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- ECB政策理事会-PEPPは来年3月で終了か
2021年10月29日
1.結果の概要:政策の変更なし
10月28日、欧州中央銀行(ECB:European Central Bank)は政策理事会を開催し、金融政策について決定した。概要は以下の通り。
【金融政策決定内容】
・変更なし
【記者会見での発言(趣旨)】
・現在の高インフレは、当初予想していたよりも長期化しており、一部の要因は解消までに来年いっぱい期間を要する
・原材料、部品、労働力の不足が製造業部門を停滞させている
・現時点で、PEPPは3月に終了する予定で、枠をすべて使うかは良好な資金調達環境次第
2.金融政策の評価:PEPPは来年3月で終了予定
今回の理事会では金融政策の変更はなかった。
一方、経済の評価ではインフレ率が当初の予想よりも長期化しており、一部は解消までに来年いっぱいを要するとの見解を示した。
質疑応答でもインフレ見通しに関する質問は多かった。ラガルド総裁は来年には低下する見方を強調しており、現在のインフレが継続、賃金上昇にも波及し持続的なインフレとなる可能性は注視すべきとしつつも、可能性は高くないことに言及した。
また、インフレ率の上昇により、市場では早期の利上げ観測が見られていることから、これに関する質問も見られた。ラガルド総裁は早期の利上げ観測はECBの分析とは異なるとして、ECBはフォワードガイダンスの利上げの条件は満たしておらず、また今後も近いうちには満たさないという見方を強調している。
現在の緩和策からの出口に関する質問も見られた。前回9月理事会の記者会見では、出口に関する議論は、12月の理事会で包括的に扱う予定としており、今回も基本的には同様の回答となったが、PEPPについては「現時点でPEPPは3月に終了する予定」、TLTROについては12月に議論するものの「崖の影響を避けるために出来る限りのことをすべき」という発言があった。PEPPの柔軟性についても、将来の政策にも柔軟性を持たせられるとの意見を述べている。
ラガルド総裁の見解であり、今後の政策は具体的には12月の理事会で議論されるが、資産購入策についてはPEPPを終了した上で、APPの拡充(PEPPに付与された柔軟性の付与も含む)もしくは、新しいプログラムを創設、流動性支援策については、TLTROに続く何らかの支援策が続くことが示唆される内容だったと言える。
一方、経済の評価ではインフレ率が当初の予想よりも長期化しており、一部は解消までに来年いっぱいを要するとの見解を示した。
質疑応答でもインフレ見通しに関する質問は多かった。ラガルド総裁は来年には低下する見方を強調しており、現在のインフレが継続、賃金上昇にも波及し持続的なインフレとなる可能性は注視すべきとしつつも、可能性は高くないことに言及した。
また、インフレ率の上昇により、市場では早期の利上げ観測が見られていることから、これに関する質問も見られた。ラガルド総裁は早期の利上げ観測はECBの分析とは異なるとして、ECBはフォワードガイダンスの利上げの条件は満たしておらず、また今後も近いうちには満たさないという見方を強調している。
現在の緩和策からの出口に関する質問も見られた。前回9月理事会の記者会見では、出口に関する議論は、12月の理事会で包括的に扱う予定としており、今回も基本的には同様の回答となったが、PEPPについては「現時点でPEPPは3月に終了する予定」、TLTROについては12月に議論するものの「崖の影響を避けるために出来る限りのことをすべき」という発言があった。PEPPの柔軟性についても、将来の政策にも柔軟性を持たせられるとの意見を述べている。
ラガルド総裁の見解であり、今後の政策は具体的には12月の理事会で議論されるが、資産購入策についてはPEPPを終了した上で、APPの拡充(PEPPに付与された柔軟性の付与も含む)もしくは、新しいプログラムを創設、流動性支援策については、TLTROに続く何らかの支援策が続くことが示唆される内容だったと言える。
3.声明の概要(金融政策の方針)
10月28日の政策理事会で発表された声明は以下の通り。
(政策金利)
(資産購入プログラム:APP)
(パンデミック緊急資産購入プログラム:PEPP)
(資金供給オペ)
(その他)
- 理事会は引き続き4-6月期・7-9月期から適度に減速したペース(moderately lower pace)でのパンデミック緊急購入策(PEPP)下のネット購入でも良好な資金調達環境を維持できると判断した(変更なし)
- 理事会はまた、その他の手段、つまり将来に関するフォワードガイダンス、政策金利、APP、元本償還の再投資、長期資金供給オペについても次のように承認した
(政策金利)
- 政策金利の維持(変更なし)
- 主要リファイナンスオペ(MRO)金利:0.00%
- 限界貸出ファシリティ金利:0.25%
- 預金ファシリティ金利:▲0.50%
- フォワードガイダンス(変更なし)
- 対称的な2%のインフレ目標と金融政策戦略に沿って、見通し期間が終わるかなり前(well ahead)までにインフレ率が2%に達し、その後見通し期間にわたって持続的に推移すると期待され、現実に中期的な2%に向けたインフレ率の安定という十分な進展が見られると判断されるまでは、理事会は政策金利を現在もしくはより低い水準で維持する
- そのため、一時的にインフレ率が目標をやや上回る可能性もある
(資産購入プログラム:APP)
- APPの実施(変更なし)
- 月額200億ユーロの純資産購入を実施
- 毎月の購入は、緩和的な政策金利の影響が強化されるまで必要な限り継続
- 政策金利の引き上げが実施される直前まで実施
- APPの元本償還分の再投資(変更なし)
- APPの元本償還分は全額再投資を実施
- 政策金利を引き上げ、十分な流動性と金融緩和を維持するために必要な限り実施
(パンデミック緊急資産購入プログラム:PEPP)
- PEPPの継続(政策の変更なし)
- 総枠1兆8500億ユーロの純資産購入を実施
- 購入期間は少なくとも2022年3月末、そして新型コロナ危機が去るまで実施する
- 理事会は引き続き4-6月期・7-9月期から適度に減速したペース(moderately lower pace)でのパンデミック緊急購入策(PEPP)下のネット購入でも良好な資金調達環境を維持できると判断した(変更なし)
- 理事会は、市場環境を見つつ資金調達環境のひっ迫(tightening)を防ぎ、感染拡大によるインフレ見通しの下方圧力に対抗するという観点から柔軟に購入を実施する(変更なし)
- 理事会は、実施期間・資産クラス・国構成に関して柔軟に購入を行うことで、円滑に金融政策が伝達するよう支える
- PEPPは良好な資金調達環境が維持される場合は総額を利用する必要はない。平等に、必要があれば枠(増額)の再調整を行う
- PEPP元本償還分の再投資の実施(変更なし)
- PEPPの元本償還の再投資は少なくとも2023年末まで実施する
- 将来のPEPPの元本償還(roll-off)が適切な金融政策に影響しないよう管理する
(資金供給オペ)
- 十分な流動性供給の実施(政策の変更なし)
- リファイナンスオペを通じて十分な流動性供給を継続
- TLTROⅢによる資金は、引き続き金融機関に対する、企業・家計への貸出支援としての魅力的な資金源となっている
(その他)
- 追加緩和へのスタンス(変更なし)
4.記者会見の概要
政策理事会後の記者会見における主な内容は以下の通り。
(冒頭説明)
(経済活動)
(インフレ)
(リスク評価)
(金融・通貨環境)
(結論)
(冒頭説明)
- ユーロ圏の経済は、勢いはやや鈍化したものの力強い回復が続いている
- 消費者の景況感は引き続き良好で、支出も強い
- しかし、原材料、部品、労働力の不足がいくつかの部門で生産を抑制している
- インフレ率は、主にエネルギー価格の高騰により上昇しており、また景気回復による需要が制約の生じている供給を上回っていることも要因となっている
- 我々はインフレ率が短期的にはさらに上昇するものの、来年中(in the course of next year)に低下すると見ている
- 市場金利は9月上旬の前回理事会以降、上昇している
- しかしながら、企業、家計、公的部門に対する資金調達環境は、現在のところ、総じて良好さが維持されている
- 良好な資金調達環境は、経済が回復を続け、パンデミックによるインフレ経路への負の影響に対応するために不可欠である
- 我々は引き続き4-6月期・7-9月期から適度に減速したペース(moderately lower pace)でのパンデミック緊急購入策(PEPP)下のネット購入でも良好な資金調達環境を維持できると判断した
- 我々はまた、物価安定目標のためのその他の手段、つまり政策金利、将来に関するフォワードガイダンス、APP、元本償還の再投資、長期資金供給オペについて、声明文にある詳細の通り、承認した
- 我々は、インフレが中期的な2%の目標に向け安定して推移するよう、必要に応じ、すべての手段を調整する準備がある
- ここでは経済とインフレ率の状況をどう見ているかの詳細と金融・通貨環境への評価について述べたい
(経済活動)
- 経済は勢いがやや緩やかになったものの、7-9月期も強い回復を続けている
- 我々は、依然として年末の生産がコロナ禍前の水準を上回ると見込んでいる
- 公衆衛生策の成功と多数の人がワクチン接種をした結果として各種の制限は緩和され、コロナ禍と経済の関係は目に見えて弱くなっている
- これは、特に娯楽、外食、旅行、輸送関連の個人消費を支えている
- しかし、今後数か月、エネルギー価格の上昇が購買力を低下させるかもしれない
- 域内、海外の需要回復がまた生産や設備投資を支えている
- 原材料、部品、労働力の不足が製造業部門を停滞させている
- 納期は大幅に長期化し、輸送費やエネルギー価格は高騰している
- これらの制約が今後数か月の見通しを暗くさせている
- 労働市場は改善が続いている
- 失業率は下落し、雇用維持政策の利用者も昨年のピークと比べ大幅に減少した
- これは収入増と支出増への期待を支えている
- しかし労働力人口と労働時間については依然としてコロナ禍前の水準を下回っている
- 回復を支えるため、重点的かつ協調した財政政策が、引き続き金融政策を補完する
- この支援はまた、現在進行している構造変化の助けとなる
- 次世代EUプログラムと「Fit for 55」パッケージの効果的な実施は、ユーロ圏各国の力強く、地球に優しく、より均一な回復に貢献する
(インフレ)
- 9月のインフレ率は3.4%に上昇した
- 我々は今年、インフレ率がさらに上昇すると見ている
- しかし、現在の高インフレは、当初予想していたよりも長期化しており、来年中にインフレ率が低下すると見ている
- インフレ率の上昇は大きく、3つの要因による
- 1つはエネルギー価格で、特に石油、ガス、電気について急上昇している
- 9月にはエネルギー価格の上昇がインフレ率全体の半分を占めている
- 2つは経済再開による需要の回復が供給を上回っていることによる上昇要因である
- これらは、消費者向けサービス価格や供給不足の影響を大きく受けた財価格で見られる
- 最後はドイツのVAT引下げが終了したことに関係するベース効果が高インフレに寄与している
- 我々はこれら3つの要因が2022年中に緩和され、前年比伸び率への影響がなくなると見ている
- 経済回復が続くことで、時間が経過することで、経済が完全な稼働率に徐々に戻り、賃金上昇を支えるだろう
- 市場観測および調査による長期のインフレ期待は2%に近づいている
- これらの要因はインフレ基調を支え、また中期的にインフレ率を目標に戻す支えとなるだろう
(リスク評価)
- 経済回復は引き続き、コロナ禍とワクチン接種のさらなる進展に依存する
- 我々は経済見通しへのリスクは総じて中立的(balanced)と見ている
- 短期的には供給制約とエネルギー価格の上昇が経済回復ペースとインフレ見通しの主なリスクである
- もし供給制約とエネルギー価格の上昇が長期化すれば回復が減速するかもしれない
- 同時に、永続的な制約により、賃金上昇として予想以上に転嫁され、より早期に経済の稼働率が完全に回復、価格上昇圧力が強くなるかもしれない
- しかしながら、消費者の景況感がより良好になり、予想以上に貯蓄を低下させれば経済活動は予想以上に強くなるだろう
(金融・通貨環境)
- 成長と中期的なインフレ動向は依然として経済の全部門の良好な資金調達環境に依存する
- 市場金利は上昇している
- それにも関わらず、経済の資金調達環境は引き続き良好であり、とりわけ企業や家計への銀行貸出金利が歴史的に低水準にある
- 9月には上昇が見られたものの、企業貸出は引き続き緩やかな状況にある
- これは企業の現預金保有が多く、収益も増加しているため、外部から資金調達する必要が低下していることを引き続き反映している
- 家計への貸出は引き続き強く、住宅購入需要により主導されている
- 最新の銀行貸出調査では企業向け貸出態度は安定しており、2018年以降では初めて、企業のリスク許容度が減少に転じたことが支えとなった
- 対照的に銀行は住宅貸出にたいしてやや慎重な姿勢をとっており、これらの貸出に対する基準を厳格化している
- 銀行の財務状況(balance sheets)は良好な資金調達環境によって支えられており、引き続き堅調である
(結論)
- 要約すれば、ユーロ圏経済はより緩やかなペースではあるものの、力強い回復が続いている
- エネルギー価格の上昇、需要回復と供給制約は、足もとのインフレ率を押し上げている
- インフレ率の低下には、当初の予想よりも時間がかかりそうだが、来年にはそれらの要因が緩和されると予定している
- 我々は引き続き中期的なインフレ率が我々の目標の2%を下回ると予想する
- 我々のフォワードガイダンスの変更を含む政策手段は、経済の持続的な回復と、究極的にはインフレ率の中期的な目標達成を支援する上で重要である
(2021年10月29日「経済・金融フラッシュ」)
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経歴
- 【職歴】
2006年 日本生命保険相互会社入社(資金証券部)
2009年 日本経済研究センターへ派遣
2010年 米国カンファレンスボードへ派遣
2011年 ニッセイ基礎研究所(アジア・新興国経済担当)
2014年 同、米国経済担当
2014年 日本生命保険相互会社(証券管理部)
2020年 ニッセイ基礎研究所
2023年より現職
・SBIR(Small Business Innovation Research)制度に係る内閣府スタートアップ
アドバイザー(2024年4月~)
【加入団体等】
・日本証券アナリスト協会 検定会員
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