2022年02月24日

今後5年間の韓国のリーダーになるのは誰だろうか?-李在明、尹錫悦候補の経済政策、不動産政策、労働政策を比較する-

生活研究部 上席研究員・ヘルスケアリサーチセンター・ジェロントロジー推進室兼任 金 明中

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1――最近の支持率は尹錫悦候補がリード

3月9日の韓国第20代大統領選挙の投票日まで15日を切った。韓国の世論調査機関「リアルメーター」が2022年2月21日に発表した2月3週目の大統領選候補の支持率調査では、野党「国民の力」の尹錫悦(ユン・ソクヨル)候補の支持率が42.9%で、与党「共に民主党」の李在明(イ・ジェミョン)候補の38.7%を上回った。
 
尹候補の支持率が2月2週目に少し下落した理由は、尹候補が韓国大手紙「中央日報」と行ったインタビューが原因だという解釈が多い。
第20代大統領選の主要候補の支持率:「リアルメーター」
つまり、尹候補は、「中央日報」とのインタビューで、「Q:大統領に就任したら文政権の積弊(積もった弊害)を捜査しますか」という質問に対して「A:します)」、「Q:それは政治報復になりますね」、「A:民主党政権が検察を利用してどのぐらい多くの犯罪を起こしたのか、それに対する責任を取るべきです」と発言した。その結果、李候補を支持することを迷っていた文大統領の支持層の一部が李候補を支持することになり、李候補の支持率上昇に繋がったと考えられる。
 
一方、韓国の世論調査会社「エムブレインパブリック」、「ケイスタットリサーチ」、「コリアリサーチ」、「韓国リサーチ」が共同で実施(調査期間は2月14日~16日、調査対象は成人1,012人)し、2月17日に発表した「全国指標調査(NBS:National Barometer Survey)」によると、2月3週目の尹候補の支持率は40%と1週間前の35%から5ポイントも上昇し、李候補の31%を大きく上回った。
第20代大統領選の主要候補の支持率:「全国指標調査(NBS)」
二つの調査の支持率に差がある理由としては、「リアルメーター」の調査の依頼先が文政権の支持層が想定的に多いインターネット新聞サイト「オーマイニュース(OhmyNews)」であること、調査期間が少し異なること、「全国指標調査(NBS)」は毎回2社以上の調査会社が共同で調査を実施していること、「全国指標調査(NBS)」はARS(音声自動応答システム、ARS=audio responde system)ではなく面接員による電話調査であること、「全国指標調査(NBS)」は回答率を高めるために連絡ができるまで最大5回まで繰り返して連絡をすること等が挙げられる。

2――李在明、尹錫悦候補の主な公約は?

2――李在明、尹錫悦候補の主な公約は?

2月11日に2時間余りにわたり開催された2回目のテレビ討論会で、李候補と尹候補は政策を競い合うことよりも、互いに本人や家族の不正疑惑追及に固執した。国民の関心が、政策よリも不正疑惑に対して高いことがその原因であると考えられるが、今後5年間韓国を率いるリーダーを評価する大事な討論会が、政策討論ではなくは不正疑惑を追及する場に変わってしまったことは非常に残念である。
 
実は、投票日まで15日を切った2月24日現在まで、両候補は多くの公約を発表してきた。両候補が公約とした政策には、どのような差があるのだろうか。今回は、両候補が今まで発表した公約を中心に、経済政策、不動産政策、労働政策について簡単に比較をした。次の二つの表は、李在明、尹錫悦候補のプロフィールと主な政策を比較したものである。
李在明、尹錫悦候補のプロフィール
李在明、尹錫悦候補の主な政策比較

3――李在明、尹錫悦候補の主な経済政策比較

3――李在明、尹錫悦候補の主な経済政策比較

まず、経済政策から見てみよう。李候補は政府の役割拡大を中心とする大きな政府を目指しているのに対して、尹候補は政府の役割をできるだけ小さくし、民間を中心に経済を成長させる小さな政府を志向している。
 
李候補は、基本的に政府の財政支出を拡大し、インフラを構築すると共に先端・基礎科学分野に投資し、未来型人材を育成する計画である。また、経済成長については「555公約」を挙げている。「555公約」とは、大統領任期の5年間で国力を世界第5位にし、一人当たり国民所得を5万ドルにする、そして韓国総合株価指数(KOSPI)を5,000まで引き上げるという経済目標である。
 
一方、再分配政策としては基本シリーズと言われる「基本所得(ベーシックインカム)」、「基本住宅」、「基本貸出」を実施することを表明している。「基本所得」とは、政府が全国民に一定金額の現金を定期的かつ継続的に支給する制度であり、李候補は増税分を財源に段階的に「基本所得」を支給・拡大したいと考えている。
李在明、尹錫悦候補の主な経済政策
具体的な金額と実施時期については反対の議論も多いことを考慮して、未だ明確にしていないが、2020年6月に出演したテレビ番組では、最初は1年に2回程度、すべての国民に一定金額を支給した後、段階的に支給回数や支給金額を増やし、将来的(10~15年後)には一人当たり実質1カ月50万ウォン(約48,077円、2022年2月18日の為替レート1ウォンは0.096154円で計算)程度の基本所得を支給することが望ましいと主張した。
 
また、住宅を所有していない人に相対的に安い賃貸料で30年以上居住できる「基本住宅」を供給し、全国民が長期間(10年~20年)にわたり、最大1000万ウォンまで政府から低金利でお金が借りられる「基本貸出」も実施することを明らかにした。増加した政府支出に対する財源は、基本所得炭素税、基本所得目的税、基本所得土地税などの増税により賄う予定だ。
 
李候補が「基本シリーズ」、「555公約」、「政府の財政支出拡大」等の経済政策を推進する計画であることに比べて、野党「国民の党」の尹候補は、「力強い成長」、温かい福祉、成長と福祉における公正性の確保」を主な内容とする、いわゆる「Yノミクス」に基づいて経済政策を実施する方針だ。
 
尹候補は、政府の介入よりは市場の役割を重視し、民間中心の経済成長を推進したいと考えている。また、コロナにより増加した国の負債を減らすために、国の財政支出を縮小する等、財政の健全化を追求する考えだが、法人税、付加価値税などの増税策については否定的な立場を示している。さらに、証券取引税や総合不動産税も廃止する方針だ。
 
進歩・改革系である李候補が財政支出拡大と増税を考えているのに対して、保守系である尹候補は財政支出縮小による財政健全化と減税を推進しようとしている。このような政治路線による財政政策などの違いは歴代政権からも確認できる。
 
歴代政権における在任期間中の予算増加率をみると、進歩・改革系政権の予算増加率は保守系政権に比べて相対的に高くなっている。例えば、進歩・改革系だった金大中、盧武鉉元大統領の在任期間中の予算増加率はそれぞれ31.6%と117.4%と保守系の李明博、朴槿恵元大統領時代の 20.2%と 13.0%を大きく上回っている。さらに、まだ任期中であるが進歩・改革系の文在寅大統領の予算増加率も39.3%と保守系政権よりも高い。
歴代政権の在任期間中の予算増加率
最後に、エネルギー政策に関しては、両候補共にカーボンニュートラルを目指している。但し、原発に対しては李候補が脱原発を主張しているのに対して、尹候補は脱原発には反対しており、二人の意見が分かれている。
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生活研究部   上席研究員・ヘルスケアリサーチセンター・ジェロントロジー推進室兼任

金 明中 (きむ みょんじゅん)

研究・専門分野
高齢者雇用、不安定労働、働き方改革、貧困・格差、日韓社会政策比較、日韓経済比較、人的資源管理、基礎統計

経歴
  • プロフィール
    【職歴】
    独立行政法人労働政策研究・研修機構アシスタント・フェロー、日本経済研究センター研究員を経て、2008年9月ニッセイ基礎研究所へ、2023年7月から現職

    ・2011年~ 日本女子大学非常勤講師
    ・2015年~ 日本女子大学現代女性キャリア研究所特任研究員
    ・2021年~ 横浜市立大学非常勤講師
    ・2021年~ 専修大学非常勤講師
    ・2021年~ 日本大学非常勤講師
    ・2022年~ 亜細亜大学都市創造学部特任准教授
    ・2022年~ 慶應義塾大学非常勤講師
    ・2024年~ 関東学院大学非常勤講師

    ・2019年  労働政策研究会議準備委員会準備委員
           東アジア経済経営学会理事
    ・2021年  第36回韓日経済経営国際学術大会準備委員会準備委員

    【加入団体等】
    ・日本経済学会
    ・日本労務学会
    ・社会政策学会
    ・日本労使関係研究協会
    ・東アジア経済経営学会
    ・現代韓国朝鮮学会
    ・韓国人事管理学会
    ・博士(慶應義塾大学、商学)

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