2021年09月17日

資金循環統計(21年4-6月期)~個人金融資産は1992兆円と4期連続で過去最高を更新、9月末には初めて2000兆円を突破する可能性あり

経済研究部 上席エコノミスト   上野 剛志

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1.個人金融資産(21年6月末):前期比では24兆円増

2021年6月末の個人金融資産残高は、前年比119兆円増(6.3%増)の1992兆円となり、4期連続で過去最高を更新した1。年間で見た場合、資金の純流入が46兆円に達したほか、株価の大幅な上昇を背景に時価変動2の影響がプラス73兆円(うち株式等がプラス49兆円、投資信託がプラス15兆円)も発生し、残高を大幅に押し上げた。

四半期ベースで見ると、個人金融資産は前期末(3月末)比で24兆円増と5期連続で増加した。例年、一般的な賞与支給月を含む4-6月期は資金の純流入となる傾向があり、今回も純流入となった。ただし、その流入規模は19兆円と、定額給付金の支給があった昨年同期(32兆円)には及ばないものの、例年同期の平均(2015~19年の平均は12.4兆円)を大きく上回っている。緊急事態宣言など行動制限措置の再発令によって対面サービス消費が抑制されたことが流入規模の拡大に働いた可能性が高い。また、ワクチン普及等による景気回復期待を背景とした海外株価の上昇に伴うものとみられるが、時価変動の影響がプラス5兆円(うち株式等がマイナス0.4兆円、投資信託がプラス4兆円)発生したことも、資産残高増加に寄与した(図表1~4)。
(図表1) 家計の金融資産残高(グロス)/(図表2) 家計の金融資産増減(フローの動き)
(図表3) 家計の金融資産残高(時価変動)/(図表4) 株価と円相場の推移(月次終値)
(図表5)家計の金融資産と金融純資産 なお、家計の金融資産は、既述のとおり4-6月期に24兆円増加したが、この間の金融負債は横ばいに留まったため、金融資産から負債を控除した純資産残高は23兆円増の1630兆円となった(図表5)。
 
ちなみに、その後の7-9月期については、一般的な賞与支給月を含まないことから、例年は個人金融資産への資金流入が進みにくい。しかしながら、今年は緊急事態宣言の延長・拡大などを受けて消費が抑制され、資金流入が促されたと推測される。また、7月以降、株価が大きく上昇していることも資産の増加に寄与しているはずだ。今回公表された値は速報値で今後改定されることや今月末にかけての株価動向次第の面もあるが、9月末時点の個人金融資産残高は6月末をやや上回り、初めて2000兆円を突破する可能性がある。
 
1 今回、訴求改定に伴い、2019年4-6月期以降の計数が遡及改定されている。
2 統計上の表現は「調整額」(フローとストックの差額)だが、本稿ではわかりやすさを重視し、「時価(変動)」と表記。

2.内訳の詳細:外出抑制で流動性預金が上振れ、投資信託も資金流入が継続

4-6月期の個人金融資産への資金流出入について詳細を確認すると(図表6)、例年同様、季節要因(賞与の有無等)によって現預金が純流入(積み増し)となったが、消費抑制の影響でその規模は15兆円とコロナ前を上回り、現預金残高は1072兆円(前年比41兆円増)と過去最高を更新した。内訳では、例年4-6月期同様、流動性預金(普通預金など)への純流入(17兆円)が進んだ一方、定期性預金は純流出(2兆円)となった(図表7)。
 
定期性預金からの純流出は22四半期連続となっており、この間の累計流出額は62兆円に達し、定期性預金が個人金融資産に占める割合は20.1%まで低下している。一方で、この間の流動性預金への資金流入は185兆円に達しており、流動性預金が個人金融資産に占める割合は28.3%まで上昇している(図表8)。預金金利がほぼゼロであるにもかかわらず、引き出し制限があって流動性の低い定期性預金からの資金流出には歯止めがかかっていない。定期性預金の残高は未だ399兆円もあるため、今後も大幅な資金流出が避けられない。
(図表6)家計資産のフロー(各年4-6月期)/(図表7)現・預金のフロー(各年4-6月期)
(図表8)流動性・定期性預金の個人金融資産に占める割合/(図表9)外貨預金・投信(確定拠出年金内)・国債のフロー
次に、リスク性資産への投資フローについては、代表格である株式等が0.3兆円の純流入(前年同期は0.6兆円の純流出)と小動きに留まった一方、投資信託は1.2兆円の純流入(前年同期は0.2兆円の純流入)となった(図表6)。投資信託の純流入は5四半期連続で、純流入の規模は前期に続いて2期連続の1兆円越えとなっている。また、企業型確定拠出年金(401k)内の投資信託も0.3兆円の純流入となっており、2四半期連続で0.2兆円を超えている(図表9)。在宅勤務や外出抑制、世界経済の回復期待が追い風となって、一部の家計が敷居の低い投資信託での投資に前向きになっている可能性がある。

ただし、外貨預金や対外証券(外国株式・債券等)からは資金が流出していることから、リスク性資産への投資が幅広く活発化しているわけではない。

3.その他注目点: 家計の資金余剰は引き続き高水準、日銀の国債保有シェアは漸減

(図表10)部門別資金過不足(季節調整値) 4-6月期の資金過不足(季節調整値)を主要部門別にみると(図表10)、家計部門の資金余剰は前期からやや縮小(12兆円→10兆円)したものの、引き続きコロナ前の水準を大きく上回っている。緊急事態宣言など行動制限が続いていることで消費が抑制されたことが主因と考えられる。また、同部門には自営業者を含むことから、政府・自治体からの給付金も一定寄与しているとみられる。

また、企業の資金余剰も前期から微減(5.0兆円→4.9兆円)ながら、コロナ前との比較ではやや高めの水準を維持している。設備投資は持ち直しつつあるものの、収益の増加や政府・自治体からの給付金が拡寄与したと推測される。

一方で、コロナ対応に伴う歳出拡大を受けたものとみられるが、一般政府部門の資金不足は前期からやや拡大し(9兆円→12兆円)、大幅な資金不足が続いている。
 
6月末の民間非金融法人の借入金残高は3月末から2兆円増加、債務証券残高も5兆円増加した(図表11)。ただし、借入金についてはフローでは若干のマイナス(返済超過)となっており、残高の増加は時価の上昇によるものだ3。一方で、民間非金融法人の現預金残高は316兆円と過去最高であった3月末から3兆円減少した。

有利子負債、現金共にコロナ前との比較では依然としてかなり高い水準にある。一部で返済を進めている企業があるものの、コロナ禍の収束が見通せない中で、資金繰りへの懸念から借入等で調達した資金を予備的に確保している企業も未だ多いためと考えられる。
なお、4-6月期の民間非金融法人による対外投資状況(フローベース)を確認すると、対外直接投資は3.3兆円と、1-3月期の3.8兆円からやや減少した(図表12)。コロナ禍前の5年平均(2015~19年)の平均レベル(3.7兆円)もやや下回っているものの4、大きな差はない。
(図表11)民間非金融法人の現預金・借入・債務証券残高/(図表12)民間非金融法人の対外投資額(資金フロー)
(図表13)預金取扱機関と日銀、海外の国債保有シェア 6月末時点の国債(国庫短期証券を含む)残高は1224兆円と3月末から6兆円の増加となった。

主な経済主体の保有状況を見ると(図表13)、最大保有者である日銀の国債保有高は540兆円と3月末から2兆円減少し、全体に占めるシェアも44.1%(3月末は44.5%)とやや低下している。日銀が長期国債の買入れペースを徐々に鈍化させてきたほか、コロナ流行後に大量に買い入れた国庫短期証券が償還を迎えていることが背景にある。このため、日銀のシェアは昨年9月末(45.1%)をピークに緩やかに低下してきている。

また、銀行など預金取扱機関の保有高は3月末比1兆円減の174兆円となり、全体に占めるシェアも14.2%(3月末は14.3%)と若干低下している。

一方、海外部門の保有高は3月末比2兆円増の162兆円となり、シェアも0.1%ポイント増の13.2%となった。金融緩和縮小が視野に入り、金利上昇(債券価格下落)リスクが燻る米国債などを避け、金利上昇リスクの低い日本国債へ資金を充てる動きが一部で発生した可能性がある。
 
3 詳細は不明だが、外貨建て借入金における為替変動による時価変動の可能性がある。
4 2019年1-3月期の対外直接投資額は10.6兆円と突出しているが、これは国内製薬大手による総額6兆円の大型海外M&A完了という特殊要因が影響したものと推測される。
 
 

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経済研究部   上席エコノミスト

上野 剛志 (うえの つよし)

研究・専門分野
金融・為替、日本経済

(2021年09月17日「経済・金融フラッシュ」)

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