2022年01月26日

職域におけるがん対策の現状

保険研究部 准主任研究員・ヘルスケアリサーチセンター兼任   村松 容子

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1――がん罹患等の現状

(公財)がん研究振興財団の「がんの統計」によると、生涯のがん罹患リスク(累計罹患リスク)は上昇傾向にあり、2017年罹患データに基づく推計では男性が65.5%、女性が50.2%だった。男女ともおよそ2人に1人が一生のうちにがんと診断される計算となる。

2018年罹患データによると、全がんのうち、男性に多いがんは、順に前立腺がん、胃がん、大腸がん、肺がん、肝臓がんで、女性に多いがんは順に乳がん、大腸がん、肺がん、胃がん、子宮がんだった1。年齢別に人口10万人あたりの罹患率をみると、大腸がん、胃がん、肺がん、前立腺がん、肝臓がんについては年齢とともに上昇するが、女性の乳がん、子宮がんは30~50代の比較的若い年代で発症している(図表1)。
図表1 年齢階級別罹患率(人口10万対)(2018年診断)
図表2 仕事を持ちながらがんで通院している者(男女計) 2018年に新たに罹患が確認された98万人のうち、20~64歳の就労世代はおよそ24万人と、全体の1/4程度を占めていた2。さらに、従来と比べて、外来での受療が増加しており、仕事を持ちながら、がんで通院する人の数が増加している。厚生労働省の「国民生活基礎調査」に基づく推計によれば、仕事を持ちながら通院している人は、2010年には32.5万人だったのが、2019年には45.0万人となった(図表2)。

女性のがんは比較的若い現役世代でも罹患することから、働く女性が増えていることは、仕事を持ちながら、がんで通院する人の数が増えている要因の1つとなっている。また、男女とも年齢が高いほど罹患者は増えるため、高年齢者雇用安定法による高齢就労者の増加も、要因の1つとなる。

女性の就労や就労者の高齢化は今後も進むと考えられることから、仕事を持ちながら治療を続けるケースは増加していくと考えられる。就労者においては、がんに罹患した場合、いかに副作用や症状等をコントロールしながら仕事や日常生活を継続するかを考える必要性が高まっていると言えるだろう。
 
1 国立がん研究センターがん情報サービス がん情報サービス(https://ganjoho.jp/reg_stat/statistics/stat/summary.html、2022年1月12日アクセス)より。
2 国立がん研究センターがん情報サービス がん情報サービス(https://ganjoho.jp/reg_stat/statistics/stat/summary.html、2022年1月12日アクセス)より。

2――がん政策の動向

2――がん政策の動向

(1) がん対策推進基本計画
日本におけるがん政策は、1984年に「対がん10か年総合戦略」が策定されて以降、「がん克服新10か年戦略(1994年)」「第3次対がん10か年総合戦略(2004年)」と、継続して実施されてきた。2006年には「がん対策基本法」が成立し、2007年に「第1期がん対策推進基本計画」が策定された。第1期がん対策推進計画では、年齢調整死亡率(75歳未満)の20%減少を10年間の目標としたほか、がん診療連携拠点病院の整備や医療従事者の育成、緩和ケア提供体制の強化、地域がん登録の充実が図られた。2012年の「第2期がん対策推進基本計画」では、女性のがんへの対策、就労に関する問題への対応、働く世代の検診受診率の向上、小児がん対策等への取組が盛り込まれた。

しかし、第1期がん対策推進計画で掲げた年齢調整死亡率(75歳未満)の20%減少が達成できていなかったことから、2017年の「第3期がん対策推進基本計画(2017~2022年)」では、引き続き、喫煙や過剰飲酒など生活習慣の見直しや受動喫煙の予防、がんに関連するウイルスや細菌感染の予防などの1次対策のほか、がんの早期発見を目的とする検診の充実とがん検診の精度管理などの「がん予防・がん検診」の強化が目標とされている。そのほか、ビッグデータやAIを活用したがんゲノム医療等を推進し、個人に最適化された患者本位のがん医療を実現すること、がんの罹患をきっかけとした離職者の割合が改善していない現状から、就労を含めた社会的な問題への対応などライフステージに応じた支援を充実させることに取り組み、がんになっても自分らしく生きられる地域共生社会構築が目標として掲げられている。
(2) 職域におけるがん検診の課題
国は、がん検診受診率50%、精密検査受診率90%を目標としている。しかし、受診率は少しずつ向上しているものの、2019年調査時点でも目標の50%に達しておらず、引き続き、がん検診受診勧奨に力を入れている。また、検診の質を維持するための評価指標(がん検診受診率、要精検率、精検受診率、陽性反応適中度、がん発見率等)を設けて、自治体における検診では年齢階級や実施機関別に精度をモニタリングすることとしている。

現在、がん検診を受けている人の約 30~60%が、職域におけるがん検診を受けているとされている。職域におけるがん検診は、定期的な健康診断などとあわせて案内されることが多く、受診のしやすさが最大のメリットである。さらに、経産省等による健康経営優良法人の認定や、健康経営銘柄の選定、加入する健康保険の負担決定において、がん検診の受診率が考慮されることは、企業や健康保険組合にとって受診率を高める経営面でのインセンティブにもなっている。

しかし、職域におけるがん検診は、保険者や企業が福利厚生の一環として実施していることから、検査項目や対象年齢等、検診の実施方法、検査の精度が統一されておらず、効果が把握しにくい状況にある。さらに、従業員が自治体の検診を受けている場合、把握しきれないという課題もある。また、検診費用を負担することで、検診受診を促進している企業もあるが、費用を負担することができず、従業員に十分な検診機会を提供できていない企業もあるのが実態である。厚生労働省では、「職域におけるがん検診に関するマニュアル(2018年)」において、職域で検診が提供できない場合には、市町村が実施する検診を活用することを勧めている。
(3) 企業における就労支援
男女とも2人に1人が生涯でガンと診断されており、特に女性については現役世代でリスクが高いことから、職場においてもがん患者と接する機会が増えているはずである。しかし、国立がんセンターの「平成30年度患者体験調査報告書」によれば、がんの診断時に収入のある仕事をしていた患者の54.2%ががん治療のために休職、休業し、19.8%が退職、廃業したと回答しており、継続した就業が難しいのが現状だ。職場でも、周囲に病気のことを伝えていない労働者もいるため、仕事と治療の両立への理解や支援には改善が必要だと考えられる。こういった状況から、厚生労働省の「事業場における治療と仕事の両立支援のためのガイドライン」によると、がん患者の生存率を現実より低く見積もっていることや、今もがんが稀な病気だと考える傾向があることが指摘されているとおり、従前からのがんのイメージが根強く残っていると考えられる。

また、継続就業や職場復帰をする患者は、元どおり働ける人ばかりではなく、体調にあわせて仕事を継続する必要がある場合も多い。そこで、「第3期がん対策推進基本計画(2018年閣議決定)」や「働き方改革実行計画(2017年働き方改革実現会議決定)に基づき、治療と仕事の両立を社会的にサポートするための環境整備を進めている。具体的には、職場に向けて、適切な就業上の措置や治療に対する配慮を行い、治療と仕事が両立できるようにするためのガイドラインをまとめている3。さらに、治療を受ける労働者向けには、がん診療連携拠点病院や地域がん診療病院に設置されている「がん相談支援センター」等に両立支援コーディネータの研修を受講した相談支援員を専任で配置し、治療状況や病状の職場への伝え方の助言や、個人の病状や治療計画に応じた治療と仕事両立プラン、復職プランの策定を支援している。また、職場への病状の伝え方や復職に向けての情報、体験談等を冊子にまとめている4
 
3 厚生労働省「事業場における治療と仕事の両立支援のためのガイドライン」https://www.mhlw.go.jp/content/11200000/000780068.pdf
4 厚生労働省「仕事とがん治療の両立お役立ちノート」https://chiryoutoshigoto.mhlw.go.jp/dl/library/0000204876.pdf、国立がん研究センター「がんと仕事のQ&A」https://ganjoho.jp/data/public/qa_links/brochure/cancer-work/cancer-work.pdf

3――第4期がん対策推進基本計画に向けた議論

3――第4期がん対策推進基本計画に向けた議論

2020年10月、厚生労働省のがん対策推進協議会で、2023年からスタートする第4期がん対策推進基本計画についての議論がスタートし、現在、第3期がん対策推進基本計画の中間評価が行われている(2021年度中に公表される予定)。

75歳未満のがんの年齢調整死亡率は、全体では着実に低下しているものの、がんの種類によって状況が異なることから、早期診断を含む予防や治療の改善について対象を明確化し、地道な取組を着実に進めていく必要があることが指摘されている。また、国民が、がん予防や早期発見の重要性を認識し、自分や身近な人ががんに罹患しても、そのことを正しく理解し向き合うことができるよう、国は、がんに関する知識の普及啓発のために、学校でのがん教育を進めていくことの重要性も議論されている。

職域におけるがん対策に関連するものとしては、がん患者が、日常生活を続ける中で必要な支援を受けることができる環境の整備について、各種相談窓口の設置と周知によって、支援を受ける患者や患者の家族が増え、その評価も高いため、引き続き周知と支援の充実を行うことが確認されている。その他、1次予防として、子宮頸がんのHPVワクチンについては、積極的な勧奨を差し控えることとした取扱いを終了し、個別の接種勧奨を基本的に 2021 年4月から順次実施することにするなどの感染症対策や、喫煙対策、過度な飲酒への対策、運動習慣の改善、食生活の改善なども、第4期も引き続き実施される模様だ。2次予防として、がん検診については、新型コロナウイルスの感染拡大にともない、検診受診者が減ったことを踏まえ、更なる受診率向上の取組が必要とされている。また、職域における検診の精度管理に向けて、1年以内に、「職域におけるがん検診に関するガイドライン(仮称)」を策定することとされている。また、職場におけるがんに関する知識の普及啓発として、「がん対策推進企業等連携事業(がん対策推進企業アクション)」の充実をはかるとされている。
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保険研究部   准主任研究員・ヘルスケアリサーチセンター兼任

村松 容子 (むらまつ ようこ)

研究・専門分野
健康・医療、生保市場調査

(2022年01月26日「保険・年金フォーカス」)

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【職域におけるがん対策の現状】【シンクタンク】ニッセイ基礎研究所は、保険・年金・社会保障、経済・金融・不動産、暮らし・高齢社会、経営・ビジネスなどの各専門領域の研究員を抱え、様々な情報提供を行っています。

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