2021年11月26日

ワクチン接種証明による行動制限緩和についての考え方-肯定層は約6割、より安心安全な環境を求める高齢層ほど前向き

生活研究部 上席研究員 久我 尚子

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1――はじめに~動き出す消費、接種証明等を活用した行動制限の緩和に対する消費者の意識は?

新型コロナウイルス感染症の感染者数が抑えられた状況が続き、外食やレジャーなどの外出型消費が動き出している。10月から政府は感染対策と経済再開の両立を図るために、ワクチン接種証明や陰性証明を活用した行動制限緩和に向けた実証実験を実施している。

ワクチン接種証明等の活用については、6月に経団連が「ワクチン接種記録(ワクチンパスポート)の早期活用を求める」との提言において、ワクチン未接種者の差別や偏見に繋がらないように陰性証明を活用するなど合理的な配慮を行った上で、具体的な活用の方向性を示している(図表1)。

本稿では、この提言などを参考に、ニッセイ基礎研究所が7月上旬と9月下旬に実施した調査結果1を用いて、接種証明等を活用した行動制限緩和の方向性についての消費者の意識を報告する。
図表1 ワクチン接種記録(ワクチンパスポート)の国内における活用の方向性
 
1 ニッセイ基礎研究所「2020・2021年度特別調査 新型コロナによる暮らしの変化に関する調査(第1回~第6回)」、ワクチン接種証明等の活用について尋ねた第5回は7/5~7/7、第6回は9/22~9/29に実施。調査対象は全国の20~74歳の男女約2,500名。インターネット調査。株式会社マクロミルのモニターを利用。

2――ワクチン接種証明等の活用に対する基本的な考え方

2――ワクチン接種証明等の活用に対する基本的な考え方~肯定層は約6割、接種の進行とともに増加

1全体の状況~接種証明の活用に対して約6割が肯定的、7月よりやや増加
接種証明や陰性証明を活用して行動制限を緩和していくことについて、どのように考えるかを尋ねたところ、9月の調査では「条件付きで進めると思う」(37.5%)が最も多く、次いで「進めるべきだと思う」(22.8%)が続き、両者をあわせた肯定的な層は60.3%を占める(図表2)。

7月の調査では、海外での利用が前提とされるワクチンパスポートの国内活用についての考え方として尋ねたため、ニュアンスや選択肢が異なり、厳密な比較はできないが、「国内でも利用していくとよいが、活用対象については慎重に検討した方がよい」(30.8%)と「国内でも積極的に活用していくとよい」(25.4%)を合わせた肯定層は56.2%を占めるため、9月では肯定層がやや増加している。
図表2 ワクチン接種済み証明等の活用に対する基本的な考え方
2属性別の状況~自粛傾向の強い高年齢層ほど肯定的、ワクチン接種の進む40~60歳代で肯定層増加
9月の結果について属性別に見ると、性別では肯定層は男性(62.6%)が女性(57.9%)を+4.7%pt上回るが、どちらも約6割が肯定的に捉えている(図表3)。なお、7月の肯定層は男性57.1%、女性55.4%であり、男女とも9月では肯定層が増えている(図表4)。
図表3 ワクチン接種済み証明等の活用に対する基本的な考え方
図表4 ワクチン接種済み証明等の活用に対する基本的な考え方についての肯定層の変化(7月と9月)
年代別に見ると、年齢が高いほど肯定層が増える傾向があり、70~74歳(75.9%)では20歳代及び30歳代を20%pt以上上回る。一方、若いほど否定層が増える傾向があり、20歳代及び30歳代では70~74歳を10%pt以上上回る。この背景には、重篤化リスクの高い高年齢層ほどコロナ禍で外出を自粛しており、安心安全な環境で消費行動が再開できることをより強く求めていることがあげられる。既出レポートで見た通り、店舗での買い物や外食など、様々な面で高年齢層ほどコロナ前と比べて外出を伴う行動を控えている2

また、7月と比べると、40歳代以上では肯定層が増えており、特に60歳代での増加が目立つ(図表4)。この背景には、7月から9月にかけてワクチン接種完了者が増えた年代であり、接種証明等を活用した行動制限の緩和について、一層、自分事として捉えるようになった(実際に飲食店などを利用することを想像しやすくなった)ことがあげられる。

年代別にワクチン接種状況を見ると、7月と9月の調査時点での2回目接種率は60歳代(20.0%→84.8%で+64.8%pt)で最も上昇しており、次いで、50歳代(4.1%→61.3%、+57.2%pt)、70~74歳(43.2%→92.6%、+49.4%pt)、40歳代(6.0%→52.7%、+46.7%)と続く(図表5)。よって、若い年代でもワクチン接種が進むことで肯定層は増えていくと予想され、現時点では肯定層は当調査の結果より増えている可能性がある。

なお、国民全体に占める2回目接種者の割合は、7月の調査時点では1割強、9月では過半数を占めていたが、足元では70.84%に上る(政府CIОポータル「新型コロナワクチンの接種状況(一般接種(高齢者含む))2021/11/17時点)」)。
図表5 ワクチン接種状況の変化(7月と9月の調査時点)
 
2 久我尚子「年代別に見たコロナ禍の行動・意識の特徴~買い物手段編」、ニッセイ基礎研究所、基礎研レポート(2020/12/8)や「年代別に見たコロナ禍の行動・意識の特徴~食生活編」、ニッセイ基礎研究所、基礎研レポート(2020/12/16)など。

3――行動制限緩和の条件

3――行動制限緩和の条件~感染拡大の状況にないこと、感染不安の強い女性や高年齢層ほど慎重

1全体の状況~上位は病床がひっ迫していないことなど感染拡大の状況にないこと
9月の調査では接種証明等を活用して行動制限を緩和していくことについての条件を尋ねたところ、最も多いのは「病床がひっ迫していないこと」(50.1%)であり、次いで「重症者数がおさえられていること」(45.6%)、「新規陽性者数がおさえられていること」(40.1%)が4割台で続き、感染拡大の状況にないことに関する項目が上位にあがる(図表6)。

また、冒頭で述べた通り、経団連では未接種者への差別や偏見につながらないように陰性証明の活用などを提言しているが、「接種義務化や差別の助長につながらないこと」(28.4%)も比較的上位にあがる。

なお、「接種済み証明の有効期限が定まること」は15.0%だが、現時点では政府は「ワクチン・検査パッケージ」の概要等において当面は有効期限を定めない方針を出している。一方で海外の感染拡大状況やワクチン接種による予防効果は時間とともに低下するために、来月から国内でも3回目の接種(ブースター接種)が開始されることなどから、今後の議論における重要な観点の1つと言える。

また、「どのような条件であれ賛成できない」(6.8%)は1割未満であり、その約7割はワクチン接種に対して前向きではない層3が占める。
図表6 ワクチン接種証明等を活用して行動制限を緩和していくことにおける条件(9月、n=2,579、複数選択)
 
3 ワクチン接種状況及び意向の問で「まだ予約しておらず、しばらく様子を見てから接種したい」や「まだ予約しておらず、あまり接種したくない」、「まだ予約しておらず、絶対に接種したくない」と選択者
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生活研究部   上席研究員

久我 尚子 (くが なおこ)

研究・専門分野
消費者行動、心理統計、マーケティング

経歴
  • プロフィール
    【職歴】
     2001年 株式会社エヌ・ティ・ティ・ドコモ入社
     2007年 独立行政法人日本学術振興会特別研究員(統計科学)採用
     2010年 ニッセイ基礎研究所 生活研究部門
     2021年7月より現職

    ・神奈川県「神奈川なでしこブランドアドバイザリー委員会」委員(2013年~2019年)
    ・内閣府「統計委員会」専門委員(2013年~2015年)
    ・総務省「速報性のある包括的な消費関連指標の在り方に関する研究会」委員(2016~2017年)
    ・東京都「東京都監理団体経営目標評価制度に係る評価委員会」委員(2017年~2021年)
    ・東京都「東京都立図書館協議会」委員(2019年~2023年)
    ・総務省「統計委員会」臨時委員(2019年~2023年)
    ・経済産業省「産業構造審議会」臨時委員(2022年~)
    ・総務省「統計委員会」委員(2023年~)

    【加入団体等】
     日本マーケティング・サイエンス学会、日本消費者行動研究学会、
     生命保険経営学会、日本行動計量学会、Psychometric Society

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