2021年06月30日

所有者不明土地への諸対策 (5)-相隣関係と所有者不明・管理不全土地建物管理

保険研究部 常務取締役 研究理事 兼 ヘルスケアリサーチセンター長・ジェロントロジー推進室研究理事兼任   松澤 登

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1――はじめに

相隣関係とは、隣り合う土地同士の権利調整を行うものである。豆知識としてクイズにもなるのが、木の根が隣地から伸びてきたら、土地の所有者は勝手に切り取ることができるが、伸びてきた枝は自分で切り取ることはできず、隣地の所有者(=竹木の所有者)に切除してもらわなければならない(民法第233条)というものがある。

今回の民法改正では、古くなった相隣関係規定の現代化と、いまだ自分の土地に直接的な影響を及ぼしていない近隣地である管理不全土地への対応を定めるものである。

前者は、管理者が必ずしも明らかではない放棄地があることを前提とした改正となっており、その観点から所有者不明土地問題への一つの対応となっている。

また後者は、直接的な隣地に限らず、所有者が不明で管理ができていない土地や建物の管理命令、あるいは所有者は明確ではあるが、管理が不全である土地や建物(いわゆるごみ屋敷など)への管理命令が出せるようにするものである。
 

2――相隣関係規定の改正

2――相隣関係規定の改正

相隣関係の改正点は3点ある。(1)隣地使用権のルールの見直し、(2)竹木の枝の切除等、(3)継続的給付を受けるための設備設置権・設備利用権である。

1隣地使用権
隣地使用権のルールの見直しであるが、まず隣地に立ち入ることができるケースを増やした。現状、立入が可能なのは、境界又はその付近における「障壁、建物等の築造・修繕」に限定されていたが、「境界標の調査又は境界に関する測量と枝の切除(後述)」の場合も追加された1(改正民法第209条第1項)。そして、重要なのは、「隣地を使用することができる」(現行民法は「隣地の使用を請求することができる」(図表1))とされたことである。つまり、隣地所有者の承諾がなくても使用することができる。ただし、予め隣地所有者・隣地利用者に通知をする(事前通知が困難な時は事後通知でも可)必要がある(図表2)。
【図表1】現行民法における隣地使用権の行使
【図表2】改正民法における隣地使用権の行使
なお、住家についてはその居住者の承諾を要することとされている(同条第1項但し書き)。そして、使用の仕方が隣地所有者や隣地使用者の損害が最も少ないものを選ばなければならないとされている(同条第2項)。

このようなルールによると、隣地の所有者や使用者が不明(放棄地など)であれば、所有者等が判明した際に事後通知を行うことを前提として、隣地を使用することができる。たとえば土地の境界が不分明であるときなどで、隣地所有者の所在が不明であっても、隣地に立ち入りして調査をすることができる。境界の確定は、不動産取引の前提として必要であるばかりではなく、シリーズ第1稿(「所有者不明土地への諸対策 (1)-土地の国庫への帰属の承認制度」)で述べたように土地の国庫への帰属承認申請にあたっても必要となる2

他方、隣地の所有者が判明しているケースで、隣地の使用者が立ち入りを拒んだときには、改正民法によっても無理に立ち入ることはできない。この場合は、裁判所に訴えて立ち入りを認めてもらうほかはない。

なお、隣地を使用したことで損害が発生した場合には、隣地所有者等は、隣地を使用した者に対して償金を請求することができる(同条第4項)。
 
1 文言上は境界・境界付近の障壁等の「収去」も追加された。
2 なお、土地基本法第6条では、所有者に対して所有権の境界を明確化すべき努力義務が規定されている。
2|竹木の枝の切除等
放棄地では、竹木が繁茂し、枝が境界線を越えて自分の土地にかかることがありえる。この場合、隣地の所有者等が不明であるときは現行法では何もできないことになる。改正民法では原則として現行法のルールを維持しつつも、土地の所有者が自ら切り取ることができるケースを定めた(改正民法第233条第3項)。すなわち、(1)竹木の所有者の切除するよう催告したにもかかわらず、相当期間内に切除しないとき、(2)竹木の所有者を知ることができず、またはその所在を知ることができないとき、あるいは(3)急迫の事情があるときである。これらの場合には土地の所有者は隣地から伸びてきた枝を自ら切除できる。かつ切除にあたっては、上記1のとおり、隣地を使用することもできる3
 
3 竹木の切除は所有者の義務であるので、所有者に代わり切除した者はその費用(職人の報酬など)を所有者に請求できる。
3設備設置権・設備使用権
電気・ガス・水道などのライフラインについて、設備を他の土地に設置しなければ供給を受けることができないときには、必要な範囲で他の土地に設備を設置し、あるいは他人が所有する設備を使用することができる(改正民法第213条の2第1項)。このルールも「使用することができる」となっており、上記で述べたところが該当する(=当然に設置・使用できるが、隣地所有者等が拒絶したら訴訟で解決する)。特に、私道に設備が設置されているが、その私道について相続に伴う登記がされておらず、所有者不明となっているケースが散見されるとのことであり、このようなケースへの対応として有効なものとなる。

設備の設置、使用にあたっては隣地所有者・使用者にあらかじめ通知を行わなければならないとされている(同条第3項)。設備の設置、使用は隣地所有者等にとって最も損害の少ないものを選ぶ必要があり(同条第2項)、償金を支払わなければならない(年払いも含む。同条第5項)。
 

3――所有者不明土地管理命令等の新設

3――所有者不明土地管理命令等の新設

1|所有者不明土地管理命令
土地の所有者を知ることができず、またはその所在を知ることができないとき、利害関係人の請求により、裁判所は所有者不明土地管理人による管理を命ずる処分をすることができるとされた(改正民法第264条の2第1項)。不動産の管理・処分の権利は、所有者不明土地管理人に専属する(改正民法第264条の3第1項)。権利が専属するため、管理・処分にあたって土地の所有者の同意は必要ない。

所有者不明土地管理人は雑草の除去などの保全行為などもできるが、最終的に土地売却も可能である。ただし、土地の保存・利用または改良行為を超える行為をするには、裁判所の許可が必要である(同条第2項)。所有者不明土地管理人は所有者に対して、善良なる管理者としての注意義務を負う(改正民法第264条の5)。管理人の報酬は所有者不明土地から得られる収益から充当され(改正民法第264条の7第1項)、最終的には所有者の負担となる(同条第2項)。

たとえば、がけ崩れや土砂の流出など危険がある場合であって、所有者が不明な場合は本条による管理命令を求めることとなると思われる。

難しいのは、土地の管理コストをどこから捻出するかであろう。ここで利害関係人には公共事業の実施者などが想定されている4。このような場合を別とすると、所有者もはっきりしない場合は、管理コストが捻出できず、また管理人の報酬が支払われないことになる。実際にはなり手がおらず、放置される場合も考えられる。
 
4 2021年3月23日衆院法務委員会小出政府参考人発言
2|所有者不明建物管理命令
上記と同様、建物の所有者を知ることができず、またはその所在を知ることができないとき、利害関係人の請求により、裁判所は所有者不明建物管理人による管理を命ずる処分をすることができるとされた(改正民法第264条の8第1項)。所有者不明建物管理人の所有者不明建物についての管理・処分の権利は、所有者不明土地管理人の有する権利と同様である(同条第5項)。

上述の所有者不明土地管理人の権利は土地とそれに付属する動産に限定され、建物には及ばないためにこの管理人制度が認められている。したがって、所有者不明の土地建物が放置されている場合は、所有者不明土地管理命令と所有者不明土地建物管理命令の両方を出すことになろう。

この所有者不明建物管理命令は、建物が老朽化して崩壊のおそれがあり、自身の建物に被害が及ぶ場合などでの活用が考えられる。

土地の場合と同様にコストをどこから出すかということが問題となる。
【図表3】所有者不明土地管理人と所有者不明建物管理人

4――管理不全土地管理命令等の新設

4――管理不全土地管理命令等の新設

1|管理不全土地管理命令
前記3とは異なり、本規定では所有者が判明していて所在もわかる場合を前提にしている。そのような場合において、所有者による土地の管理が不適当であることによって他人の権利または法律上保護される利益が侵害され、または侵害される恐れがある場合において、必要と認めるときは、利害関係人の請求により、裁判所が管理不全土地管理人による管理を命ずる処分をすることができる(改正民法第264条の9)。

管理不全土地管理人は、管理不全土地の管理・処分を行う権利を有する(改正民法第264条の10第1項)。権利は管理人に専属するのではないため、土地所有者も管理・処分権を有する。ただし、保全・利用または改良行為を超える行為を行う場合には裁判所の許可を要する(同条第2項)。さらに処分行為について裁判所が許可を与えるには、所有者の同意を要する(同条第3項)。

上記で述べたがけ崩れのようなケースで所有者が明らかなときに管理命令を活用することが考えられる。特に継続的に管理が必要な場合に本条項による管理命令は有用である5

管理不全土地の管理にかかる費用および管理人の報酬は、管理不全土地からの収益から受けることができ(改正民法第264条の13第1項)、管理不全土地の所有者の負担となる(同条第2項)。ただ、管理不全土地から収益が上がることはまれであろうし、所有者が費用等を負担できない場合も考えうる。結果、管理不全土地管理制度をうまく活用できないケースも少なくないように思われる。
 
5 一回で済むような管理(崖地の整地)は土地所有権に基づく妨害排除請求権によることも可能である。
2管理不全建物管理命令
上記と同様に、所有者による建物の管理が不適当であることによって他人の権利または法律上保護される利益が侵害され、または侵害される恐れがある場合において、必要と認めるときは、利害関係人の請求により、裁判所が管理不全建物管理人による管理を命ずる処分をすることができる(改正民法第264条の14第1項)。管理不全建物管理人の建物についての管理・処分の権利は、管理不全土地管理人と同様のものである(改正民法第264条の14第4項)。

この管理命令の対象となる建物としては、いわゆるごみ屋敷も他人の権利の侵害状況によって対象となると考えられる6
【図表4】管理不全土地管理人と管理不全建物管理人
 
6 2021年3月23日衆議院法務委員会議事録小出政府参考人発言
 

5――おわりに

5――おわりに

本文でみた通り、相隣関係と言っても、隣り合っている土地権利の相互調整といった狭い範囲だけではなく、所有者不明あるいは管理不全の不動産の管理を行う制度が導入された。確かに住宅地に草が繁茂し、あるいはごみ屋敷などがあると周囲一帯の不動産の価値にも影響が及ぶ。

問題はコストの捻出である。コスト負担するのは所有者であるが、所在等不明であったり、地域に協力的でなかったりすることも多いであろう。

土地が公共事業に活用されるなどして利益を生む場合は別として、ごみ屋敷や利用予定のない空き地などはどうであろう。今後の制度の活用次第である。

次回は最終回として、不動産登記の義務化について解説を行う。
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松澤 登 (まつざわ のぼる)

研究・専門分野
保険業法・保険法|企業法務

(2021年06月30日「基礎研レター」)

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