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コロナ禍におけるがん検診受診動向(2)~受診阻害要因・推奨間隔での受診促進要因
保険研究部 主任研究員・ヘルスケアリサーチセンター兼任 村松 容子
最後に、5つの部位について、厚労省による推奨受診期間内に受診した場合を1、推奨受診期間を超えて受診した場合を0として、これを被説明変数として、推奨受診期間内に受診している人の受診のきっかけを線形回帰モデルで推計した(図表6)。
推奨受診間隔は、胃、大腸、肺を1年、乳房、子宮・子宮頸部を2年とした。説明変数は、性、年齢、本人職業、世帯年収、主観的健康感、がんをこわいと思う気持ち、こわいと思う理由、がんリテラシーに加えて、受診のきっかけとした。
その結果、いずれの部位についても「職場の健康診断や人間ドックの標準の検査項目に含まれていたので」と回答した人で、推奨受診期間内での受診が多い傾向があった。また、胃、肺、乳房、子宮・子宮頸部では「職場の健康診断や人間ドックで割引価格で検査できたので」も推奨受診期間内での受診が多い傾向があった。その他、乳房では「新聞・雑誌記事をみて」で、子宮・子宮頸部では「職場や健康保険組合から案内があったから」で多い傾向があった。一方、大腸、肺において「自ら不安を感じたから」、子宮・子宮頸部において「自治体の健康診断で無料で検査できたから」「TV番組やYouTubeなどの動画をみて」「家族・親戚や友人・知人からがん検診や治療についての話を聞いたので」は、過去に受診はしているものの、推奨受診期間内に受診していない傾向があった。
職場においては、労働安全衛生法上の健康診断を、40歳以上については特定健診も兼ねて実施していることから、申し込みの手間や費用、受診の時間帯などへのストレスが比較的少なく、定期的な受診がしやすいと考えられる。一方、「自ら不安を感じた」や「かかりつけ医から受診を勧められた」「家族・親戚や友人・知人からがん検診や治療についての話を聞いたので」等は、受診の強いきっかけとなったと推測できるが、今回推計した、推奨期間内の検診受診のきっかけにはならないと考えられる。
なお、がん検診受診のきっかけとして「その他」と回答した人の自由回答の内容を見ると、「職場のがん検診に引っかかったから」「要精密検査だったから」等の回答も多く含まれており、「がん検診(スクリーニング)」は、がん検診と見なされていない可能性も考えられる。
4――おわりに
今回の結果から、がんが日常生活が続けられないなどの深刻な病気で怖い病気であると感じていて、早期発見や早期治療で生存率が改善できると考えている人は、がん検診による早期発見の価値を認識しており、検診を受診していると考えられる。厚労省のがん検診推奨年齢や、簡易検査キットについて知識があるのは、がん検診への関心が高いからだと推測できる。
主観的健康感が高い人、がんをこわいと感じていない人、「がん全体の5年生存率は50%を超えている」ことを知っている人で、検診を受診しない傾向があった。受診をしない理由として、「がん検診そのものを知らないから」「費用がかかり経済的にも負担になるから」「がんであると分かるのが怖いから」があげられた。このことから、受診をしない人には、がんをこわいと感じていない人と、がんであると分かるのが怖い人の両極端な人がいる可能性が推測できた。
がん検診を促進するためには、がんは稀な病気ではないこと、がん治療のために休職や休業をしている人もまだ多いこと、早期発見や治療によって生存率や予後の状態が改善しうること等、がんの実態を広く知らせることが重要だと思われる。あわせて、厚労省が、どういった人を対象に、どのような検診を推奨しているのか周知することが、精度の高い検診を広めていくためにも重要となるだろう。
受診推奨期間内の受診においては、職場による検診推進のような、一律的に勧奨され、申し込みから受診までの手間が簡易であり、費用などの心配なく受けられる体制が有効であると考えられる。
3 (公財)がん研究振興財団の「がんの統計2021」
4 国立がんセンターの「平成30年度患者体験調査報告書」によると、がんの診断時に収入のある仕事をしていた患者の54.2%ががん治療のために休職、休業し、19.8%が退職、廃業している。
03-3512-1783
- 【職歴】
2003年 ニッセイ基礎研究所入社
(2022年03月03日「基礎研レポート」)
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