2021年11月05日

パンデミックがアジア太平洋の消費者に与えた影響-保険への関心の高まりとデジタルアクセスの急増

保険研究部 上席研究員 兼 気候変動リサーチセンター 気候変動調査部長 有村 寛

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1――はじめに

スイス再保険は、新型コロナウイルスによって引き起こされたパンデミックならびに経済危機が、アジア太平洋地域の消費者の保険へのニーズ等に与えた影響につき、2020年4月~6月と2021年1月~2月にアジア太平洋地域で消費者調査を実施し、2021年6月3日付のシグマレポート“One year on: how COVID-19 has impacted consumer views on insurance in Asia Pacific”において、調査結果を公表している。

ここでは、その概要について紹介したい。

なお、当調査は、オーストラリア、中国、香港、インド、インドネシア、日本、マレーシア、タイ、シンガポール、ベトナム、ニュージーランド、韓国の12か国において実施1されており、特段の記載がない場合はそれらの全ての国を、「新興諸国」としている場合は、うち中国、インド、インドネシア、マレーシア、タイ、ベトナムの6か国を指す。
 
1 2020年(4月~6月)調査では、オーストラリア、中国、香港、インド、インドネシア、日本、マレーシア、タイ、シンガポール、ベトナムの10か国。2021年(1月~2月)調査では、同10か国に加え、ニュージーランドと韓国を加えた。2021年調査の回答者数は7000名であった。2021年6月3日付シグマレポート“One year on: how COVID-19 has impacted consumer views on insurance in Asia Pasific”P.3

2――パンデミックを受けた不安の高まり

2――パンデミックを受けた不安の高まり

1不安の高まりと、保険加入に対する意向の状況
2021年調査の回答者のうち、多くの人々が医療保険と生命保険に加入しているが(表1)、ほぼ安心と回答したのは、4分の1以下となっている(表2)。

また、2021年の回答者のうち、54%が保険会社に積極的に連絡を取っており、新興諸国においては、回答者の21%が過去6か月間で新規に保険に加入している。特に、中国、インド、タイ、ベトナムの消費者は積極的で、過去6か月間で4割以上の回答者が、新規に保険加入している。
【表1】回答者の保険加入状況
【表2】回答者の保険加入の充足度(構成比)
一方、今後の追加加入の優先順位は、医療保険が最も高い(表3)。2021年調査の回答者のうち、64%が新型コロナウィルスのパンデミックを経て、自分の健康に対する関心が高まった、と回答しており、追加加入の優先順位の結果も、健康上の懸念の高まりを受けたものと考えられている。

なお、アジア新興諸国の回答者は、同先進国の回答者に比べ、健康上の懸念が高く、医療保険のニーズを重視する傾向がみられる。
【表3】回答者の保険加入の充足度(構成比)
2保険加入にあたっての決定要因
2021年調査の回答者の80%が、保険会社を選ぶ際に最も重要な決定要素は価格だと答えている(図1)。これは、2020年調査時の75%から増加しており、新型コロナウィルスによるパンデミックならびに経済危機は、消費者をより価格に敏感にさせた。

その他、オンラインでの手続きや保障範囲に対する柔軟さに対するニーズも高いことがわかった。
【図1】加入決定の際、重視する事項

3――オンラインチャネルを通じた保険加入の急増

3――オンラインチャネルを通じた保険加入の急増

2021年調査で、過去6カ月間で一つ以上の保険に加入したと回答した人々の39%が保険会社のオンラインウェブサイトやアプリ上での手続きを完了しており(図2)、保険加入のデジタル化の進展が著しい。2

また、2021年調査の回答者の約50%が、今後、オンラインやアプリによる保険加入を検討しており(図3)、この傾向は今後もますます高まることが予想される。
【図2】過去6か月間の保険加入チャネル
【図3】将来加入する際、利用したいチャネル
 
2 スイス再保険の同レポートP.9によれば、2019年時点では、日本、香港、シンガポールにおけるデジタルチャネルを通じた保険加入は、保険料ベースでいずれも5%に満たなかった、とされている。

4――保険会社に改善を求める点

4――保険会社に改善を求める点

同シグマレポートでは、今後、新型コロナウイルスと同様の健康危機が再び発生すると仮定した場合における、保険会社にサービス改善を望む点についても調査対象としている。

改善を望む声が一番多かったのが、「請求処理ならびに支払の迅速化」であり、続いて、「適用範囲の条件をより柔軟にすること」そして「取引を処理するためのデジタルアクセスを可能にすること」となっている(図4)。

ここでも、デジタル化への消費者の期待が顕在化していると考えられる。
【図4】将来、改善が望まれる保険サービス

5――おわりに

5――おわりに

当レポートでは、スイス再保険の調査結果に沿って、新型コロナウイルスがアジア太平洋地域の消費者に与えた影響について紹介してきた。

新型コロナウイルスが世界に与えた影響は極めて大きいものであったが、健康への意識や、生保・医療保険ニーズの高まりも見られ、生命保険会社にとっては、追い風となっている部分もあるものと考えられる。

また、対面でのやりとりの制限を受け、デジタルアクセスについての意識や、ニーズが急速かつ、著しく高まっていることもわかった。今後も、この傾向は継続するものと考えられるが、一方で、シンガポールにおいては、商品種類や手続き場面の違いにもよるが、デジタルアクセスよりも人を介したサービスを望む声も根強い、との調査結果も公表されている。3

新興諸国を含むアジア太平洋地域の保険市場は、引き続き高進展が予想されており、オンライン化含め、著しく変化を続けている。

今後も引き続き、動向について注視していきたい。
 
3 2021年9月17日付 MoneySmart's Insurance White paper 2021 “Bots vs Bodies”
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保険研究部   上席研究員 兼 気候変動リサーチセンター 気候変動調査部長

有村 寛 (ありむら ひろし)

研究・専門分野
保険商品・制度

経歴
  • 【職歴】
    1989年 日本生命入社
    1990年 ニッセイ基礎研究所 総合研究部
    1995年以降、日本生命にて商品開発部、法人営業企画部(商品開発担当)、米国日本生命(出向)、企業保険数理室、ジャパン・アフィニティ・マーケティング(出向)、企業年金G等を経て、2021年 ニッセイ基礎研究所へ、2023年7月より現職

(2021年11月05日「保険・年金フォーカス」)

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【パンデミックがアジア太平洋の消費者に与えた影響-保険への関心の高まりとデジタルアクセスの急増】【シンクタンク】ニッセイ基礎研究所は、保険・年金・社会保障、経済・金融・不動産、暮らし・高齢社会、経営・ビジネスなどの各専門領域の研究員を抱え、様々な情報提供を行っています。

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