- シンクタンクならニッセイ基礎研究所 >
- 不動産 >
- 不動産市場・不動産市況 >
- 不動産投資の観点でみる地方中核都市の特性評価-市場規模と流動性に着目し、都市の特性を分類
不動産投資の観点でみる地方中核都市の特性評価-市場規模と流動性に着目し、都市の特性を分類
基礎研REPORT(冊子版)10月号[vol.295]

金融研究部 主任研究員 吉田 資
このレポートの関連カテゴリ
文字サイズ
- 小
- 中
- 大
1―はじめに
オフィスや住宅への投資において、収益不動産の集積度の高い東京が中心であることは変わらないが、リスク分散と収益安定化を図る目的から今後も地方都市への投資が拡大することが予想される。
そこで、本稿では、オフィスと住宅について、( 1)投資適格不動産の「市場規模」と、(2)不動産売買市場の「市場流動性*3」に着目し、地方中核10都市*4を対象に、その特性を評価したい。
*1 吉田資・室 剛朗『わが国の不動産投資市場規模(2)』(ニッセイ基礎研究所、不動産投資レポート、2021年4月19日)
*2 機関投資家の投資意欲が特に強いスペックや立地要件を満たす収益不動産
*3 投資適格不動産の「市場規模」に対する「平均年
間取引額(07年~20年)」。「市場流動性」=「平均年間取引額」÷「市場規模」
*4 札幌市、仙台市、川崎市、横浜市、名古屋市、京都 市、大阪市、神戸市、広島市、福岡市の10都市
2―不動産投資の観点でみる 地方都市の特性評価
まず、「オフィス市場規模」は、「大阪市」(6.4 兆円)が最も大きく、次いで、「名古屋 市(」2.2兆 円 )「、横 浜 市(」2.1兆 円 )、「福岡市(」1.6兆円)「、札幌市(」1.1兆円)の順となっている。「大阪市」は、第2位「名古屋市」の約3倍の規模に達している。
次に「、住宅市場規模」は「、大阪市(」3.2兆円)が最も大きく、次いで「名古屋市(」1.5兆円)「、横浜市(」1.5兆円)「、福岡市」(1.5兆円)、「川崎市」(1.1兆円)の順と1|地方中核10都市の「市場規模」なっている。
ところで、収益不動産の「市場規模」は人口動態と密接な関係を有している。図表1は「オフィス市場規模」と「生産年齢人口(15~64歳)」の関係を、図表2は「住宅市場規模」と「世帯数」の関係を示している。ともに相関が強く、直線に近い累乗近似曲線に従うことがわかる。具体的には、「生産年齢人口」が1%増加すると「オフィス市場規模」は約1.6%拡大、「世帯数」が1%増加すると「住宅市場規模」は約1.4%拡大する関係がみてとれる。
なお、「横浜市」はオフィスの回帰線より下方に、「大阪市」は上方に大きく乖離している。「横浜市」は東京の衛星都市としての機能があり居住地ではない東京で就業する人の割合が高く、「オフィス市場規模」が小さい。これに対して、「大阪市」は市内に居住する就業者に加え、周辺の都道府県から通勤する就業者も多く、「オフィス市場規模」が大きいと考えられる。
また、「横浜市」は、住宅についても回帰線より下方に乖離している。総務省「住宅・土地統計調査」によれば、「横浜市」の持ち家率は59%と10都市のなかで最も高く、相対的に賃貸比率が小さい。住居の所有形態が「住宅市場規模」に影響を及ぼしていると推察される。
続いて、「市場流動性」を確認する。オフィスの「市場流動性」は、「横浜市」(5.8%)が最も高く、次いで「川崎市」(3.2%)「、大阪市(」2.9%)の順となった。
また、住宅の「市場流動性」は、「仙台市」(2.3%)が最も高く、次いで「大阪市」(2.0%)「、名古屋市(」1.6%)の順となった。
ところで、「市場流動性」は「不動産証券化」の進展と密接な関係を有している。図表3(オフィス)と図表4(住宅)はそれぞれ、「市場流動性」と投資適格不動産に占める「J-REIT保有比率」の関係を示している。ともに相関が強く、線形関数に従うことがわかる。具体的には、「J-REIT保有比率」が1%上昇するとオフィスの「市場流動性」は約0.16%上昇、住宅の「市場流動性」は約0.11%上昇する関係がみてとれる。
なお、回帰線の傾きは住宅の方がオフィスより緩やかで、「J-REIT保有比率」に対する「市場流動性」の変化率が小さい。住宅では、近年、取引額に占めるクロスボーダー取引の割合が高まっており、海外資金の動向が「市場流動性」に影響を及ぼしていると考えられる。
3―おわりに
また、今回のコロナ禍を経て、在宅勤務が浸透したことで、ワークプレイスや居住地に対する意識変化が生じており、それに呼応した人口動態の構造変化にも十分留意したい。
(2021年10月07日「基礎研マンスリー」)
このレポートの関連カテゴリ
関連レポート
- わが国の不動産投資市場規模(3)~商業施設の「収益不動産」は約71.1兆円、物流施設は約23.9兆円、ホテル・旅館は約12.9兆円。
- わが国の不動産投資市場規模(2)~オフィスは「投資適格不動産(71.0兆円)」の4分の3、住宅は「投資適格不動産(30.4兆円)」の6割が「東京23区」に集積。
- わが国の不動産投資市場規模(1)-ボトムアップ・アプローチによる推計結果~「収益不動産」は約272兆円、「投資適格不動産」は約171兆円。
- 不動産投資の観点でみる地方都市の特性評価~市場規模と流動性に着目し、都市の特性を分類
- 地方都市において存在感を高めるコールセンターのオフィス需要~需要拡大が期待される一方で、課題も~

03-3512-1861
- 【職歴】
2007年 住信基礎研究所(現 三井住友トラスト基礎研究所)
2018年 ニッセイ基礎研究所
【加入団体等】
一般社団法人不動産証券化協会資格教育小委員会分科会委員(2020年度~)
吉田 資のレポート
新着記事
-
2025年03月24日
なぜ「ひとり焼肉」と言うのに、「ひとりコンビニ」とは言わないのだろうか-「おひとりさま」消費に関する一考察 -
2025年03月24日
若い世代が求めている「出会い方」とは?-20代人口集中が強まる東京都の若者の声を知る -
2025年03月24日
中国:25年1~3月期の成長率予測-前期から減速。目標達成に向け、政策効果でまずまずの出だしに -
2025年03月24日
パワーカップル世帯の動向-2024年で45万世帯に増加、うち7割は子のいるパワーファミリー -
2025年03月21日
資金循環統計(24年10-12月期)~個人金融資産は2230兆円と前年比86兆円増加も実質では前年割れ、定期預金が純流入に
レポート紹介
-
研究領域
-
経済
-
金融・為替
-
資産運用・資産形成
-
年金
-
社会保障制度
-
保険
-
不動産
-
経営・ビジネス
-
暮らし
-
ジェロントロジー(高齢社会総合研究)
-
医療・介護・健康・ヘルスケア
-
政策提言
-
-
注目テーマ・キーワード
-
統計・指標・重要イベント
-
媒体
- アクセスランキング
お知らせ
-
2024年11月27日
News Release
-
2024年07月01日
News Release
-
2024年04月02日
News Release
【不動産投資の観点でみる地方中核都市の特性評価-市場規模と流動性に着目し、都市の特性を分類】【シンクタンク】ニッセイ基礎研究所は、保険・年金・社会保障、経済・金融・不動産、暮らし・高齢社会、経営・ビジネスなどの各専門領域の研究員を抱え、様々な情報提供を行っています。
不動産投資の観点でみる地方中核都市の特性評価-市場規模と流動性に着目し、都市の特性を分類のレポート Topへ