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- 貸出・マネタリー統計(21年8月)~借入返済ペースに業種別・規模別格差が発生、投信は3ヵ月連続の前年割れに
2021年09月09日
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1. 貸出動向: 借入返済ペースに業種別・規模別格差が発生
(貸出残高)
9月8日に発表された貸出・預金動向(速報)によると、8月の銀行貸出(平均残高)の伸び率は前年比0.32%と前月(同0.52%)を下回り、5カ月連続の低下となった。伸び率は2011年11月以来およそ10年ぶりの低水準にあたる(図表1)。
貸出先の規模別動向(7月まで)を見ると、大・中堅企業向け貸出が3ヵ月連続で前年を割り込んでいるうえ、中小企業向け貸出の伸びもプラス幅を縮小している(図表3)。全体的に、昨年6月にかけて手元資金を確保する動きから伸び率が急伸していた反動が出ていることに加えて、大企業では予備的に借り入れた資金を返済する動きが出ているようだ。中小企業でも積極的に借入を増やす動きは一服している。
9月8日に発表された貸出・預金動向(速報)によると、8月の銀行貸出(平均残高)の伸び率は前年比0.32%と前月(同0.52%)を下回り、5カ月連続の低下となった。伸び率は2011年11月以来およそ10年ぶりの低水準にあたる(図表1)。
貸出先の規模別動向(7月まで)を見ると、大・中堅企業向け貸出が3ヵ月連続で前年を割り込んでいるうえ、中小企業向け貸出の伸びもプラス幅を縮小している(図表3)。全体的に、昨年6月にかけて手元資金を確保する動きから伸び率が急伸していた反動が出ていることに加えて、大企業では予備的に借り入れた資金を返済する動きが出ているようだ。中小企業でも積極的に借入を増やす動きは一服している。
このため、業態別に見た場合には、大企業向け貸出の多い都銀の伸び率が前年比-1.55%(前月は-1.46%)と引き続き前年を割り込んでいる。他方、地銀(第2地銀を含む)の伸び率は前年比1.96%(前月は2.28%)と、比較対象となる前年に伸び率が大きく高まった反動で低下こそしているものの、依然プラス圏を維持している(図表2)。
ちなみに、コロナ流行前である2019年同月との比較では、銀行貸出残高が6.9%増、前年割れとなっている都銀の貸出も6.3%増と、依然としてかなり高い水準にある。
銀行貸出の伸び率は昨年8月にピークを付けたため、今後は前年の伸び率上昇による反動という前年比での下押し圧力が無くなる。当面は前年比ゼロ%台での推移が予想される。
ちなみに、コロナ流行前である2019年同月との比較では、銀行貸出残高が6.9%増、前年割れとなっている都銀の貸出も6.3%増と、依然としてかなり高い水準にある。
銀行貸出の伸び率は昨年8月にピークを付けたため、今後は前年の伸び率上昇による反動という前年比での下押し圧力が無くなる。当面は前年比ゼロ%台での推移が予想される。
(業種別貸出動向)
なお、6月末の業種別貸出データを見ると、製造業向けの寄与度が前年比▲1.26%(3月末は1.15%)とマイナスに転じ、全体の伸び率(3月末4.82%→6月末0.57%)を大きく押し下げている(図表5)。また、不動産業や対面サービス業(飲食、宿泊、生活関連サービス・娯楽業)、その他向けの寄与度は依然としてプラスながら、それぞれプラス幅をやや縮小している。
製造業では、好調な輸出などを背景とした収益回復によって資金繰りが改善し、予備的に借り入れていた資金の返済が進んでいるとみられる。一方、対面サービス業は緊急事態宣言などで厳しい収益環境と資金繰りが続いており、製造業のような前向きな資金返済は困難な状況にあるが、コロナ拡大後に借り入れた資金が徐々に返済期限を迎えていることが影響している可能性がある。
ただし、対面サービス業のうち、特に飲食業・宿泊業向けの貸出残高は依然としてコロナ前と比べて2割~3割も高い水準に留まっており、急ピッチでコロナ前の水準に戻りつつある製造業向けとの間に格差が生じている。
なお、6月末の業種別貸出データを見ると、製造業向けの寄与度が前年比▲1.26%(3月末は1.15%)とマイナスに転じ、全体の伸び率(3月末4.82%→6月末0.57%)を大きく押し下げている(図表5)。また、不動産業や対面サービス業(飲食、宿泊、生活関連サービス・娯楽業)、その他向けの寄与度は依然としてプラスながら、それぞれプラス幅をやや縮小している。
製造業では、好調な輸出などを背景とした収益回復によって資金繰りが改善し、予備的に借り入れていた資金の返済が進んでいるとみられる。一方、対面サービス業は緊急事態宣言などで厳しい収益環境と資金繰りが続いており、製造業のような前向きな資金返済は困難な状況にあるが、コロナ拡大後に借り入れた資金が徐々に返済期限を迎えていることが影響している可能性がある。
ただし、対面サービス業のうち、特に飲食業・宿泊業向けの貸出残高は依然としてコロナ前と比べて2割~3割も高い水準に留まっており、急ピッチでコロナ前の水準に戻りつつある製造業向けとの間に格差が生じている。
2. マネタリーベース: 前月比では減少が一服
9月2日に発表された8月のマネタリーベースによると、日銀による資金供給量(日銀当座預金+市中に流通する紙幣・貨幣)を示すマネタリーベースの伸び率(平残)は前年比14.9%と、前月(同15.4%)を下回り、4カ月連続で伸びが鈍化した(図表7)。
鈍化の主因は引き続きマネタリーベースの約7割を占める日銀当座預金の伸び率縮小である。日銀当座預金の減少要因となる政府による国債(国庫短期証券を含む)発行額が前年同月よりも縮小すると同時に、日銀による各種資金供給も国庫短期証券買入れやコロナオペを中心に軒並み縮小されたことから、増加額が縮小している(図表7・8)。さらに、前年比での比較対象となる昨年8月の伸び率が上昇していたことも、前年比での伸び率押し下げに働いた。
鈍化の主因は引き続きマネタリーベースの約7割を占める日銀当座預金の伸び率縮小である。日銀当座預金の減少要因となる政府による国債(国庫短期証券を含む)発行額が前年同月よりも縮小すると同時に、日銀による各種資金供給も国庫短期証券買入れやコロナオペを中心に軒並み縮小されたことから、増加額が縮小している(図表7・8)。さらに、前年比での比較対象となる昨年8月の伸び率が上昇していたことも、前年比での伸び率押し下げに働いた。
その他の内訳では、貨幣流通高の伸び率が昨年8月の伸び率上昇の反動もあって前年比1.4%(前月は同1.8%)と低下する一方、日銀券発行高は前年比2.8%(前月も同2.8%)と横ばいであった(図表7)。
なお、8月末時点のマネタリーベース残高は661兆円と前月末比0.5兆円の増加に留まった。ただし、季節性1や月内の動きを除外した季節調整済み系列(平残)でみると、前月比8.9兆円増と3カ月ぶりに減少が一服している(図表10)。
ただし、マネタリーベースの先行きについては、日銀がETFや国債の買入れを減額するなど市場への関与を徐々に減らしているうえ、今後もしばらく比較対象となる昨年同月の伸び率上昇が続くことから、前年比伸び率の鈍化基調が続くと見込まれる。
1 8月は、季節柄、国債の償還が少ないことから日銀当座預金が増加しにくい傾向がある。
なお、8月末時点のマネタリーベース残高は661兆円と前月末比0.5兆円の増加に留まった。ただし、季節性1や月内の動きを除外した季節調整済み系列(平残)でみると、前月比8.9兆円増と3カ月ぶりに減少が一服している(図表10)。
ただし、マネタリーベースの先行きについては、日銀がETFや国債の買入れを減額するなど市場への関与を徐々に減らしているうえ、今後もしばらく比較対象となる昨年同月の伸び率上昇が続くことから、前年比伸び率の鈍化基調が続くと見込まれる。
1 8月は、季節柄、国債の償還が少ないことから日銀当座預金が増加しにくい傾向がある。
3. マネーストック:投信は3ヵ月連続の前年割れに
9月9日に発表された8月のマネーストック統計によると、金融部門から市中に供給された通貨量の代表的指標であるM2(現金、国内銀行などの預金)平均残高の伸び率は前年比4.72%(前月は5.29%)、M3(M2にゆうちょ銀など全預金取扱金融機関の預貯金を含む)の伸び率は同4.19%(前月は4.63%)と、ともに6カ月連続で低下した(図表11)。
M3の内訳では、主軸である普通預金等の預金通貨(前月8.7%→当月7.9%)の伸び率が前年の伸び率上昇の反動もあって引き続き低下したほか、定期預金などの準通貨(前月▲2.6%→当月▲2.8%)の伸びがマイナス幅を拡大した。一方、現金通貨(前月3.3%→当月3.3%)の伸び率は横ばいであった(図表12)。
M3の内訳では、主軸である普通預金等の預金通貨(前月8.7%→当月7.9%)の伸び率が前年の伸び率上昇の反動もあって引き続き低下したほか、定期預金などの準通貨(前月▲2.6%→当月▲2.8%)の伸びがマイナス幅を拡大した。一方、現金通貨(前月3.3%→当月3.3%)の伸び率は横ばいであった(図表12)。
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(2021年09月09日「経済・金融フラッシュ」)
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03-3512-1870
経歴
- ・ 1998年 日本生命保険相互会社入社
・ 2007年 日本経済研究センター派遣
・ 2008年 米シンクタンクThe Conference Board派遣
・ 2009年 ニッセイ基礎研究所
・ 順天堂大学・国際教養学部非常勤講師を兼務(2015~16年度)
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