2022年01月25日

高度医療機器の国際比較-日本の高度医療機器配備は世界一か?

保険研究部 主席研究員 兼 気候変動リサーチセンター チーフ気候変動アナリスト 兼 ヘルスケアリサーチセンター 主席研究員 篠原 拓也

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1――はじめに

近年、放射線等を用いた画像診断は医療に欠かせないものとなっている。がんの腫瘍をはじめ、脳血管疾患や心疾患の発症部位の状態を画像として把握することで、正確な診断を行い、適切な治療につなげる医療が、当たり前のものとなっている。

日本は、特にCTやMRIなどの診断用の高度医療機器の医療施設への配備が進んでいる、とされてきた。高齢化が進み、生活習慣病のリスクが高まるなかで、画像診断技術を用いた医療の高度化が図られてきた。

本稿では、OECDが2021年に公表している統計データ1をもとに、こうした高度医療機器の各国の配備状況等を比較していくこととしたい。
 
1 OECD Health Statistics 2021 (アドレスは、https://www.oecd.org/els/health-systems/health-data.htm)

2――高度医療機器の国際比較

2――高度医療機器の国際比較

まず、画像診断用の高度医療機器について、簡単にみておきたい。画像検査には、放射線を用いるものと用いないものがある。放射線を用いる検査としては、X線検査(レントゲン検査)、マンモグラフィ検査、X線透視検査(各種の造影検査)、CT検査、核医学検査(シンチグラフィ(ガンマカメラによる撮影))、PET検査などが挙げられる。一方、放射線を用いない検査としては、磁石と電磁波を用いるMRI検査、超音波(ヒトの耳では聞くことのできない周波数の高い音)を用いるエコー検査(超音波検査)がある2

CT検査やMRI検査やエコー検査は、腫瘍などの形や大きさを調べる形態検査といわれる。これに対して、PET検査や核医学検査は、代謝などの機能も見ることができるため、機能検査といわれる。

本稿では、CT、MRI、PET、ガンマカメラ、マンモグラフィについて、各国の配備状況等をみる3
 
2 画像検査の概要については、「放射線の画像検査への活用-放射線医療の現状(前編)」篠原拓也(ニッセイ基礎研究所, 基礎研レポート, 2020年7月31日)をご参照いただきたい。
3 なお、PET、ガンマカメラ、マンモグラフィの検査実施数については、OECDデータにないため、見ることができない。
1日本はCTの使用頻度が低い
まず、CTから見てみよう。CTは、Computed Tomography(コンピュータ断層撮影)の略だ。X線を外部から身体に当てて、断面像を撮影する。CTの配備では、日本は、他国を圧倒している。近年は、各国とも配備の充実により医療の質を向上させる途上にある。
図表1-1. CT台数(人口100万人当たり)
続いて、CT検査の実施状況を見てみよう。日本は配備台数の多さの割に、検査数はそれほど多くない。人口当たりの検査数では、韓国やトルコが日本を上回っている。日本では、他国に比べて、配備されたCTの使用頻度が低い様子がうかがえる。
図表1-2. CT検査数(人口1000人当たり)
2日本はMRIの使用頻度も低い
つぎに、MRIの配備数を見てみよう。MRIはMagnetic Resonance Imaging(磁気共鳴画像診断) の略だ。磁石と電磁波を使って、体内の様子を画像化する。MRIの配備でも、日本は、他国を大きく上回っている。アメリカやドイツなど先進主要国でも、配備を進めつつある。
図表2-1. MRI台数(人口100万人当たり)
続いて、MRIによる検査の状況を見てみよう。CTと同様に、日本は配備台数の多さに比べると、検査数はそれほど多くない。オーストリア、ドイツ、フランス、ノルウェーといったヨーロッパ諸国で、MRI検査がよく行われている。日本は、配備されたMRIの使用頻度も低い状況にある。
図表2-2. MRI検査数(人口1000人当たり)
3日本のPET配備は、CTやMRIほど進んでいない
さらに、PETの配備数を見ていこう。PETは、Positron Emission Tomography(陽電子放出断層撮影)の略だ。がん細胞が多くのブドウ糖を取り込む性質を利用したがん検査法で、放射性物質4を体内に入れて検査を行う。PET配備数で、日本は、デンマーク、アメリカにつぐ位置にある。身体に放射性物質を入れることの抵抗から、CTやMRIほどには配備が進んでいない可能性がある。
図表3. PET台数(人口100万人当たり)
 
4 放射性同位元素フッ素-18を含む、フルオロデオキシグルコース(FDG)。ブドウ糖に近い化学構造を持つ。
4|日本のガンマカメラの配備は、平均を少し上回る位置にとどまっている
続いて、ガンマカメラを見てみよう。PETと同様、放射性物質5を体内に入れて、標的臓器への集積状況をカメラで画像化する。その配備数はアメリカが多い。日本は、33ヵ国平均を少し上回る位置にとどまっている。要因として、体内に放射性物質を入れることへの抵抗感が考えられる。
図表4. ガンマカメラ台数(人口100万人当たり)
 
5 テクネチウム-99mなどの放射性同位元素。
5日本のマンモグラフィの配備は、アメリカの半分ほど
さいごに、マンモグラフィの配備数を見てみよう。マンモグラフィ検査は、乳房専用のX線撮影装置による乳がん検査法として浸透している。配備数は、アメリカ、ギリシャ、韓国が多い。日本は、これらの国の半分ほどで、ベルギー、ポルトガル、イタリアと同規模の配備となっている。乳がんの早期発見のために欠かせない医療機器であり、さらなる配備の充実が求められる。
図表5. マンモグラフィ台数(人口100万人当たり)

3――おわりに (私見)

3――おわりに (私見)

以上、OECDのデータをもとに、画像診断用の高度医療機器の配備状況等を見ていった。日本は、CTやMRIの配備台数では、他国を圧倒している。ただし、これらの機器の検査での使用頻度は低い。背景として、クリニックなどに配備された機器があまり使われていないことが考えられる。機器の共同利用を通じて、有効に活用していくことが望ましいといえるだろう。

また、PET、ガンマカメラについては、アメリカやデンマークほどには配備されていない。これらの機器による機能検査を通じて、診断の精度が高まれば、より効果的な治療につなげることが可能となる。そのためにも、検査で体内に放射性物質を入れることの安全性について、患者等に説明していくことが必要となろう。

さらに、マンモグラフィについても、アメリカ、ギリシャ、韓国の後じんを拝する状況にある。現在、日本では、女性のがんのうち、もっとも多いのが乳がんとなっており、マンモグラフィは、その早期発見の切り札といえる。マンモグラフィを活用した乳がん検診の促進が求められよう。

これまで、日本は、診断用の高度医療機器の配備が進んでいる、とされてきた。ただし、直近の状況をみる限り、各国とも配備の充実により医療の質の向上を図っている。日本でも、高度医療機器の配備と検査での活用を通じて、診断精度を高める取り組みを進めていくことが求められる。

引き続き、医療機器の拡充や活用の状況について、見ていくこととしたい。
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保険研究部   主席研究員 兼 気候変動リサーチセンター チーフ気候変動アナリスト 兼 ヘルスケアリサーチセンター 主席研究員

篠原 拓也 (しのはら たくや)

研究・専門分野
保険商品・計理、共済計理人・コンサルティング業務

経歴
  • 【職歴】
     1992年 日本生命保険相互会社入社
     2014年 ニッセイ基礎研究所へ

    【加入団体等】
     ・日本アクチュアリー会 正会員

(2022年01月25日「基礎研レター」)

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