2021年11月10日

貸出・マネタリー統計(21年10月)~銀行貸出の伸び率に底入れ感、定期預金の減少ペースが加速

経済研究部 上席エコノミスト 上野 剛志

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1.貸出動向:貸出の伸びに底入れ感

(貸出残高)                                                                  
11月9日に発表された貸出・預金動向(速報)によると、10月の銀行貸出(平均残高)の伸び率は前年比0.81%と前月(同0.44%)を上回った。伸び率の上昇は2ヵ月連続で、伸び率の水準は5ヵ月ぶりの高水準となった(図表1)。

昨年、コロナの感染拡大を受けて予備的に借り入れた企業による資金返済が一服した可能性があるほか、円安が進行したことで外貨建て貸出の円換算残高が嵩上げされたことも伸び率を0.1%程度押し上げたとみられる(図表3)。
(図表1) 銀行貸出残高の増減率/(図表2) 業態別の貸出残高増減率/(図表3) ドル円レートの前年比(月次平均)/(図表4)信用保証実績
業態別に見た場合には、都銀の伸び率が前年比-0.62%(前月は-1.14%)と依然前年割れながら2カ月連続でマイナス幅を大きく縮小した。また、地銀(第2地銀を含む)の伸び率も前年比2.05%(前月は1.81%)と7カ月ぶりに上昇に転じている(図表2)。
(主要銀行貸出動向アンケート調査)
日銀が10月21日に発表した主要銀行貸出動向アンケート調査によれば、2021年7-9月期の(銀行から見た)企業の資金需要増減を示す企業向け資金需要判断D.I.は▲3と前回(21年4-6月期)の▲11から上昇した。依然としてマイナス圏(「(やや)減少」とする先が優勢)ながら、資金需要の減少は一服しつつある(図表5)。

企業規模別では、大企業向けが▲1(前回は▲11)、中小企業向けが▲3(前回は▲12)とともに非製造業を中心に持ち直している(図表6)。需要が「(やや)減少した」と答えた先にその要因を尋ねた問いでは、大企業向けでは「資金繰りの好転」とポジティブな理由を挙げた先が最多となった一方、中小企業向けでは「設備投資の減少」や「売上の減少」というネガティブな理由を挙げた先が多く、対照的な結果となっている。
 
個人向け資金需要判断D.I.は5と前回(4)から小幅に上昇し、プラス圏(「(やや)増加」が優勢)を維持している(図表5)。内訳では、消費者ローンのD.I.が0(前回は4)と低下したものの、住宅ローンのD.I.が10(前回は6)と上昇し、牽引役となった。日本経済は7-9月期にかけて低迷が続いたものの、住宅投資やその裏付けである住宅ローンの需要は底堅く推移している。
 
今後3ヵ月の資金需要については、企業向けD.I.が2、個人向けD.I.が3と、ともに7-9月期の状況から小幅に増加するとの見立てになっている(図表5)。緊急事態宣言等の解除に伴って経済活動が活発化し、資金需要の回復に繋がるとの期待が反映されているとみられる。
(図表5)資金需要判断DI/(図表6)資金需要判断DI (大・中小企業)

2.マネタリーベース:15ヵ月ぶりに伸び率が一桁に低下

11月2日に発表された10月のマネタリーベースによると、日銀による資金供給量(日銀当座預金+市中に流通する紙幣・貨幣)を示すマネタリーベース(平残)の伸び率は前年比9.9%と、前月(同11.7%)を下回り、6カ月連続で鈍化した(図表7)。伸び率が1桁になったのは昨年7月以来のことだ。

鈍化の主因は引き続きマネタリーベースの約7割を占める日銀当座預金の伸び率低下(前月13.9%→当月11.6%)である。日銀当座預金の減少要因となる政府による国債(国庫短期証券を含む)発行額が前年同月よりも縮小する一方で、日銀による各種資金供給も国庫短期証券買入れを中心に、国債・ETF買入れ、コロナオペなどで幅広く縮小されていることから、増加ペースが鈍化している(図表7・8)。さらに、前年比での比較対象となる昨年10月の伸び率が上昇していたことも、前年比での伸び率押し下げに働いた。
(図表7) マネタリーベースと内訳(平残)/(図表8)日銀の国債買入れ額(月次フロー)/(図表9)日銀国債保有残高の前年比増減/(図表10)マネタリーベース残高と前月比の推移
その他の内訳では、貨幣流通高の伸び率が昨年9月の伸び率上昇の反動もあって前年比0.5%(前月は同1.0%)と低下する一方、日銀券発行高の伸びは前年比2.9%(前月も同2.9%)と横ばいであった(図表7)。
 
なお、10月末時点のマネタリーベース残高は664兆円と前月末比0.5兆円の増加に留まった。季節性や月内の動きを除外した季節調整済み系列(平残)でみても、前月比2.5兆円増と小幅な増加に留まっている(図表10)。同系列では5月以降の平均が前月比0.6兆円増となっており、資金供給ペースはコロナ前である2019年の平均(1.3兆円増)並みにペースダウンしている。
 
マネタリーベースの先行きについては、日銀がETFや国債の買入れを抑制するなど市場への関与を徐々に減らしているうえ、今後もしばらく比較対象となる昨年同月の伸び率上昇が続くことから、前年比伸び率の鈍化基調が続くと見込まれる。

3.マネーストック:定期預金の減少ペースが加速、投資信託は5ヵ月ぶりにプラス圏に浮上

11月10日に発表された10月のマネーストック統計によると、金融部門から市中に供給された通貨量の代表的指標であるM2(現金、国内銀行などの預金)平均残高の伸び率は前年比4.22%(前月は4.21%)、M3(M2にゆうちょ銀など全預金取扱金融機関の預貯金を含む)の伸び率は同3.75%(前月は3.74%)と、ともにわずかながら上昇した。上昇は8カ月ぶりのことだ。比較対象となる前年同月における伸び率上昇の一服のほか、銀行貸出の伸び率底入れが寄与している可能性が高い(図表11)。
(図表11) M2、M3、広義流動性の伸び率/(図表12) 現金・預金の伸び率
M3の内訳で見ると、主軸である普通預金等の預金通貨(前月7.4%→当月7.8%)の伸び率が8カ月ぶりに増加に転じたことが伸び率反転に寄与した。一方、CD(譲渡性預金・前月24.0%→当月17.1%)の伸びが大きく低下したほか、定期預金などの準通貨(前月▲2.97%→当月▲3.13%)の伸び率がマイナス幅を拡大している(図表12・13)。準通貨の伸び率が▲3.0を下回ったのは約15年ぶりのことになる。流動性が低いうえ、預金金利がほぼゼロに落ち込んでいることから、定期預金からの資金流出に歯止めがかからない状況が続いている。
(図表13)投資信託・金銭の信託・準通貨の伸び率 また、広義流動性(M3に投信や外債といったリスク性資産等を加算した概念)の伸び率も前年比5.04%(前月は4.95%)と2カ月ぶりに上昇した(図表11)。広義流動性の残高は9月以降2000兆円を突破している。
(図表14)M2、M3、広義流動性の伸び率(季調値) 内訳では、既述の通り、M3の伸びが小幅に上昇したうえ、規模が比較的大きい投資信託(私募やREITなども含む元本ベース、前月-0.1%→当月0.9%)の伸び率が5カ月ぶりにプラス圏に浮上したことが寄与した(図表13)。また、国債や外債の伸び率もやや上昇している。
 
最近は、前年における急変動の反動に伸び率が左右されて実勢が掴みにくくなっているものの、前月比でみた場合でも、M2、M3、広義流動性ともに伸び率に底入れ感が出てきている(図表14)。
 
 

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経済研究部   上席エコノミスト

上野 剛志 (うえの つよし)

研究・専門分野
金融・為替、日本経済

経歴
  • ・ 1998年 日本生命保険相互会社入社
    ・ 2007年 日本経済研究センター派遣
    ・ 2008年 米シンクタンクThe Conference Board派遣
    ・ 2009年 ニッセイ基礎研究所

    ・ 順天堂大学・国際教養学部非常勤講師を兼務(2015~16年度)

(2021年11月10日「経済・金融フラッシュ」)

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