2021年10月14日

貸出・マネタリー統計(21年9月)~銀行貸出の伸びは半年ぶりに上昇、資金供給ペースは平時モードに

経済研究部 上席エコノミスト 上野 剛志

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1.貸出動向: 6ヵ月ぶりに伸び率が上昇

(貸出残高)                                                                  
10月12日に発表された貸出・預金動向(速報)によると、9月の銀行貸出(平均残高)の伸び率は前年比0.44%と前月(同0.29%)を上回った。小幅ながら、伸び率が上昇に転じたのは6カ月ぶりにあたる(図表1)。

貸出先の規模別動向(8月まで)を見ると、予備的に借り入れた資金の返済などによって大・中堅企業向け貸出が4ヵ月連続で前年を割り込んでいるものの、マイナス幅は縮小傾向にある。一方、中小企業向け貸出の伸びは依然プラス圏ながら、プラス幅の縮小が続いている(図表3)。
(図表1) 銀行貸出残高の増減率/(図表2) 業態別の貸出残高増減率/(図表3)貸出先別貸出金/(図表4)信用保証実績
このため、業態別に見た場合には、大企業向け貸出の多い都銀の伸び率が前年比-1.14%(前月は-1.59%)と引き続き前年割れながらマイナス幅を縮小している。他方、地銀(第2地銀を含む)の伸び率は前年比1.83%(前月は1.94%)と6カ月連続で低下している(図表2)。
 
日銀短観9月調査によれば、企業の資金繰り状況を示す資金繰り判断DIは、中小企業でも全体として徐々に持ち直してきている(図表5)。これに伴って、中小企業でも大企業同様、予備的な借入資金を返済する動きが強まるかが注目される。

また、9月短観における今年度設備投資計画では、前年度から大幅に持ち直すとの計画が維持された(図表6)。コロナの感染が一旦落ち着き、緊急事態宣言も解除されるなか、設備投資の実行に伴う前向きな資金需要が発生するのかという点も注目点になる。
(図表5)短観資金繰り判断DI(全産業)/(図表6)短観設備投資計画(全規模・全産業)

2.マネタリーベース:資金供給ペースは平時モードに

10月4日に発表された9月のマネタリーベースによると、日銀による資金供給量(日銀当座預金+市中に流通する紙幣・貨幣)を示すマネタリーベースの伸び率(平残)は前年比11.7%と、前月(同14.9%)を下回り、5カ月連続で伸びが鈍化した(図表7)。

鈍化の主因は引き続きマネタリーベースの約7割を占める日銀当座預金の伸び率縮小である。日銀当座預金の減少要因となる政府による国債(国庫短期証券を含む)発行額が前年同月よりも縮小すると同時に、日銀による各種資金供給も国庫短期証券買入れやコロナオペを中心に軒並み縮小されたことから、増加額が縮小している(図表7・8)。さらに、前年比での比較対象となる昨年9月の伸び率が上昇していたことも、前年比での伸び率押し下げに働いた。
(図表7) マネタリーベースと内訳(平残)/(図表8)日銀の国債買入れ額(月次フロー)
(図表9)日銀国債保有残高の前年比増減/(図表10)マネタリーベース残高と前月比の推移
その他の内訳では、貨幣流通高の伸び率が昨年9月の伸び率上昇の反動もあって前年比1.0%(前月は同1.9%)と低下する一方、日銀券発行高は前年比2.9%(前月も同2.8%)と小動きであった(図表7)。
 
なお、9月末時点のマネタリーベース残高は663兆円と前月末比2.1兆円の増加となった。ただし、季節性や月内の動きを除外した季節調整済み系列(平残)でみると、前月比4.5兆円減と2カ月ぶりに減少している(図表10)。同系列では5月以降の平均が前月比0.2兆円増となっており、資金供給ペースはコロナ前である2019年の平均(1.3兆円増)並みにペースダウンしている。
 
マネタリーベースの先行きについては、日銀がETFや国債の買入れを減額するなど市場への関与を徐々に減らしているうえ、今後もしばらく比較対象となる昨年同月の伸び率上昇が続くことから、前年比伸び率の鈍化基調が続くと見込まれる。

3.マネーストック:通貨の増加ペースは平時の状況に

10月13日に発表された9月のマネーストック統計によると、金融部門から市中に供給された通貨量の代表的指標であるM2(現金、国内銀行などの預金)平均残高の伸び率は前年比4.24%(前月は4.66%)、M3(M2にゆうちょ銀など全預金取扱金融機関の預貯金を含む)の伸び率は同3.80%(前月は4.12%)と、ともに7カ月連続で低下した(図表11)。
(図表11) M2、M3、広義流動性の伸び率/(図表12) 現金・預金の伸び率
M3の内訳で見ると、主軸である普通預金等の預金通貨(前月7.9%→当月7.5%)の伸び率が引き続き低下したほか、CD(譲渡性預金・前月31.3%→当月24.1%)の伸びが大きく低下したことが響いた。一方、現金通貨(前月3.2%→当月3.3%)、定期預金などの準通貨(前月▲2.9%→当月▲2.9%)の伸び率は横ばい圏であった(図表12・13)。
(図表13)投資信託・金銭の信託・準通貨の伸び率 また、広義流動性(M3に投信や外債といったリスク性資産等を加算した概念)の伸び率も前年比5.00%(前月は5.19%)と4カ月連続で低下した(図表11)。M2やM3と同様、昨年9月の伸び率上昇による反動が出ている。
(図表14)M2、M3、広義流動性の伸び率(季調値) 内訳では、既述の通り、M3の伸びが低下する中、規模の大きい金銭の信託(前月14.0%→当月13.8%)の伸び率もやや低下した(図表13)。一方、投資信託(私募やREITなども含む元本ベース、前月-1.3%→当月0.1%)の伸び率は4カ月ぶりに前年の水準を回復している。

最近は、前年における急拡大の裏が出る形で伸び率が圧迫されて実勢が掴みにくくなっているものの、M2、M3、広義流動性ともに前月比ではコロナ禍前程度の小幅なプラス基調を維持している(図表14)。
 
 

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経済研究部   上席エコノミスト

上野 剛志 (うえの つよし)

研究・専門分野
金融・為替、日本経済

経歴
  • ・ 1998年 日本生命保険相互会社入社
    ・ 2007年 日本経済研究センター派遣
    ・ 2008年 米シンクタンクThe Conference Board派遣
    ・ 2009年 ニッセイ基礎研究所

    ・ 順天堂大学・国際教養学部非常勤講師を兼務(2015~16年度)

(2021年10月14日「経済・金融フラッシュ」)

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