コラム
2021年06月10日

こどもの数が減り続けている-優(まさ)れる宝 子に及(し)かめやも

保険研究部 主席研究員 兼 気候変動リサーチセンター チーフ気候変動アナリスト 兼 ヘルスケアリサーチセンター 主席研究員 篠原 拓也

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こどもの数が減り続けている。総務省統計局が5月に発表した「我が国のこどもの数-『こどもの日』にちなんで-」によると、日本の人口全体に占めるこどもの割合は歴史的な低水準となっている。長らく少子化が進んでいたところに、新型コロナウイルス感染症の拡大で、昨年以降、婚姻数や出生数が減少したことが輪をかけている。こどもの数の動向を探ってみよう。

◇ こどもの割合は最も低い水準とみられる

まず、15歳未満のこどもの数をみてみよう。こどもの数は、2021年4月1日時点で、前年より19万人少ない1493万人だった。1982年から40年連続の減少で、1920年以降の最少を更新した。

過去からの推移をみると、ピークは1954年の2989万人だった。それが、1987年には2500万人を割り、1996年には2000万人を下回った。2021年のこどもの数は、ピーク時からみて、ほぼ半減したことになる。

では、人口全体に占めるこどもの割合はどう推移しているだろうか。こどもの割合は、2021年4月1日時点で、前年より0.1ポイント低い11.9%だった。この割合は、第2次ベビーブームが終わった1975年以降、47年連続で低下している。

1920年の初の国勢調査以降のデータをみていくと、戦前はずっと36%超で推移しており、ピークは1938年の37.1%だった。つまり、現在のこどもの割合は、当時の3分の1未満の水準ということになる。

それ以前の信頼できる統計は乏しいが、こどもの割合が大きく低下した時期があるとは考えにくい。いま、日本のこどもの割合は、歴史上、最も低い水準とみることができるだろう。

◇ 現在40歳代以下の人は、「自分よりも若い世代のほうが数が多い」という経験がない

こどもの数は年齢ごとにどのように分布しているだろうか。15歳未満を、3歳ごとにみてみよう。中学生にあたる12~14歳が324万人(総人口に占める割合2.6%)なのに対して、9~11歳は314万人(同2.5%)、6~8歳は298万人(同2.4%)、3~5歳は292万人(同2.3%)、0~2歳は265万人(同2.1%)、と低年齢にいくほど数が少なくなる。これは、最近の出生数の減少を反映したもので、近年は、この傾向が常態化している。

つぎに、15歳未満を0~4歳、5~9歳、10~14歳に3区分して、その数の推移を比較してみる。すると、最後に0~4歳が5~9歳を上回ったのは1976年。また、最後に5~9歳が10~14歳を上回ったのは1981年となる。それ以降、約40年間にわたり、低年齢ほど数が少ない状態が続いていることになる。

つまり、現在40歳代以下の人は、「自分よりも若い世代のほうが数が多い」という経験をしたことがない。第2次ベビーブームの前に生まれた、50歳代以上の人とは、異なる世代感覚を持っている、といえるかもしれない。

◇ こどもの割合は主要国中で最低

総務省は、こどもの割合について人口4000万人以上の諸外国との比較も公表した。調査・推計時点の違いから厳密な比較は困難だが、日本の11.9%という水準は最も低くなっている。

たとえば、アメリカの18.6%(調査時点2018年7月1日)、イギリスの18.1%(同2018年7月1日)、フランスの17.7%(同2021年1月1日)はもとより、イタリアの13.3%(同2018年7月1日)、ドイツの13.6%(同2019年1月1日)、韓国の12.2%(同2020年7月1日)をも下回っている。

よく、日本は世界で最も高齢化が進んでいる、といわれる。今回公表された、こどもの割合の国際比較をみると、日本は少子化も他国に比べて進んでいる、といえるだろう。

◇ コロナ禍が少子化に拍車

昨年来のコロナ禍で、出生数は激減している。

6月に公表された「令和2年(2020) 人口動態統計月報年計(概数)の概況」(厚生労働省)によると、2020年の出生数は84.1万人で、前年に比べて2.4万人減少した。

また、2020年の婚姻件数は52.5万組で、前年に比べて7.4万組減っている。日本では、婚姻外の出生が限られていることを踏まえると、婚姻件数の減少の影響は、今後、さらなる出生数の減少につながるだろう。新型コロナが少子化に拍車をかけている、といえそうだ。

◇ こどもがいることで、社会に活気がもたらされる

少子化問題というと、「生産年齢人口が減少して経済の活力が低下する」とか、「社会保障制度の給付と負担のバランスが損なわれる」などと、将来予想される、経済や社会保障へのインパクトに目が向きやすい。

そればかりではなく、こどもがいること自体で、いまの社会に活気がもたらされる、という効果についても、よく考えてみるべきかもしれない。

奈良時代の歌人・山上憶良(やまのうえのおくら)は、万葉集に、つぎの歌を残している。

「銀(しろがね)も 金(くがね)も玉も なにせむに 優(まさ)れる宝 子に及(し)かめやも」
(解釈) 銀も金も宝石も、どうして優れた宝であろうか、いやけっしてそうではない。それらの宝も、こどもという宝に及ぶだろうか、いや及ぶものではない。

奈良時代に、どれだけのこどもがいたのか、正確なところはよくわからない。ただ、長い時を経たいまも、この歌にあらわれている、こどもの大切さは変わらないだろう。
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保険研究部   主席研究員 兼 気候変動リサーチセンター チーフ気候変動アナリスト 兼 ヘルスケアリサーチセンター 主席研究員

篠原 拓也 (しのはら たくや)

研究・専門分野
保険商品・計理、共済計理人・コンサルティング業務

経歴
  • 【職歴】
     1992年 日本生命保険相互会社入社
     2014年 ニッセイ基礎研究所へ

    【加入団体等】
     ・日本アクチュアリー会 正会員

(2021年06月10日「研究員の眼」)

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