2021年08月18日

英国雇用関連統計(7月)-改善が続き、求人数は過去最高に

経済研究部 主任研究員 高山 武士

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1.結果の概要:雇用環境の改善が続く

8月17日、英国国家統計局(ONS)は雇用関連統計を公表し、結果は以下の通りとなった。
 

【7月】
失業保険申請件数1前月(230.08万件)から0.78万件減の229.30万件となった(図表1)。
申請件数の雇用者数に対する割合は5.7%となり、前月(同5.7%)と同じだった。

【6月(4-6月の3か月平均)】
失業率は4.7%で前月(4.8%)から低下、市場予想2(4.8%)より良かった(図表1)。
就業者は3227.6万人で3か月前の3218.1万人から9.5万人の増加となった。
増減数は前月(2.5万人)から増加したが、市場予想(+10.0万人)は下回った。
週平均賃金は、前年同期比8.8%で前月(7.4%)から加速、市場予想(8.6%)も上回った(図表2)。

(図表1)英国の失業保険申請件数、失業率/(図表2)賃金・労働時間の推移
 
1 求職者手当(JSA:Jobseekerʼs Allowance)、国民保険給付(National Insurance credits)を受けている者に加えて、主に失業理由でユニバーサルクレジット(UC)を受給している者の推計数の合算。なお、UCはJSAより幅広い求職手当てであり、失業者数を示す統計としては過大評価している可能性がある。このため、ONSは失業保険等申請件数について公式統計とはしておらず実験統計という位置付けで公表している。ただし、公表日の前月のデータを入手できるため、速報性の高さという利点がある。
2 bloomberg集計の中央値。以下の予想値も同様。

2.結果の詳細:求人数は過去最高、労働需要が高まる

まず、失業保険申請件数と同じく7月のデータとして公表されている求人数および給与所得者数を確認すると、求人数は21年5-7月の平均で95.3万件とコロナ禍前の水準を大きく上回って調査開始後の最高を記録した。7月はイングランドで19日に行動制限がほぼ全て撤廃されるなど、経済活動制限の緩和が進んできたことで、労働需要が高まっていると見られる(図表3)。

給与所得者データ3を見ると、7月の給与所得者は2886.0万人で6月から18.2万人増えた。なお6月の数値は前月の速報値から大きく下方修正されている(修正幅は▲18.0万人)。今回公表値では、20年12月以来8か月連続の増加となり、増加幅もここ3か月は大幅増を維持していることが分かる(図表4)。7月はこれまで回復を主導してきた居住・飲食・芸術・娯楽業の増加幅が縮小したものの製造業や事務サービス・公的部門などそれ以外の業種で増加幅が拡大した。また流入数がコロナ禍前の水準を上回る状況となっており、ここからも労働需要の強さが読み取れる(図表5)。

月あたり給与額(中央値)については前年同月比6.4%で6月(8.2%)から減速した。ただし、7月はベース効果がほとんど剥落していることを勘案すると高い伸び率と言える。
(図表3)求人数の変化(要因分解)/(図表4)給与取得者データの推移
6月までのデータを確認すると、4-6月の失業率は4.7%とやや低下した(前掲図表1)。就業者が増加する一方、失業者と非労働力人口は減少しており、雇用環境は改善が続いていると言える。ただし、労働参加率はコロナ禍後のボトムからやや上昇して63.3%となったがコロナ禍前の水準(64%超)にはまだ距離がある。労働時間は31.0時間(前年同期差+5.1時間)、フルタイム労働者で35.5時間(同+4.9時間)となりコロナ禍後のピークを更新したがが、こちらもコロナ禍前の水準まではやや距離がある(前掲図表2)。4-6月の平均賃金はベース効果の影響などで前年同期比8.8%(実質は6.6%)と加速、水準はコロナ禍前のトレンドに復した形となっている。
(図表5)英国給与所得者の流出入推移/(図表6)英国の雇用統計(週次データ)
最後に週次データを確認すると(図表6)、休業者の低下が続き、コロナ禍前の休業者水準(250万人前後)をわずかに上回る水準まで改善した。政府の雇用維持政策は7月末に雇用主負担が始まっており9月末には終了する予定だが、雇用環境への影響が限定的となる公算が高まったと言える。
 
3 歳入関税庁(HRMC)の源泉徴収情報を利用した実験統計。直近データは利用可能な情報の85%ほどを集計して算出。
 
 

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経済研究部   主任研究員

高山 武士 (たかやま たけし)

研究・専門分野
欧州経済、世界経済

経歴
  • 【職歴】
     2002年 東京工業大学入学(理学部)
     2006年 日本生命保険相互会社入社(資金証券部)
     2009年 日本経済研究センターへ派遣
     2010年 米国カンファレンスボードへ派遣
     2011年 ニッセイ基礎研究所(アジア・新興国経済担当)
     2014年 同、米国経済担当
     2014年 日本生命保険相互会社(証券管理部)
     2020年 ニッセイ基礎研究所
     2023年より現職

    【加入団体等】
     ・日本証券アナリスト協会 検定会員

(2021年08月18日「経済・金融フラッシュ」)

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