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今後5年間の韓国のリーダーになるのは誰だろうか?-李在明、尹錫悦候補の経済政策、不動産政策、労働政策を比較する-

生活研究部 上席研究員・ヘルスケアリサーチセンター・ジェロントロジー推進室兼任 金 明中
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4――李在明、尹錫悦候補の主な不動産政策比較
李候補は、ソウルの107万戸を含めて全国に311万戸の住宅を供給し、住宅価格を安定化する計画である。この中で140万号は基本住宅で供給すると発表した。李候補は、最初は国と自治体の予算を使って住宅を供給すると発表したものの、最近は尹候補の政策を意識してか、民間投資も許容するという意見も述べている。
しかし、基本的に李候補は韓国土地住宅公社(LH:Korea Land and Housing Corporation)等の公共機関を中心に住宅を供給することを考えているので、韓国土地住宅公社等の公共債務は現在よりは、大きく増加すると予想される。
一方、尹候補は、任期中に首都圏の130万~150万戸を含めて全国に250万戸の住宅を供給することを明らかにした。住宅類型別には、青年1原価住宅230万戸、駅勢圏(鉄道駅を中心としてその駅を利用すると期待され需要が存在する地理的範囲)の住宅20万戸、公共分譲住宅21万戸、公共賃貸住宅50万戸、民間賃貸住宅11万戸、民間分譲住宅19万戸をそれぞれ供給する方針だ。
また、高速道路と鉄道の地下化を推進し、遊休空間に住居、商業、文化空間を配置する案を提示した。そして、民間企業の駅周辺に対する再開発の容積率を現在の300%から500%に緩和し、追加された容積率の50%分は国へ寄附することを要求し、そこから確保された住宅を青年・新婚夫婦、無住宅市民のために供給する計画だ。
次は「投機抑制に対する対策」だ。李候補は不動産投機を抑制するために、国土保有税を導入する等、「自宅以外の不動産」等の非必須不動産を多く持つ人に対する課税を強化し、貸出延長を制限することを考えている。李候補は韓国新聞放送編集人協会が主催した2021年11月30日の討論会で、「韓国の土地保有に対する実効税率は0.17%に過ぎず、OECD平均の0.8%の4分に1にもならない」と話すなど、非必須不動産に対する実効税率を1%まで引き上げる方針である。
一方、尹候補は、李候補とは逆に現在実施されている投機抑制策の一部を緩和すると発表した。青年と初めて住宅を購入する人に対する貸出規制の緩和、譲渡所得税の引き下げ、住宅を一戸のみ所有している人に対する総合不動産税の税率引き下げ、民間賃貸事業者制度の活性化(民間登録賃貸事業者制度の復活)等を推進する方針だ。「投機抑制に対する対策」については、両候補の政策がはっきり分かれていることが分かる。
1 韓国で青年は満19歳以上~満30歳以下の人。
2 青年原価住宅とは、無住宅の青年等(20~30代と子どもがいる低所得の長期無住宅者等)に実勢の売買価格より安い価格(原価)で住宅を分譲した後に、5年以上居住すると、国に売却する際に、価格の70%以上を保障する制度だ。
5――李在明、尹錫悦候補の主な労働政策比較
最低賃金に関しては、文政権の急激な最低賃金の引き上げ政策の失敗を認めながら、中小企業に対する政府の支援を拡大する等、文政権とは差別化された政策を実施する意思を示した。
一方で、尹候補は基本的に文政権の労働政策を大幅修正する考えだ。民間を中心に雇用を創出し、国際協力を強化して若者の海外への就業を支援する。そして、無理な労働時間の短縮よりも柔軟な働き方を推進し、最低賃金に関しては、現場の声や中小企業の財政状況を反映して合理的に改善していく方針である。
労使関係においては両候補共に労使協力を強調しており、「公共機関労働取締役制」と、公務員及び教員労働組合に対する「タイムオフ制」の導入に対しては賛成する立場を見せている。
「公共機関労働取締役制」とは、公的企業の労働者代表が取締役会に参加し、発言権と議決権を持って意思決定に参加する制度だ。一方、「タイムオフ制」とは、企業が賃金を支払う労働組合専従者(会社の業務を行わず労組の業務だけを行う組合員)の範囲を定め、そのほかは原則として賃金を支払うことができないようにする制度だ。
韓国労総は李候補の支持を宣言し、李候補は2月10日に韓国労総と労働政策の協約式を行った。しかしながら、韓国労総傘下の一部の労働組合では韓国労総の李候補支持に反対し、尹候補を支持すると宣言しており、労働組合の間でも意見が分かれている。
6――政権維持か交代か
つまり、李在明、尹錫悦、安哲秀、沈相ジョン候補の今後の動きが選挙に大きな影響を与えるだろう。特に今後の関心事は李候補が勝利して進歩・革新系政権が続くのか、あるいは保守系の尹候補が勝利して政権交代に成功するのかにある。今後5年間の韓国のリーダーに当選されるのは誰なのか、今後の動向に注目したい3。
3 本稿は、「【韓国大統領選】李在明と尹錫悦の経済政策、不動産政策、労働政策を比較する」ニューズウィーク日本版 2022 年 2 月21日に掲載されたものを加筆・修正したものである。
https://www.newsweekjapan.jp/kim_m/2022/02/5.php
※韓国の第20第大統領選挙の主なスケジュール
・2022年2月3日:韓国与野党4人の大統領候補が参加する1回目のテレビ討論会
・2022年2月11日:韓国与野党4人の大統領候補が参加する2回目のテレビ討論会
・2022年2月13~14日:候補者の立候補届け出(14人が候補者登録)
・2022年2月15日:選挙運動スタート
・2022年3月4~5日:事前投票
・2022年3月9日:第20第大統領選挙の投票日
・2022年3月10日:選挙結果発表
・2022年5月10日:新大統領就任
(2022年02月24日「基礎研レポート」)

生活研究部 上席研究員・ヘルスケアリサーチセンター・ジェロントロジー推進室兼任
金 明中 (きむ みょんじゅん)
研究・専門分野
高齢者雇用、不安定労働、働き方改革、貧困・格差、日韓社会政策比較、日韓経済比較、人的資源管理、基礎統計
03-3512-1825
- プロフィール
【職歴】
独立行政法人労働政策研究・研修機構アシスタント・フェロー、日本経済研究センター研究員を経て、2008年9月ニッセイ基礎研究所へ、2023年7月から現職
・2011年~ 日本女子大学非常勤講師
・2015年~ 日本女子大学現代女性キャリア研究所特任研究員
・2021年~ 横浜市立大学非常勤講師
・2021年~ 専修大学非常勤講師
・2021年~ 日本大学非常勤講師
・2022年~ 亜細亜大学都市創造学部特任准教授
・2022年~ 慶應義塾大学非常勤講師
・2024年~ 関東学院大学非常勤講師
・2019年 労働政策研究会議準備委員会準備委員
東アジア経済経営学会理事
・2021年 第36回韓日経済経営国際学術大会準備委員会準備委員
【加入団体等】
・日本経済学会
・日本労務学会
・社会政策学会
・日本労使関係研究協会
・東アジア経済経営学会
・現代韓国朝鮮学会
・韓国人事管理学会
・博士(慶應義塾大学、商学)
金 明中のレポート
日付 | タイトル | 執筆者 | 媒体 |
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2025/04/15 | 韓国は少子化とどう闘うのか-自治体と企業の挑戦- | 金 明中 | 研究員の眼 |
2025/03/31 | 日本における在職老齢年金に関する考察-在職老齢年金制度の制度変化と今後のあり方- | 金 明中 | 基礎研レポート |
2025/03/28 | 韓国における最低賃金制度の変遷と最近の議論について | 金 明中 | 基礎研レポート |
2025/03/18 | グリーン車から考える日本の格差-より多くの人が快適さを享受できる社会へ- | 金 明中 | 研究員の眼 |
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