コラム
2021年04月27日

SARS-CoV-2のウイルス学的特徴及び感染予防対策

生活研究部 研究員・ジェロントロジー推進室・ヘルスケアリサーチセンター 兼任   乾 愛

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1.SARS-CoV-2ウイルス学的特徴

現在、猛威をふるう新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)は、複数のウイルス型が認められており1)、その型により威力や感染傾向が異なる。2021年4月現在、日本国内に拡大するウイルスは、昨春に国内に持ち込まれたもの(従来型2))に加え、英国で増加を始めた「VOC-202012/01」、南アフリカで検出された「501Y.V2」、ブラジルからの帰国者から検出された「501Y.V3」の3種類の新規変異株(以下、変異株)が認められている。また、4月22日には最新の変異株のウイルス型として、インドで流行している「B.1.617」が検出されたことも発表されてる。

これらの変異株のうち「VOC-202012/01」は、塩基配列「N501Y」の変異が認められているため、従来型に比べ実効再生産数が43-90%高く4,5)、死亡リスクも55%上昇するという報告がある6)。既にイギリスでは、従来型に比べて子どもへの感染率が高いことも指摘されている7)。また、「501Y.V2」では、塩基配列「N501Y」及び「E484K」の変異が認められているため、免疫や従来のワクチン効果を低減させる可能性があることが判明している8)

国内においても疫学的な研究が進められており、国立感染症研究所では、2021年4月5日までにHER-SYS(感染者等情報把握・管理システム)に登録された国内感染例1997例のうち新規変異株症例(「VOC-202012/01」803例、「501Y.V2」16例、「501Y.V3」55例)の解析結果について公表している(表1参照)。この解析の結果、「VOC-202012/01」、「501Y.V2」、「501Y.V3」では1割-2割程度無症状を示すこと、「VOC-202012/01」の解析対象期間(2021年2月1日-3月22日)における実効再生産数の期待値は単純計算で従来型の1.32倍と、従来型より変異株の方が実効再生産数が高いことが示されている。また、「VOC-202012/01」と従来型を比較した場合、男女差は認められないものの、年齢群比較においては0-5歳、6-17歳の割合が有意に高いという疫学特性も明らかにされている9)(表2参照)。さらに「B.1.617」については、「E484Q」「L452R」の変異が認められており、同様の変異をもつウイルスでは、感染力が従来型より20%高く、抗体の有効性を50%以上減少させる可能性が示唆されている10,11)

このような特性をもつ変異株の感染予防には、どのような対策が有用なのだろうか。以降では、この1年ほどの間に様々な研究や実験を通じて蓄積されてきた感染予防対策に関する情報を基に、有用な対策について述べる。
表1.新規変異株陽性例の基本特性
表2.VOC-202012/01症例と従来株症例の臨床疫学的特性の比較:症例対照研究

2.変異株に有用な感染予防対策

(1)マスクの着用
マスクの着用については、マスクの素材及び着用方法に注意する必要がある。マスクを正しく着用した人頭モデルにミスト生成装置を接続し、飛沫の飛散状況をレーザーで測定した実験では、不織布マスクにおいて吐き出し飛沫量が8割捕集されること、吸入飛沫量が1/3に減少することが判明した。

また、ウレタン素材のマスクは不織布に比べると格段に効果が低く、フェイスシールドやマウスシールドはエアロゾルに対して全く効果がないことも判明している。さらにマスクの装着の仕方では、不織布マスクのノーズフィッターをW型に折り曲げて鼻を押さえながらフィットさせ、顎を覆うように伸ばして装着すると、吸い込み時のウイルス捕集率が80%を超えることが判明している12)
 
(2)手洗い
手洗いにおいては、厚生労働省やメディアなどで正しい手洗いの方法について周知されてきた13)。ただしこの手洗いの方法には、帰宅時や食事の前後などのタイミングが非常に重要であること、爪を短く切ることや時計、指輪を外さなければ効果が減退してしまうことなど注意すべき点も少なくない。

公衆衛生観念が浸透している日本でさえ、この様な正しいマスクの装着や手洗いの実施率がどの程度であるかはデータが存在しない。正しいマスクと手洗いの実施率を検証することは困難であるが、マスクの着用率95%となれば都市封鎖が回避できる可能性もあることが示されており14,15)、これらの正しい方法を大半が実施できれば、変異株対策としても非常に重要な対策になり得る。
 
(3)3密の回避
日常生活においては、通常の会話に比べて大声や歌唱では飛沫量が約10倍以上増え、飲食を伴う歌唱では14倍に増加するとされている12)ことから、宴会やカラオケではマスクを装着していても感染を防ぐことは困難であると思われる。経済活動を止めることには迷いや反発が伴う可能性があるが、現在考慮すべき最優先事項が感染症から人命を守ることにあるとすれば、変異株が流行している現在、宴会場となる可能性のある飲食店やカラオケ店においては、補償を含めた営業停止を一定期間実施し、強制力を持って3密の回避につなげることも検討する必要があると考える。

従来の感染予防対策では、飲食店やオフィスが主となり実施されてきたが、現在流行している変異株を抑え込むには、若年層が多くの時間を過ごす教育機関や託児施設での対策も重要となる。現在深刻な感染状況にある大阪府では、4月14日に大阪府知事は府立学校での部活動の原則休止を16)、4月19日に大阪市長は緊急事態宣言が出された場合、小中学校での原則授業のオンライン化を検討することを発表した17)。また政府は4月23日に4月25日から5月11日までの期間、大阪府、兵庫県、東京都、京都府へ緊急事態宣言を発出した18)

変異株から若年層を守るには、この様な他者との接触場面を極力減らす徹底した対策を、大阪府だけでなく、感染拡大地域に往来がある近郊の地域についても、実施する必要がある。また、発達段階を考慮すると、幼稚園や保育園では適切なマスクの着用及び手洗い、行動制限を実施することは難しく、また、これらの児童に関わる教職員や保育士は従来よりも高い感染のリスクにさらされている。

一方で、現在の感染拡大の主因となっている変異株の検出についてみると、変異株PCR検査は、新規感染者(陽性者)の40%を対象に実施することを目標としているが、実際の変異株PCR検査の実施率は全国平均32%に留まる3)。民間検査機関の活用をしながら変異株の検出を迅速化することができれば、変異株の特性を考慮した上での行動制限や社会的制約の範囲を決定するための一助になるものと思われる。変異株の特性を考慮すれば、これらの感染リスクの高い機関や施設についても、頻回な消毒の必要性を考慮し有効性が確認されている濃度0.05%以上の次亜塩素酸ナトリウムの物品配付19)や、教育機関や託児施設等に変異株PCR検査の対象を拡大するなどの対策を講じる必要があると考える。

まとめ

感染力が高い変異型の流行が本格化する中、感染を予防していくためには厳格な3密対策、正しい手洗いやマスクの装着など、日常生活における対策を今一度徹底していくことが求められている。感染予防にむけては一人ひとりが今一度緊張感をもって取り組んでいくことに期待したい。

参考文献

1)GSAID“Genomic epidemioloGy of hCoV-19”.
https://www.gisaid.org/phylodynamics/
2)Yasuhiko Kamikubo, et al.(2020)“Paradoxical dynamics of SARS-CoV-2 by herd immunity and antibody-dependent enhancement”,Cambridge Open Engage, Jun 2020,Version 2.
https://www.cambridge.org/engage/coe/article-details/5eed5ac5f1b696001869033f
3)厚生労働省(2021)「新型コロナウイルス感染症(変異株)への対応について」『新型コロナウイルス感染症対策推進本部』
https://www.mhlw.go.jp/content/10900000/000766545.pdf
4)Davies NG et al.(2021) “Estimated transmissibility and impact of SARS-CoV-2 lineage B.1.1.7 in England”Science,Mar 2021,eabg3055.
5)Erik Volz  et al. (2020) “Transmission of SARS-CoV-2 Lineage B.1.1.7 in England:”Insights from linking epidemiological and genetic data, medRxiv,Dec2020,
https://doi.org/10.1101/2020.12.30.20249034
6)Davies NG et al. (2021)“Increased mortality in community-tested cases of SARS-CoV-2 lineage B.1.1.7” Nature, Mar 2021.
https://science.sciencemag.org/content/sci/372/6538/eabg3055.full.pdf
7)Mahase E. (2020)“Covid-19: What have we learnt about the new variant in the UK?”BMJ,Dec 2020,371:m4944.
https://www.bmj.com/content/bmj/371/bmj.m4944.full.pdf
8)Sandile Cele et al.(2021)“Escape of SARS-CoV-2 501Y.V2 from neutralization by convalescent plasma” Nature, Accelerated Article Preview Published online,March 2021.
https://www.nature.com/articles/s41586-021-03471-w.pdf
9)国立感染症研究所(2021)日本国内で報告された新規変異株症例の疫学的分析(第1報)
https://www.niid.go.jp/niid/ja/diseases/ka/corona-virus/2019-ncov/10279-covid19-40.html
10)Bhuma Shrivastava et al.(2021)“Is a double mutant COVID variant behind India’s record surge?”Bloomberg,Apr 2021.
https://www.aljazeera.com/news/2021/4/19/is-a-double-mutant-covid-variant-behind-indias-record-surge
11)Dami A. Collier et al.(2021)“ Sensitivity of SARS-CoV-2 B.1.1.7 to mRNA vaccine-elicited antibodies”Nature, March 2021,
https://www.nature.com/articles/s41586-021-03412-7.pdf
12)飯田明由(2021),「マスクの流体力学」国立大学法人豊橋技術科学大学 機械工学系
https://www.hpci-office.jp/invite2/documents2/ws_cae_210312_iida.pdf
13)厚生労働省(2020)「新型コロナ対策「手洗い」」
https://www.mhlw.go.jp/content/10900000/000593494.pdf
14)WHO(2020)“Lockdowns wouldn’t be needed if mask use reached 95 percent”
https://www.politico.eu/article/who-lockdowns-wouldnt-be-needed-if-mask-use-reached-95-percent/
15)Henning Bundgaard et al. “Effectiveness of Adding a Mask Recommendation to Other Public Health Measures to Prevent SARS-CoV-2 Infection in Danish Mask Wearers”Annals of internal Medicine,March 2021.
https://www.acpjournals.org/doi/full/10.7326/M20-6817?journalCode=aim
16)第45回大阪府新型コロナウイルス対策本部会議(2021)「レッドステージ2における府立学校の今後の教育活動等について」
http://www.pref.osaka.lg.jp/attach/38215/00392546/2-3_kyouikukatudou_45.pdf
17)大阪市教育委員会(2021)「新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に伴う学校園の対応について」
https://www.city.osaka.lg.jp/kyoiku/page/0000496258.html
18)内閣官房新型インフルエンザ等対策室(2021)「新型コロナウイルス感染症対策本部(第62回)資料」令和3年4月23日
http://www.kantei.go.jp/jp/singi/novel_coronavirus/th_siryou/sidai_r030423.pdf
19)経済産業省(2020)「新型コロナウイルスに有効な消毒・除菌一覧」
https://www.meti.go.jp/covid-19/pdf/shodoku_jokin.pdf
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生活研究部   研究員・ジェロントロジー推進室・ヘルスケアリサーチセンター 兼任

乾 愛 (いぬい めぐみ)

研究・専門分野
母子保健・高齢社会・健康・医療・ヘルスケア

(2021年04月27日「研究員の眼」)

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