2022年03月11日

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1――各国がコロナ禍の出口を模索

2020年初頃から世界で感染が拡大した新型コロナウイルスは世界各国で人々の生活に大きな影響を与えている。世界各国では感染防止を目的として集会や会食などの制限が行われるとともに、テレワークなどオンラインコミュニケーションツールの活用が進んだ。

新型コロナウイルスはデルタ株、オミクロン株といった変異株の発生などにより感染が拡大したものの、足元では新規感染者数は減少傾向にある。国毎の日次の新規感染者数を7日移動平均で見ると、米国では今年1月15日には80万人まで拡大したが、2月末時点では7万人まで減少している(図表1)。英国やブラジルなど感染者数の多い他の国でも、足元では新規感染者数は軒並み減少傾向にある。

各国は感染の収束を見込んで経済活動の正常化を急いでおり、行動制限の緩和が進められている1 。欧州諸国では、英国が水際対策をほぼ撤廃するなど、感染対策のための規制を緩和する動きが相次いでいる。厳格な感染対策は経済への悪影響も大きいことから、比較的緩やかな規制により感染対策と経済活動の両立を目指している。

こうした中、コロナ禍をきっかけに普及したテレワークや新たな生活様式が感染の収束によって元に戻るのか、それとも広く人々の新たなライフスタイルとして普及していくのかなどコロナ後のライフスタイルについては様々な意見がある。本稿では、SNS(Social Networking Service) 上の投稿などの人々の意見や行動に関するデータを参考にコロナ後のライフスタイルについて考えたい。
図表1 主要国の新型コロナウイルス感染者数の推移
 
1 日本経済新聞、「欧州のコロナ規制、相次ぎ緩和 英は水際対策ほぼ撤廃」、2022年2月12日

2――コロナ禍に関する人々の声

2――コロナ禍に関する人々の声

新型コロナウイルスの感染が拡大し始めてからおよそ2年が経過した現在では、コロナ禍が生活にどのように影響し、人々はどのように感じているのだろうか。

代表的なSNSであるTwitterでの「新型コロナウイルス」に関する投稿を収集・分析し、人々の新型コロナウイルスに関する考えを調べた2。図表2は新型コロナウイルスに関する投稿に含まれている単語同士の関係(共起ネットワーク)を示している3。これを見ると当然ながら「コロナ」が一番多いが「仕事」、「職場」、「学校」といった単語も頻出している。また、「ワクチン」や「ニュース」といったトピックが見られた。コロナ禍が日常生活の様々な場面に影響していることが伺える。
図表2 新型コロナウイルスに関連する単語の関係(共起ネットワーク)
また、図表3は新型コロナウイルスに関連する単語のインターネット検索エンジンGoogleでの検索人気度の推移を示している4。これを見ると、「新型コロナウイルス」や「緊急事態宣言」の検索人気度は新型コロナウイルスの感染が拡大し始めた2020年4月をピークに減少が続いている一方で、「マスク」や「オンライン」の検索人気度は2020年4月のピークからはやや減少したものの、2019年以前よりも高い水準で推移している。新型コロナウイルスに特に注目が集まった2020年4月と比較すると新型コロナウイルス自体への関心はやや薄れていることが伺える。その一方で、テレワークやオンライン会議などオンラインツールの活用やマスク着用が生活に浸透していることが伺える。
図表3 コロナ禍に関連する単語のGoogle検索人気度の推移
内閣府の「第4回新型コロナウイルス感染症の影響下における生活意識・行動の変化に関する調査」によれば、東京23区内の就業者のテレワーク実施率は新型コロナウイルスが流行する前の2019年12月17.8%から2020年5月には48.4%にまで上昇した(図表4)。その後、2020年12月には、42.8%に低下したものの、2021年9月には55.2%に再度上昇しており、東京においては、テレワークが人々の生活に浸透しつつある状況が示されている。
図表4 テレワークの実施頻度の変化(東京23区)
また、同調査では、18歳未満の子を持つ親の48.9%が家族と過ごす時間が増加した(2021年9-10月時点)と回答しており、テレワークの普及は人々のライフスタイルに変化をもたらしていることが示されている(図表5)5

しかし、こうしたコロナ禍によるライフスタイルの変化は全国一律に起こっているものではないかもしれない。同調査によれば、2021年9-10月時点で、東京都23区でのテレワーク実施率が55.2%だったのに対し、地方圏では23.5%にとどまった。また、企業規模別のテレワーク実施率を見ると、従業員数1000人以上では46.7%だったのに対し、2-29人では20.9%にとどまっており、テレワーク実施率が地域や企業規模、業種により異なる状況が示されている。テレワークの普及により家族と過ごす時間が増えるなどライフスタイルが変化した人がいる一方で、従来通り職場への通勤が必要な人もいると考えられる。
図表5 家族と過ごす時間の変化(18歳未満の子を持つ親)
 
2 Twitter(https://twitter.com/)
3 共起ネットワークによる分析の詳細については「コロナ禍に関する人々の不安や関心~コロナ禍に関する SNS 投稿と投稿者の特徴の関係」(ニッセイ基礎研究所 原田哲志、2021年3月15日)を参照されたい。
4 検索人気度とは、インターネット検索エンジンGoogleの利用者による当該単語の検索回数を相対的なスコアに変換したものである。
5 2021年9-10月時点での「大幅に増加(51%以上増加)」、「増加(21%~50%増加)」、「やや増加(6%~20%増加)」の合計の割合を示す。

3――アフターコロナのライフスタイル

3――アフターコロナのライフスタイル

前章では、コロナ禍による人々の生活への影響について述べた。アフターコロナのライフスタイルには次のような特徴や課題があると考えられる。
 
デジタル化の進展・普及
ここまでで述べたように、新型コロナウイルスの感染拡大防止のために、テレワークをはじめとしたオンラインコミュニケーションの利活用が急速に進んだ。デジタル化の進展は人々の働き方、消費、住まいといった我々の生活や社会の幅広い場面に影響を及ぼすことが考えられる。

ニッセイ基礎研究所の調査によれば、自宅で過ごす時間が増えたことからデリバリーや家具、パソコン、ゲーム機といった「巣ごもり(家ナカ)消費」が増加していることが示されている6。また、前章で述べたように、テレワークの普及によって労働者が家族と過ごす時間が増加した。また、テレワークは子育てや介護をしている人など従来の環境では働くことが難しかった人が就業する機会につながっている。

その一方で、全ての人がこうした恩恵を受けているわけではない。内閣府の調査によれば、テレワークの実施率は業種毎に大きな差があることが示されている。また、業種だけでなく、正規・非正規雇用、都市・地方の間でもテレワーク実施率には差があることが指摘されている7

こうしたデジタル化に関連する格差の拡大が懸念される中、全ての人がデジタル化の恩恵を受けられる社会の構築が求められる。総務省は令和3年情報通信白書において、「誰一人取り残さないデジタル化の推進」を掲げ「デジタル・リテラシーの向上」や「安全な利用環境の整備」などに取り組んでいる8
 
ライフスタイルの多様化
また、こうした変化は一律ではなく、ライフスタイルの多様化をもたらすと考えられる。テレワークやオンラインサービスの拡大は、従来のオフィスでの勤務から在宅勤務や地方への移住といった多様なライフスタイルを可能にしている。こうした新たな働き方の普及は、在宅勤務に適した住宅やワークスペースの需要を生み出している。

また、外出や旅行の自粛が長期化する中、自宅での食事やデジタルコンテンツを楽しむ巣ごもり生活を過ごす人も多い。その一方で、オフィスでの雑談や実店舗での顧客体験といったリアルな体験やコミュニケーションが再評価される動きもある。こうしたライフスタイルの多様化から消費者の好みも多様化しており、企業もそれに合わせたサービスの提供が求められている9
 
6 ニッセイ基礎研究所 久我 尚子、「コロナ禍の家計消費の推移-増えた巣ごもり消費と激減した外出型消費の現状は?」、2020年11月12日
7 内閣府、「第4回新型コロナウイルス感染症の影響下における生活意識・行動の変化に関する調査」、2021年11月1日
8 総務省、「令和3年版情報通信白書」、2021年7月30日
9 日本経済団体連合会、消費者政策委員会、「コロナ禍を受けた消費者の行動や意識の変化と企業の取組み~サステナブルな消費の推進に向けて~」、2021年9月14日

4――終わりに

4――終わりに

新型コロナウイルスの流行をきっかけに、テレワークをはじめとしたオンラインコミュニケーションの活用が急速に進んだ。こうしたデジタル化の進展は人々の働き方、消費、住まいといった我々の生活や社会の幅広い場面に影響を及ぼすと考えられる。しかし、こうしたデジタル化による格差の拡大も懸念されることから、全ての人がデジタル化の恩恵を受けられる社会の構築が求められるのではないだろうか。引き続き、アフターコロナのライフスタイルの動向に注視するとともに、それに適応した社会の在り方を模索していきたい。
 
 

(お願い)本誌記載のデータは各種の情報源から入手・加工したものであり、その正確性と安全性を保証するものではありません。また、本誌は情報提供が目的であり、記載の意見や予測は、いかなる契約の締結や解約を勧誘するものではありません。

(2022年03月11日「基礎研レポート」)

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金融研究部   准主任研究員・ESG推進室兼任

原田 哲志 (はらだ さとし)

研究・専門分野
資産運用、ESG

経歴
  • 【職歴】
    2008年 大和証券SMBC(現大和証券)入社
         大和証券投資信託委託株式会社、株式会社大和ファンド・コンサルティングを経て
    2019年 ニッセイ基礎研究所(現職)

    【加入団体等】
     ・公益社団法人 日本証券アナリスト協会 検定会員
     ・修士(工学)

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