2021年07月20日

2021年以降の世界保険市場見通し-今後10年間はアジア新興諸国が牽引

保険研究部 上席研究員 兼 気候変動リサーチセンター 気候変動調査部長 有村 寛

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1――はじめに

ドイツ最大の保険グループであるアリアンツは、2021年5月12日付で、世界の保険市場について、2020年の状況を振り返るとともに、2021年以降の見通しについてのレポートを公表した1。そこでは、2021年度の世界の保険市場は、米国ならびに中国が牽引して、保険料収入ベースで約5%の成長を遂げるとともに、今後10年間で見ても、収入保険料は、年平均5%以上のペースで成長し、アジアの世界市場に占める割合がますます高まることが予想されている。

ここではその概要について紹介したい。
 
1 ALLIANZ INSURANCE REPORT2021 BRUISED BUT NOT BROKEN 12 May 2021
 

2―2020年の世界保険市場の状況

2――2020年の世界保険市場の状況

上記レポートによれば、2020年の世界の保険料収入は、前年比▲2.1%であり、生損保の内訳では、生保▲4.1%、損保1.1%となった。地域別にみると、特に日本、西ヨーロッパの落ち込みが大きく、日本▲7.7%(うち生保▲9.6%、損保▲1.1%)、西ヨーロッパ▲5.1%(うち生保▲7.8%、損保0.5%)となっている。

保険料全体としての減少幅は、昨年同時期においてアリアンツが予想したところ2より限定的なものであった。当初予想より限定的で済んだ主な背景としては、損保における急速かつスムーズなデジタル化の進展により、新規契約獲得の停滞が一定回避できたことがあげられる。一方、生保は、内容がより複雑であり、助言を必要とする場面が多く、また、パンデミックによる経済危機の状況下では、高額かつ長期の保険料支出の決定は回避される傾向にあることから、回復も限定的となった。
【表1】2020年保険料増加率(地域別)
 
2 同アリアンツレポートP4によれば、前年同時期において、アリアンツでは2020年における保険料全体としての減少幅を▲4%弱と見込んでいた。
 

3―2021年以降の状況(今後の市場見通し)

3――2021年以降の状況(今後の市場見通し)

12021年見通し
 一方、2021年度については、世界的な経済の回復が見込まれる中、保険市場も力強い成長が見込まれる。

世界全体の収入保険料は5.1%の増加が見込まれ、中でも、中国(13.4%)、米国(5.3%)が二大エンジンとして世界を牽引するとともに、特に中国は世界最大の成長を遂げることが予想されている。生損別では、生保5.7%、損保4.2%と、前年度大幅に減少した生保(▲4.1%)の回復幅が大きい3

世界全体で見れば、2021年末の収入保険料は、パンデミック前の水準まで回復することが見込まれるが、コロナウィルスへの対応状況等により、回復の状況は各国で均一的では決してなく、特に西ヨーロッパや日本では回復が遅れることが予想されている。
【表2】2021年保険料増加率(見通し・地域別)
 
3 2021年5月12日付Asia Insurance Review“Singapore:Life new-business premiums soar by 29% in 1Q”ならびに“Indonesia:Life insurance sector sees premium income jump by 25% in 1Q”、2021年5月27日付“LIMRA:First Quarter U.S. Life Insurance Policy Sales Highest Since 1983”等、アジア新興諸国や米国において2021年における生保の収入保険料の増加が報じられている他、2020年12月23日付Reinsrance News“GlobalData projects APAC life insurance premiums to grow in 2023”では、GobalData社では2019年から2023年のアジアパシフィック地域での生命保険の保険料の増加率を年平均4.9%と見込んでいることが紹介されている。
22021年以降10年間の見通し
また、同レポートでは、2022年以降も世界保険市場は堅調に成長すると見ており、特に2021年からの10年間は、「黄金の10年間」と位置付けている。そこでは、パンデミックを契機としたリスク認識の高まり、持続可能性への対応、新興市場におけるさらなる保険の普及により、年平均5%以上(うち生保5.6%、損保4.6%)の収入保険料の伸びが達成できるとされている(「表3」参照)。

直前の2010年からの10年については、生損合計で年平均3.1%、特に生保は、リーマンショック後の記録的な低金利が重荷となり、年平均2.4%の成長に留まっていたが(「表4」参照)、それに比べて大幅な増加となる。
【表3】2021-2031年における平均保険料増加率(見通し・地域別)
【表4】2010-2020年における平均保険料増加率(地域別)
また、地域別の収入保険料(生損保合計)が世界の保険市場に占める割合も、10年毎に見ると大きく変化しており、2010年では最大のシェアを占めていた西ヨーロッパや、日本のシェアは大きく低下する一方で、アジアは引き続大幅な増加が見込まれ、保険ビジネスの世界的な重心はアジアにシフトしていくことが予想されている。
【図1】保険料(生損合計)地域別構成比の推移

4―おわりに

4――おわりに

以上、アリアンツが公表した2021年以降の世界保険市場見通しについて、その概要を紹介してきた。ここでも記載のとおり、世界生保マーケットは、超低金利が継続する中、ここ10年は低成長を余儀なくされてきたが、パンデミックを契機に、持続可能性、ESGへの関心の高まりの追い風もあり、ここから10年はアジア新興諸国を中心に高成長が期待されている。特に持続可能性への注目は、新型コロナウイルスによって加速され、保険業界にとって強い追い風であり、新しい機会を創出するとともに、より安定した運用収益をもたらす新しい投資機会を提供するが、その一方で、商品・サービスが持続可能性に与える影響についての開示や測定といった新たな対応が求められていくことが想定される。

これらは、保険業界にとって与える影響も大きいと思われることから、動向については今後も引き続き、注視していきたい。
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保険研究部   上席研究員 兼 気候変動リサーチセンター 気候変動調査部長

有村 寛 (ありむら ひろし)

研究・専門分野
保険商品・制度

経歴
  • 【職歴】
    1989年 日本生命入社
    1990年 ニッセイ基礎研究所 総合研究部
    1995年以降、日本生命にて商品開発部、法人営業企画部(商品開発担当)、米国日本生命(出向)、企業保険数理室、ジャパン・アフィニティ・マーケティング(出向)、企業年金G等を経て、2021年 ニッセイ基礎研究所へ、2023年7月より現職

(2021年07月20日「保険・年金フォーカス」)

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【2021年以降の世界保険市場見通し-今後10年間はアジア新興諸国が牽引】【シンクタンク】ニッセイ基礎研究所は、保険・年金・社会保障、経済・金融・不動産、暮らし・高齢社会、経営・ビジネスなどの各専門領域の研究員を抱え、様々な情報提供を行っています。

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