2022年01月11日

米雇用統計(21年12月)-雇用者数(前月比)は市場予想を大幅に下回ったものの、全般的には労働需給の逼迫を示す結果

経済研究部 主任研究員 窪谷 浩

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1.結果の概要:雇用者数は前月、市場予想を下回った一方、失業率は市場予想を上回る改善

1月7日、米国労働省(BLS)は12月の雇用統計を発表した。非農業部門雇用者数は、前月対比で+19.9万人の増加1(前月改定値:+24.9万人)と、+21.0万人から上方修正された前月を下回ったほか、市場予想の+45.0万人(Bloomberg集計の中央値、以下同様)を大幅に下回った(後掲図表2参照)。

失業率は3.9%(前月:4.2%、市場予想:4.1%)と、こちらは前月から▲0.3%ポイント低下し、市場予想を上回る改善を示した(後掲図表6参照)。労働参加率2は61.9%(前月改定値:61.9%、市場予想:61.9%)と61.8%から上方修正された前月、市場予想に一致した(後掲図表5参照)。
 
1 季節調整済の数値。以下、特に断りがない限り、季節調整済の数値を記載している。
2 労働参加率は、生産年齢人口(16歳以上の人口)に対する労働力人口(就業者数と失業者数を合計したもの)の比率。

2.結果の評価:雇用増加ペースは鈍化も、失業率、賃金動向は労働需給の逼迫を示唆

事業所調査では、12月の非農業部門雇用者数の対前月比増加数が年初来で最低となったほか、年初来の月間平均増加数の+53.7万人を大幅に下回るなど、雇用増加ペースが鈍化したことを示した。もっとも、後述するように過去2ヵ月分が合計で+14.1万人の大幅な上方修正がされているため、12月の雇用鈍化は数値が示すほど悪い結果ではない。

一方、家計調査は、労働参加率が小数第一位まででは前月から横這いとなったものの、就業者数が前月比+65.1万人と堅調な伸びを伴って失業率が低下したことから、前月に続き労働需給の逼迫を示した。
(図表1)時間当たり賃金の伸び率 時間当たり賃金(全雇用者ベース)は、前月比が+0.6%(前月改定値:+0.4%、市場予想:+0.4%)と、21年4月(+0.7%)以来の伸びとなり、+0.3%から小幅上方修正された前月、市場予想を上回った。前年同月比は+4.7%(前月改訂値:+5.1%、市場予想:+4.2%)と、+4.8%から上方修正された前月を下回ったものの、市場予想を上回った(図表1)。前月比で賃金上昇ペースが大幅に加速したことは労働需給が逼迫していることを示す結果と言えよう。

このようにみると、12月は雇用増加ペースが前月から鈍化したものの、過去2ヵ月分が大幅に上方修正された影響を受けたとみられることや、失業率の低下や賃金上昇の加速などから、全般的には労働需給が引き続き逼迫していることを示す結果と言えよう。もっとも、12月の結果はオミクロン株の感染が急拡大した12月中旬以降の雇用環境を反映していない。このため、来月発表される1月の雇用統計でどの程度オミクロン株の影響がでるか注目される。

3.事業所調査の詳細:娯楽・宿泊業の伸びが加速も、全般的に伸びは鈍化

事業所調査のうち、民間サービス部門は前月比+15.7万人(前月:+19.8万人)と前月から伸びが鈍化した(図表2)。
(図表2)非農業部門雇用者数の増減(業種別) 民間サービス部門の中では、娯楽・宿泊業が前月比+5.3万人(前月:+4.1万人)と前月から伸びが加速した一方、専門・ビジネスサービスが+4.3万人(前月:+7.2万人)、運輸・倉庫が+1.9万人(前月:+4.2万人)、医療・社会扶助サービスが+0.6万人(前月:+0.8万人)と、前月から伸びが鈍化した。さらに、小売業は▲0.2万人(前月:▲1.3万人)と2ヵ月連続マイナスとなった。

財生産部門は前月比+5.4万人(前月:+7.2万人)と前月から伸びが鈍化した。製造業が+2.6万人(前月:+3.5万人)、建設業が+2.2万人(前月:+3.5万人)といずれも鈍化した。

政府部門は前月比▲1.2万人(前月:▲2.1万人)とマイナス幅が縮小したものの、5ヵ月連続でマイナスとなった。内訳をみると、連邦政府が▲0.2万人(前月:+0.4万人)とマイナスに転じた一方、州・地方政府が▲1.0万人(前月:▲2.5万人)とマイナス幅が縮小した。
前月(11月)と前々月(10月)の雇用増加数(改定値)は前月が+24.9万人(改定前:+21.0万人)と+3.9万人上方修正されたほか、前々月は+64.8万人(改定前:+54.6万人)と+10.2万人上方修正された。この結果、2ヵ月合計の修正幅は+14.1万人の上方修正となった(図表3)。
 
BLSの公表に先立って1月5日に発表されたADP社の推計は、非農業部門(政府部門除く)の雇用増加数が前月比+80.7万人(前月改定値:+50.5万人、市場予想:+41.0万人)と+53.4万人から下方修正された前月、市場予想を大幅に上回った。この結果、ADP社の統計は、前月から鈍化し、雇用の伸びも20万人弱に留まった雇用統計と大幅に乖離する結果となった。
 
12月の賃金・労働時間(全雇用者ベース)は、民間平均の時間当たり賃金が31.31ドル(前月:31.12ドル)となり、前月から+19セント増加した。一方、週当たり労働時間は34.7時間(前月:34.7時間)と前月から横這いとなった。この結果、週当たり賃金は1,086.46ドル(前月:1,079.86ドル)と前月から増加した(図表4)。
(図表3)前月分・前々月分の改定幅/(図表4)民間非農業部門の週当たり賃金伸び率(年率換算、寄与度)

4.家計調査の詳細:労働力人口は増加も労働参加率は小数第一位まででは横這い

家計調査のうち、12月の労働力人口は前月対比で+16.8万人(前月:+51.6万人)と前月から伸びが鈍化した。内訳を見ると、失業者数が▲48.3万人(前月:▲57.3万人)と前月からマイナス幅が縮小したものの、就業者数が+65.1万人(前月:+109.0万人)と伸びが鈍化して労働力人口を押し下げた。非労働力人口は▲6.0万人(前月:▲39.6万人)とマイナス幅は縮小したものの、2ヵ月連続のマイナスとなった。

これらの結果、労働力人口は増加したものの、労働参加率は小数第一位まででは横這いとなった(図表5)。

一方、プライムエイジと呼ばれる働き盛り(25~54歳)のみの労働参加率は12月が81.9%(前月:81.9%)と前月から横這いとなった。男女の内訳は、男性が88.0%(前月:88.2%)と前月から▲0.2%ポイント低下した一方、女性が75.9%(前月:75.7%)と+0.2%ポイント増加した。女性の改善は3ヵ月連続となっており、学校再開に伴い子育て世代の労働市場への再参入が増加した可能性が考えられる。

12月の失業率は3.9%と21年6月の5.9%から6ヵ月連続の低下となり、新型コロナ流行前の20年2月(3.5%)以来の3%台となった(図表6)。
(図表5)労働参加率の変化(要因分解)/(図表6)失業率の変化(要因分解)
12月の長期失業者数(27週以上の失業者人数)は200.8万人(前月:219.3万人)と前月から▲18.5万人減少した。一方、長期失業者の失業者全体に占めるシェアは31.7%(前月:32.5%)とこちらも前月から▲0.8%ポイント低下した(図表7)。平均失業期間は28.6週(前月:29.1週)と前月から▲0.5週短期化した。
 
最後に、周辺労働力人口(163.9万人)3や、経済的理由によるパートタイマー(392.9万人)も考慮した広義の失業率(U-6)4は、12月が7.3%(前月:7.7%)と前月から▲0.4%ポイント低下した(図表8)。また、通常の失業率(U-3)との乖離幅は+3.4%ポイント(前月:+3.5%ポイント)と前月から▲0.1%ポイント低下した。
(図表7)失業期間の分布と平均失業期間/(図表8)広義失業率の推移
 
3 周辺労働力とは、職に就いておらず、過去4週間では求職活動もしていないが、過去12カ月の間には求職活動をしたことがあり、働くことが可能で、また、働きたいと考えている者。
4 U-6は、失業者に周辺労働力と経済的理由によりパートタイムで働いている者を加えたものを労働力人口と周辺労働力人口の和で除したもの。つまり、U-6=(失業者+周辺労働力人口+経済的理由によるパートタイマー)/(労働力人口+周辺労働力人口)。
 
 

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経済研究部   主任研究員

窪谷 浩 (くぼたに ひろし)

研究・専門分野
米国経済

経歴
  • 【職歴】
     1991年 日本生命保険相互会社入社
     1999年 NLI International Inc.(米国)
     2004年 ニッセイアセットマネジメント株式会社
     2008年 公益財団法人 国際金融情報センター
     2014年10月より現職

    【加入団体等】
     ・日本証券アナリスト協会 検定会員

(2022年01月11日「経済・金融フラッシュ」)

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