事実上の移民政策だとする批判が根強く、与党内にも異論が挙がっていた。これに対して政府は、新制度による外国人材の受入れを、単なる労働力の受入れと定義することで、何とか法案の成立にこぎつけた経緯がある。
これまでの経緯を振り返ると、改正入管法を巡る議論は、単純労働分野に始めて外国人材を受入れる、歴史的な政策転換と言われた割には、生煮えのまま終わってしまったとの印象は否めないだろう。
4――制度創設後、2年の現状
このうち、特定技能で就労する外国人労働者は29,592人と、全体の1.7%を占めるに過ぎないが、対前年同月比でみると4倍以上であり、この1年で大きく増加してきたことが分かる。ただ、政府が示した特定技能の受入れ規模は、2019年度から2024年度までの5年間に、最大約34.5万人であり、「受入れ実績」を「最大受入れ予定数」で除した「受入れ充足率」で見ると、特定技能人材の受入れは、決して順調に進んで来たとは言えない。
その要因としては、コロナ禍の水際対策として、厳しい入国制限が課されてきたことだけでなく、制度創設決定から運用開始までの期間が短く、職種ごとの技能試験や二国間の覚書締結などの準備が遅れたことなどが影響したと考えられる[図表3]。実際、分野別の受入れ状況を見てみると、コロナ禍の影響が大きかった「ビルクリーニング分野」「航空分野」「宿泊分野」「外食業分野」などの受入れ充足率はとりわけ低く、最大見込み数の5%にも達していない[図表4]。また、コロナ禍の影響が、相対的に小さかったと見られる「介護分野」や「漁業分野」などでも、入国規制の厳格化や試験実施の遅れから、思うような受入れはできていないようである。
国籍別には、ベトナム(23.9千人、構成比1 62.5%)、フィリピン(3.6千人、同9.4%)、中国(8.3千人、同8.3%)、インドネシア(3.1千人、同8.0%)からの受入れが多く、その顔ぶれは制度設立当初から、ほぼ変わっていない。特定技能への主な移行資格である技能実習(2020年10月時点)と比較すると、受入れ上位国の顔ぶれは一致しているものの、その構成比には若干の違いがあり、ベトナムの比率(技能実習の構成比は54.3%)は高まる一方、中国の構成比(同19.1%)は小さくなっている。これは、ベトナムの技能実習生における、特定技能への移行比率が、中国よりも高いことを示めしており、特定技能に移行しやすい業種にベトナム出身者が多いことを示唆している。実際、ベトナム出身者は、特定技能の受入れが進む「飲食料品製造業分野」で多く、その7割以上を占めている。
分野別には、「飲食料品製造業分野」「建設分野」でベトナムの存在感が大きく、「造船・舶用工業分野」「自動車整備分野」はフィリピン、「漁業分野」はインドネシアの存在感が大きいなど、国ごとに特徴が見られる。なお、中国については、分野別の構成比でみると、「ビルクリーニング分野」「自動車整備分野」が少ないこと以外、あまり偏りはみられない。
地域別には、「飲食料品製造業分野」に加えて、製造3分野の受入れが多い、愛知県(3.3千人)が最多であり、「介護分野」「建設分野」で受入れの多い、千葉県(2.6千人)、埼玉県(2.3千人)などが続いている。受入れ総数では、3大都市圏の周辺が多いものの、人手不足が増しつつある地方部でも、特定技能の受入れ拡大は続いているようだ。
1 特定技能1号在留外国人数に占める割合
(2022年03月30日「ニッセイ景況アンケート」)

03-3512-1790
- 【職歴】
2011年 日本生命保険相互会社入社
2017年 日本経済研究センター派遣
2018年 ニッセイ基礎研究所へ
2021年より現職
【加入団体等】
・日本証券アナリスト協会検定会員
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