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2021年08月05日
インフルエンザワクチン接種者の新型コロナワクチン接種意向
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1――はじめに
インフルエンザのワクチンを接種している人は新型コロナウイルス感染症のワクチン(以下、「新型コロナワクチン」とする)も接種する傾向があることが指摘されている1。ワクチンによって感染症の予防を行おうとする意識は、人によって異なるからだと考えられる。
新型コロナウイルスのワクチンについては、毎日のように、接種後の副反応やアナフィラキシーショックなどといった話題が報じられている。こういったネガティブな情報については、ワクチンによって感染症の予防を行おうとする意識がある人であっても、不安を感じる可能性は高い。
そこで本稿では、まず、インフルエンザのワクチン接種と、新型コロナウイルス感染症のワクチンの接種に関連があるかを確認する。次いで、普段からインフルエンザのワクチンを接種している人を、ワクチンによって感染症の予防を行う意識が相対的に高い人と考え、3月上旬に国内で初めて報じられたアナフィラキシー事例が、これらのワクチンによって感染症の予防を行う意識が高い人の接種意向に影響を与えるかを検討した。
新型コロナウイルスのワクチンについては、毎日のように、接種後の副反応やアナフィラキシーショックなどといった話題が報じられている。こういったネガティブな情報については、ワクチンによって感染症の予防を行おうとする意識がある人であっても、不安を感じる可能性は高い。
そこで本稿では、まず、インフルエンザのワクチン接種と、新型コロナウイルス感染症のワクチンの接種に関連があるかを確認する。次いで、普段からインフルエンザのワクチンを接種している人を、ワクチンによって感染症の予防を行う意識が相対的に高い人と考え、3月上旬に国内で初めて報じられたアナフィラキシー事例が、これらのワクチンによって感染症の予防を行う意識が高い人の接種意向に影響を与えるかを検討した。
2――調査概要
本分析には、ニッセイ基礎研究所が毎年行っている独自のWEB アンケート調査のデータを用いた2。このアンケート調査の回答は、全国の 18~64 歳の被用者(公務員もしくは会社に雇用されている人)の男女を対象に、全国6地区、性別、年齢階層別(10 歳ごと)の分布を、 2015 年の国勢調査の分布に合わせて収集した。回答の回収期間は、2021年2月27日~2021年3月25日で、回答件数は 5,808 件である。
さらに、普段インフルエンザのワクチンを接種しているかどうかについては、2021年に行った調査の項目には含まれていないため、その調査項目が含まれている2020年に行ったWEBアンケート調査のデータを用いた3。2020年に行ったWEBアンケート調査は、2021年の調査と同じ条件で実施し、回収件数は6,485件だった。そのうち、2021年と2020年の両方の調査を回答した人の数は4,451件である。
2 「2021年被用者の働き方と健康に関する調査」
3 「2020年被用者の働き方と健康に関する調査」
さらに、普段インフルエンザのワクチンを接種しているかどうかについては、2021年に行った調査の項目には含まれていないため、その調査項目が含まれている2020年に行ったWEBアンケート調査のデータを用いた3。2020年に行ったWEBアンケート調査は、2021年の調査と同じ条件で実施し、回収件数は6,485件だった。そのうち、2021年と2020年の両方の調査を回答した人の数は4,451件である。
2 「2021年被用者の働き方と健康に関する調査」
3 「2020年被用者の働き方と健康に関する調査」
3――新型コロナワクチンの接種意向とインフルエンザワクチンの接種者割合
4 2020年調査のみ回答している人も含めた回答者全体(N=6,485名)のインフルエンザワクチンの接種割合は、24.1%であり、2021年調査も回答した4,451名の接種割合と大きな差はない。
4――調査時点の「アナフィラキシーショック」への注目状況
本WEBアンケート調査の調査期間は2021年2月27日~3月25日と、比較的長期にわたっていることが特徴である。2021年調査の調査期間中も、ワクチンに関する情報が日々報じられており、3月5日には、厚生労働省が、国内で初めてとなる新型コロナワクチンによるアナフィラキシーの事例を公表した5。さらに、3月6日には2例目6、3月7日には3例目の事例が公表され7。このことは人々の「アナフィラキシー」への注目を高めたと考えられる。これを示すのが図3である。図3は、Google トレンドによる、「アナフィラキシー」の語の“人気度”の、調査期間中の推移を示したものである。“人気度”は、期間中の最高値を100とした相対的な検索インタレスト(「Google 検索で行われたすべての検索数に対してそのキーワードが占める割合」8)で示される。50の場合は最高値に比べて“人気度”が半分であることを示す9。つまり、この人気度は、「アナフィラキシー」の語への注目の高さを示していると考えられる。図3に示された通り、3月5日に国内で初めてとなるアナフィラキシーの事例が公表されて以降、「アナフィラキシー」への注目が高まり、3月10日に最大となり、その数日後に減少していった傾向が見られる。
5 朝日新聞デジタル(2021年3月5日)「アナフィラキシーを国内で初確認 ワクチン接種後にせき」(https://www.asahi.com/articles/ASP357G4WP35ULBJ019.html)、2021年7月30日アクセス。
6 読売新聞デジタル(2021年3月6日) 「国内2例目、ワクチン接種の20代女性にアナフィラキシー」(https://www.yomiuri.co.jp/medical/20210306-OYT1T50286/)、2021年7月30日アクセス。
7 日本経済新聞(2021年3月7日) 「アナフィラキシー国内3例目 新型コロナワクチン」(https://www.nikkei.com/article/DGXZQODG0738G0X00C21A3000000/) https://www.yomiuri.co.jp/medical/20210306-OYT1T50286/)、2021年7月30日アクセス。
8 Google 広告ヘルプ 「変化の激しい環境においてマーケターに役立つ Google トレンド」https://support.google.com/google-ads/answer/9817630?hl=ja(202年8月3日アクセス)
9 Google Trends (https://trends.google.co.jp/trends/explore?q=アナフィラキシー&geo=JP) 2021年7月29日検索。
5――新型コロナワクチン接種意向とインフルエンザワクチン接種及びアナフィラキシーショックへの注目
では新型コロナワクチンの接種意向とインフルエンザワクチンの接種傾向及びアナフィラキシーショックへの注目の間にはどのような関係が見られるのか。それを確認するために、被説明変数を新型コロナワクチンの接種意向の有無(接種意向がある場合に1を取るダミー変数)、説明変数をインフルエンザワクチン接種有無(普段から接種している場合に1を取るダミー変数)及び、回答日当日のアナフィラキシーの注目度(Google トレンドの人気度の数値)とした線形確率モデルおよびプロビットモデルによる推計を行った。推定結果は表1の通りである10。
まず、すべての推定でインフルエンザの予防接種と新型コロナワクチン接種意向には正に統計的に有意な関係があることが関係された(表1 (1)~(2))。つまり、インフルエンザの予防接種を受けている人は、受けていない人と比べて新型コロナワクチンの接種意向が高い。また、列3と列4にみられるように、アナフィラキシーへの注目が高まることは、新型コロナワクチンの接種意向と有意な関係は見られないものの、列5と列6のようにインフルエンザの予防接種とアナフィラキシーへの注目の交差項は負で統計的に有意であり、インフルエンザの予防接種を普段からおこなっている人は、アナフィラキシーへの注目が高まると、新型コロナワクチン接種意向が低くなる傾向が見られた(表(3)~(6))。
まず、すべての推定でインフルエンザの予防接種と新型コロナワクチン接種意向には正に統計的に有意な関係があることが関係された(表1 (1)~(2))。つまり、インフルエンザの予防接種を受けている人は、受けていない人と比べて新型コロナワクチンの接種意向が高い。また、列3と列4にみられるように、アナフィラキシーへの注目が高まることは、新型コロナワクチンの接種意向と有意な関係は見られないものの、列5と列6のようにインフルエンザの予防接種とアナフィラキシーへの注目の交差項は負で統計的に有意であり、インフルエンザの予防接種を普段からおこなっている人は、アナフィラキシーへの注目が高まると、新型コロナワクチン接種意向が低くなる傾向が見られた(表(3)~(6))。
10 すべての推定にはコントロール変数として、性、年齢、回答日までの7日間の居住都道府県の1日当たりコロナ感染者数の移動平均 /居住地(都道府県)、仕事の内容(管理職/事務職/事務系専門職/技術系専門職/医療福祉、教育関係の専門職/営業職/販売職/生産、技能職/接客サービス職/運輸、通信職/その他)、新型コロナ感染経験(自分もしくは同居家族/同僚/身近な友人・知人/利他性 、持病の有無(肥満である/血圧を下げる薬を服用している/インスリン注射、または血糖を下げる薬を服用している/コレステロールや中性脂肪を下げる薬を服用している/脳卒中(脳出血、脳梗塞等)にかかっているといわれたり、治療を受けたことがある/心臓病(狭心症、心筋梗塞等)にかかっているといわれたり、治療を受けたことがある/慢性の腎不全にかかっていると言われたり、治療(人工透析)を受けたことがある/ 現在タバコを習慣的に吸っている)、同居家族の有無が含まれている。この他、すべての推定で、2021年は回答したけれど2020年は回答していない人のダミーが含まれている他、3列目から6列目には、2020年は回答したけれど2020年は回答していない人のダミーとアナフィラキシーへの注目の交差項が含まれている。そのため、インフルエンザの予防接種の変数について、2020年の情報が無い場合は0と置き換えて推定している。
6――おわりに
本稿では、ニッセイ基礎研究所独自のWEBアンケート調査のデータを用いて行った分析から、普段からインフルエンザの予防のためにワクチンを接種している人は、新型コロナワクチンの接種意向も高いことを確認した。これは、ワクチンで感染症を予防しようとする人と、必ずしもそうではない人がいることを示していると考えられる。インフルエンザのワクチン接種の経験をしたことで、ワクチンの効果を実感した経験がある可能性もある。
さらに、インフルエンザワクチンを接種している人では、新型コロナワクチン接種後のアナフィラキシー発生事例に関する情報に対して、敏感に反応していた可能性があることを確認した。インフルエンザワクチンを接種している人は、相対的に新型コロナワクチンについても接種を検討していた人が多かったからこそ、接種後の副反応についても、より関心が高かったと考えられる。このことは、新型コロナワクチンの接種について、アナフィラキシーを含めて副反応についての情報が増えている中で、予防効果を認識しつつも、アナフィラキシーを含めた副反応への不安から接種に踏み出せない人がいることを示唆していると考えられる。接種拡大を進めるにあたり、丁寧な情報開示の重要性を改めて確認した結果といえるだろう。
さらに、インフルエンザワクチンを接種している人では、新型コロナワクチン接種後のアナフィラキシー発生事例に関する情報に対して、敏感に反応していた可能性があることを確認した。インフルエンザワクチンを接種している人は、相対的に新型コロナワクチンについても接種を検討していた人が多かったからこそ、接種後の副反応についても、より関心が高かったと考えられる。このことは、新型コロナワクチンの接種について、アナフィラキシーを含めて副反応についての情報が増えている中で、予防効果を認識しつつも、アナフィラキシーを含めた副反応への不安から接種に踏み出せない人がいることを示唆していると考えられる。接種拡大を進めるにあたり、丁寧な情報開示の重要性を改めて確認した結果といえるだろう。
(2021年08月05日「基礎研レポート」)


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