コラム
2022年01月06日

コロナ禍における保健所の機能と課題(3)-コロナ対策特有の保健所業務2-

生活研究部 研究員・ジェロントロジー推進室・ヘルスケアリサーチセンター 兼任   乾 愛

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1.はじめに

前稿では、「コロナ禍における保健所の機能と課題(2)−コロナ対策特有の保健所業務1−」 について概説した1。本稿では、前稿に引き続き、コロナ禍特有の保健所業務(療養中の健康観察から保健所連携)と課題について概説する。

2.自宅療養中の健康観察

保健所は、中等症患者が宿泊療養へ移行する場合、また、軽症者及び無症候患者が自宅療養をする場合、さらに入院後回復し、自宅療養へ移るため病院から退院連絡を受けた場合には、療養中の陽性・陰性確認のPCR検査の手配や、一日2回の健康観察等を実施する必要がある。また、医療提供体制の逼迫を受けて、2021年2月には新型インフルエンザ等対策特別措置・感染症法および検疫法の一部が改正2され、上述の対応に加え、外出制限に伴う日用品の提供や食事支援等に対する対応の必要性が生じた。そのため、新規陽性者の発生速度に対する保健所の対応が間に合わず、自宅療養期間が明けたころに保健所から健康管理の連絡があったり、自宅療養期間中の日用品や食事の支援が受けられないままとなるなど、罹患者が自宅療養に不安を抱く実態が次々に報告されることとなった3,4

この様な、保健所による迅速な対応を妨げる要因として感染者の健康観察を1人に対して毎日2回実施する必要があることがあげられる。新型コロナウイルス感染症の場合、軽症者が呼吸器を装着する必要があるほど急激な症状の変化が引き起こされる為、感染者に対する健康状態の頻繁な観察が欠かせない。しかし通常、保健所の感染症担当課は数人から10名程度であり、他課からの応援があっても健康状態の確認は医師や保健師などの医療職者が実施する必要があるため、対応できる人数が限られる。その上感染者は毎日増加することにより、一人につき14日間の健康観察期間が積み重なる。2020年4月頃の報告では、保健所は濃厚接触者や検体回収に一人で毎日50人ほど対応していたとの報告もあり5、患者登録や検体回収の合間に健康観察を実施しても業務は終わらない状況であった。

健康観察の内容は、喀痰や咳嗽、嘔吐や下痢などの症状に加え、息苦しさの程度、表情や外見に通常時と異なる部分があるかなど一日2回、必要な方は一日4回のセルフチェックを踏まえ(参照:図1)、状態変化を捉える必要がある6。そのため保健所による患者一人ひとりの健康観察にも一定時間必要であることが分かる。(参照:図2)

今後、自治体では、2021年度の採用職員を増員した神戸市などの雇用確保や7、2021年8月頃に内閣府から情報提供があった健康観察アプリの導入などを進め感染者が増大した場合にも対応できるよう対応方策を練る必要があるだろう。

さらに、療養中の女性が、他者に感染させてしまったかもしれないという自責の念から自殺した事例も明らかとなっており8、保健所は専門職による健康観察体制の整備に加え、行政の臨床心理士や精神保健福祉士などを活用して感染者のメンタルケアの強化も望まれる。
 
2 厚生労働省健康局長(2021)「感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律等の改正について」(新型インフルエンザ等対策特別措置法等の一部を改正する法律関係)
3 朝日新聞デジタル(2021)「保健所からの連絡電話が来ない 職員「普通の状態じゃない」」
4 MBSNEWS(2021)「【特集】感染した23歳記者が自ら撮影した“保健所から連絡が来ない日々”「私だけ忘れられている?」家庭内感染の不安、味覚障害のつらさ」
5 日本経済新聞(2021)「保健所激務、連日深夜まで 検体回収や経路追跡に奔走」
6 厚生労働省新型コロナウイルス感染症対策推進本部(2021)「新型コロナウイルス感染症の軽症者等に係る宿泊療養・自宅療養における健康観察における留意点について」
7 神戸市(2021)令和3年度神戸市職員(保健師)採用選考の変更について
8 西日本新聞me(2021)「コロナ療養中の女性が自殺「職場でうつしたかも」メモ残し」2021年5月24日

3.濃厚接触者とその居住地保健所連携

PCR検査で陽性が確定した感染者に対し、積極的疫学調査から濃厚接触者が特定された場合には、その濃厚接触者の居住地保健所への連絡が必要となる。

依頼を受けた居住地の管轄保健所は、管轄地域への新型コロナウイルス感染症対策に加え、濃厚接触者の健康観察と療養期間中のPCR検査の手配、療養相談等や外出制限対応等が求められる。

また、入国者健康確認センターからの依頼を受けて感染流行地域からの帰国者の健康観察やPCR検査の手配、積極的疫学調査などの対応も必要となる。これは、諸外国からの渡航者が症状を有していない(無症候性)場合でも、日本で流行していないウイルス型を保有している可能性があるためであり、急変対応や外出制限の徹底、入国者健康センターから受けた対応も保健所の重要な役割となっている。

この様に、保健所は、管轄地域の感染症対策を徹底しても、県境をまたぐ者や国内外を往来する者がいる限り、対応が求められるのである。

4.施設への消毒命令

保健所長は、感染者に対する積極的疫学調査において、感染した際の場所の特定や消毒する範囲を明らかにし、その施設等を管理している者に感染拡大防止の観点から、消毒命令を下す必要がある。しかし、実際は、単に命令を下すに留まらず、次亜塩素酸ナトリウム溶液や消毒用エタノール液などの有用な消毒薬の準備や消毒業者の手配など9、新型コロナウイルス感染症に関する効果的な対応方法について、保健所がその一連の準備や作業、消毒完了まで相談を受けて指示する必要がある。

特に、消毒を施す際には、共用部分のみならず、感染者が接触したと推測される箇所やルートを把握した上で、消毒する必要がある。そのため消毒命令を下された施設管理者との綿密な情報共有が重要となる。

上記以外にも、コロナ禍における保健所は、各種関係機関との連絡調整、国や都道府県への報告及び報告書類の作成など、表には見えない業務に追われている。
 
9 船橋市HP(2021)「患者発生から消毒までの流れ、消毒方法について」

5.まとめ

ここまでコロナ禍特有の業務に翻弄される保健所の実態について述べてきた。前々稿から3回に分けて記してきたとおり、保健所は通常業務にコロナ禍特有の業務も加わり、感染拡大とともに増える膨大な業務量に必死に堪える状況が続いている。次稿では、筆者の行政保健師としての経験を含め、保健所の組織体制や保健師の人員配置、教育システムなどの課題について考察する。
図1.新型コロナウイルス感染症の療養時における留意点
図2.新型コロナウイルス感染症軽症者等の健康観察票
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生活研究部   研究員・ジェロントロジー推進室・ヘルスケアリサーチセンター 兼任

乾 愛 (いぬい めぐみ)

研究・専門分野
母子保健・高齢社会・健康・医療・ヘルスケア

(2022年01月06日「研究員の眼」)

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