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議決権行使とESG投資-パッシブファンドに期待されるESG経営促進の役割

金融研究部 主任研究員・年金総合リサーチセンター・ジェロントロジー推進室・サステナビリティ投資推進室兼任 高岡 和佳子
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1――ESGに優れた企業への資金提供だけがESG投資ではない
しかし、実はESGに優れた企業や事業への資金提供だけがESG投資ではない。あえてESGに課題がある企業に投資し、当該企業の状況に対する深い理解に基づく議決権行使や企業との対話(エンゲージメント)といったスチュワードシップ活動を通じて、企業にESGの改善を求める「ESGアクティビスト(モノ言う株主)」もESG投資である。ESGに優れた企業や事業への資金提供が間接的にESG経営を促すのに対し、スチュワードシップ活動を通じたESG投資は直接的にESG経営を促すことになる。
本稿では、スチュワードシップ活動、特に議決権行使によりESG経営を促す取り組みに焦点を当てる。
2――スチュワードシップ活動とESGは密接な関係にある
図表1は、現在のスチュワードシップ・コードの8原則及び指針の中から、ESGやサステナビリティに関する記述を抜粋したもので、2014年の策定当時からの記述を黒字、2017年の改訂以降の記述は緑太字、2020年の再改訂以降の記述を赤太字で示している。
3――パッシブファンドに期待されるESG経営促進の役割
2017年の改訂のポイントの一つとして、パッシブ運用におけるスチュワードシップ活動が挙げられる。スチュワードシップ・コードの8原則及び指針(8原則になったのは、2021年再改訂時)の中に、パッシブ運用に関する記述があるが、これは2017年の改訂以降の記述である(図表3)。
パッシブ運用とは、市場を代表するインデックスの値動きと同様の投資成果を目指す運用の総称である。スチュワードシップ・コードに関連するパッシブ運用の投資対象は当然株式なので、一般的に日経平均株価やTOPIXといった代表的なインデックスに連動する運用成果を目指す。株式市場全体を買うようなものだから、パッシブ運用には「ESGに優れた企業や事業への資金提供を増やし、ESGに課題がある企業や事業への資金提供を減らす効果」はない1。その代わり、個々の投資先企業に対し、中長期的視点に立った対話や議決権行使に取り組むことが期待されている(図表3)。
スチュワードシップ・コードは、原則5で議決権の行使と行使結果の公表について明確な方針を持つことを求め、原則6で議決権の行使を含めて、スチュワードシップ責任をどのように果たしているかについて、顧客・受益者に対する定期的な報告を求めている。2021年9月30日時点で、202社中、議決権行使結果を公表しているのは137社、理由も公表しているのは46社である。投資家がパッシブファンドを選択する際の、主要な選択基準は手数料の低さである。しかし、ファンドの運用会社が、ESGを含め企業の状況を把握した上で、中長期的視点に立った議決権行使に取り組んでいるか否かもパッシブファンドの選択基準に加えれば、株式市場全体の値動きと同様の投資成果を目指すパッシブ運用もESG投資と言えるかもしれない。
1 ESGに優れた企業が発行する株式で構成されるインデックス連動型パッシブ運用を除く
2 ただし、実施しない場合にはその理由を説明する必要がある
(お願い)本誌記載のデータは各種の情報源から入手・加工したものであり、その正確性と安全性を保証するものではありません。また、本誌は情報提供が目的であり、記載の意見や予測は、いかなる契約の締結や解約を勧誘するものではありません。
(2021年10月25日「基礎研レター」)

03-3512-1851
- 【職歴】
1999年 日本生命保険相互会社入社
2006年 ニッセイ基礎研究所へ
2017年4月より現職
【加入団体等】
・日本証券アナリスト協会検定会員
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