2021年07月07日

人口動態データ解説-東京一極集中の「本当の姿」

生活研究部 人口動態シニアリサーチャー   天野 馨南子

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はじめに -正しい数字の収集と解釈を

「若い人が東京に出て行ってしまって、地方の過疎と都市の過密が加速化している」
 
数年前、まだ小学生だったわが子が、進学塾で「カソトカミツ!」をパワーワードとして習い、大合唱して帰ってきていたのを覚えている。
 
それくらい誰でも知っているはずの日本の人口動態問題であるが、その実態をしっかり把握している人は少ない。講演会においてデータをもとに日本における人口動態の最大の課題「東京一極集中」を解説すると、悲鳴にも似た驚きの声があがる。
 
そこで、本レポートでは国の統計データをもとに解説を行い、東京一極集中問題を読者が考える際の「正確な前提条件」を提示してみたい。

この正確な前提条件が上流思考となって、中流思考である「誰を集めるのか」、そして下流思考である「どうやって集めるのか」が考案されるため、「正確な前提条件」を見失った政策は奏功しないか、もしくは奏功したとしても偶々であるか、一時的な人口増加に効果がとどまり未来につながらないか、のどれかとなる。
 
まずはコロナ禍以前の直近の2019年の人口動態結果を、総数ならびに男性女性別に解説する。
【人口動態からみた「あるべき地方創生」の戦略策定プロセス】

1―― 注目すべきは「転出・転入の差」

1―― 注目すべきは「転出・転入の差」

いわゆる地方創生の観点から人口移動を見る場合、大切なのは転出総数(出ていった数)、転入総数(やってきた数)そのものではない。講演会でも何度もお伝えしてきたが、転出・転入そのものはダイバーシティの結果である。県外に出ていくことが悪であり、県内に来てくれることが善、という一方通行しかみない移動への支配的な考えでは、ライフデザインのダイバーシティそのものを否定することになる。どこに生まれようとも、山が好きな人がいる一方で、海が好きな人がいる、そんな社会だからこそ、人口移動は起こるのである。そのこと自体を否定してはならない。

しかし、転出・転入の差(入ってくる人-出ていった人)はしっかり見なくてはならない。大きく転入超過するエリアは沢山の人々に選ばれる、その時代の人々に好まれるエリアであり、その反対は選ばれないエリア、であることが示されるからである。
 
ダイバーシティを差し引いても、沢山の人に選ばれない転出超過エリアであるとすると、もしそのエリアを栄えさせたいという意志があるならば、選ばれるように修正していく必要がある。
 
そこで、まずは2019年の男女総数ベースの人口移動から見た「令和元年のエリア選好」をみてみたい(図表1)。
 
2019年における人口移動の結果として人口数を減らしたエリアは47都道府県中39エリア、16万1546人の転出超過による減少となった。そのうち5,000人以上を減らしたエリアは12エリアとなっている。
 
これをより広域でみると、北海道、東北エリアでは福島県・青森県、関東エリアは茨城県・栃木県、中部エリアでは新潟県・岐阜県・三重県・静岡県、近畿エリアでは兵庫県、中国エリアでは広島県、九州エリアでは長崎県、となっており、また、中部エリアでは12エリア中4エリアが5,000人以上減少エリアに入っており、大きく数を減らしているといえる。
【図表1】2019年 転出超過エリアにおける減少数ランキング(男女総数/人)
次に男女別の内訳の状況を詳細にみてみたい(図表2)。
 
転出入によって転出超過(人口減少)となった39エリアのうち、男性よりも多く女性が減少したエリアは31エリアにのぼり、圧倒的に女性の転出超過>男性の転出超過である姿がわかる。
【図表2】2019年 転出超過エリアにおける減少人口の男女内訳(人/倍)
つまり、
 

POINT1 「カソトカミツ」のカソの原因は、男性の減少よりも女性の減少が原因である

 
このデータから見れば、男性誘致をメインとするような地方創生戦略は、ほとんどのエリアで戦略ミスであるといえよう。
 
特に、女性の転出超過数が男性の1.5倍を超えるアンバランスな減少を見せている(以下減少総数順)、福島県、岐阜県、三重県、静岡県、北海道、岩手県、長野県、鹿児島県、岡山県、山口県、大分県、石川県、群馬県の13エリアについては、これまでの人口誘致策が男性誘致をメインとした戦略に傾斜しすぎていなかったか、早急に見直す必要があるだろう。
 

2―― 転入超過エリアは女性の定着力に強みを持つ

2―― 転入超過エリアは女性の定着力に強みを持つ

39エリアで16万人を超える人口移動による人口減少が起こった一方で、それと同数の人口増加(転入超過)が起こったエリアが8エリアある。

東京都、神奈川県、埼玉県、千葉県の首都圏エリア、関西エリアの中核都市をもつ大阪府、九州エリアの中核都市をもつ福岡県、そして滋賀県、沖縄県、である。
 
しかしながら、転入超過総数に占める割合でみてみると、東京都、神奈川県、埼玉県の圧倒的な人口吸引力が理解できる。この3エリアで86パーセントを占める。また、東京都に神奈川県や埼玉県と同じく一部隣接する千葉県も含めると92%が「東京都とその隣接県」に吸収されていることが示されている。
【図表3】 2019年 転入超過エリアにおける増加人口の男女内訳(人/倍)
つまり、
 

POINT2 「カソトカミツ」のカミツは、東京都での発生が5割、隣接エリアでの発生を
ふくめると9割が東京都とその隣接県で起きている

 
大阪府や福岡県などの地方中核都市にも人口が集まっているイメージをもたれがちであるが、人口移動の最終結果としてみると、東京都とその隣接県以外での人口集中はほぼ起こっていない、とまでいえる状況である。
 
また、転入超過を果たしているエリアの特徴として、8エリア中5エリアが男性よりも女性の方が多く増加(+1エリアはイーブン)しており、人口を増加させるエリアは女性の定着力が高い、という点で、転出超過エリアと大きな違いがあることが示されている。

特に大阪府は長らく女性よりも男性を多く増加させていたが、政策転換を果たしたのかは不明であるが、ここ数年で男性よりも女性を大きく増やすエリアへと変貌を遂げてきている。
 

POINT3 「カソトカミツ」のカミツエリアは、男性よりも女性人口の吸引力の高さを
特徴としている

3―― 東京の吸引力なのか、地方の課題なのか

3―― 東京の吸引力なのか、地方の課題なのか

ここまでで示した内容を勉強会などでお伝えすると「東京都に返してほしい」という声もあがる。この言葉は「東京都が人口を奪っていく」というイメージなのだろう。
 
しかし、当然ではあるが、東京都が人々を奪ったわけではなく、東京都が人々に選ばれてきたわけである。

ダイバーシティの時代に個々の感覚がより尊重されるようになり、落合陽一氏の指摘するデジタルネイチャーの時代において、まるで隣で起きたことのように遠い東京都の情報が地方の人々の眼前にも広がっている。そして、眼前に示された情報の中で、個々の判断で人々が東京都を目指して動いている。
 
そうであるとするならば、東京都の女性をメインとした吸引力を嘆くよりも、地方の、男性よりも多い女性流出という実態をしっかりと見つめて、その課題に正面から対処していく、という方が地方にとって建設的な未来へとつながると筆者は考えている。

上流思考が変化すれば、誰を集めるか、どう集めるか、中流下流政策も大きく変わる。コロナによって東京都におけるカミツが問題視される中、地方部はいま、変化に向けて千載一遇のチャンスを迎えているのではないだろうか。
 
そこでさらに集中の実態を深堀りするために、集中する人口の「年齢ゾーン」にも着眼して解説したい。
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生活研究部   人口動態シニアリサーチャー

天野 馨南子 (あまの かなこ)

研究・専門分野
人口動態に関する諸問題-(特に)少子化対策・東京一極集中・女性活躍推進

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