2021年06月10日

Covid-19における外出抑制~人々の自発的な抑制と飲食店への営業自粛要請~

大阪経済大学経済学部教授 小巻 泰之

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3――外出抑制に関する先行研究

1需要者による自発的な外出抑制
日本では一部の国で実施された「ロックダウン」のような強制的な外出抑制策ではなく、人々の自発的な外出抑制に依存した対策となっている。Hosono(2021)は、水野(2020)のデータ7を用いて、人々は新規感染者の増加を感染リスクの拡大と捉えて分析し、新規感染者数の増加により人々は外出を自粛していると指摘している。ただし、Hosono(2021)での推計結果をみると、新規感染者数に関するパラメーターは第1波以降大きく低下していることが確認できる。

水野・大西・渡辺(2020)は、日本全国で自粛率の地域格差が非常に大きいことと指摘している。政府の自粛要請は地域によらず一律であり、既に積極的な自粛を実行している地域の住民にとっては過剰な要請になる一方、自粛の足りていない地域の住民に対しては過小な要請となっている可能性があることから、地域の実情を考慮した対策が必要であると指摘している。

小巻(2020a)は、自発的な外出抑制に影響した情報として、第1波では自地域の新規感染者数の状況が影響しているとしている。また、他地域の新規感染者数の動向では最も早くNPIを実施(2020年2月28日)した北海道の影響が大きく、感染症に関するニュースでは、有名人の死亡ニュースの影響も確認できるが、緊急事態宣言発出の効果が大きいとしている。

こうした自発的な外出抑制の背景には、心理的な影響があると指摘する研究がある。Katafuchi, Kurita, and Managi(2020)は、地域毎のモビリティデータをもとに推定したところ、緊急事態宣言の下では強い心理的コストを伴うため、人々は外出を控えると指摘している。緊急事態の下で外出は、感染のリスクと外出の汚名の両方から生じる心理的コストに苦しんでいることがあるとしている8。この点について、Yamamoto(2020)は感染症の拡大が著しい地域でのサーベイ調査から、緊急事態宣言による自発的な自制行動が心理的苦痛を引き起こしていると指摘している。
 
7 水野(2020)のデータは、本論で使用している主要駅での滞在人口データではなく、各地域の住宅地における自宅周辺滞在のデータを作成し、公表されている。
8 地域住民へのサーベイは行っていないが、青森県弘前市では2020年10月12日に域内で初めての感染者が確認され、その後飲食店などでクラスターが発生したことから、10月20日~10月31日まですべての飲食店について休業要請をおこなった。その結果、域内における外出率が急速に減少し、新規感染者数も減少した。住民のCovid-19への懸念が共有されていた例といえるのではなかろうか。
2|供給面への制約による外出抑制効果
日本でのNPIの効果については、第1波では休業要請の期間が長いほど、その効果が高いとしている(小巻[2020]a)。また、第3波前半では、飲食店への時短要請の効果で、その内容により外出抑制効果に差異があったとしている。広島市については、東京圏で外出率が減少せず、大阪市や札幌市で2020年末にかけて外出率の減少が鈍化する中で、外出抑制効果を保ち続けた。広島市の時短要請のみが酒類提供時間に制限を設けた要請となっていたが、他地域は営業時間のみの短縮要請であったことが影響している可能性がある(小巻[2021])。

他方で、Hunter, el al(2020)は、英、独、仏など欧州30カ国を対象に、Social Distancingに基づく施策が新型コロナウイルス感染症の感染者数や死亡者数の減少にもたらす効果について分析したところ、休校や大規模集会の禁止、一部のサービス業の営業停止は感染拡大の抑制に効果があったものの、外出禁止や生活必需品を扱う店舗以外の営業停止は感染者数や死亡者数の抑制に顕著な効果が認められなかったと指摘している。

需要面及び供給面での外出抑制効果は、それぞれが影響して単独での影響ではない。しかしながら、同様な対策を講じたとしても地域により外出状況が異なってきたのは、第3波前半以降と確認できる。そこで、以下では地域毎の対策内容の違いを考慮したパネル分析をおこない、需給両面の効果を検証する。
 

4――外出抑制効果の検証

4――外出抑制効果の検証

ここでは、需要者の自発的な自粛行動と、飲食店での休業要請あるいは時短要請という供給面での制約が人々の自粛行動に与えた効果について定量的に確認する。

1|データ
1.1|外出率データ
ここでは株式会社Agoopの流動人口データにおける主要駅での時間帯別の滞在人口を用いる。各時間帯別の滞在人口の変化率を外出率として用いる。外出率については平日及び休日(土曜・日曜・祝祭日)別に、2020年1月18日から2020年2月14日までのCovid-19の感染が広がる以前の滞在人口の平均値を基準として日々の外出率を算出している。

また、大都市圏の場合、複数の地域についてのデータが利用可能である。たとえば、東京都の場合15駅のデータが利用可能であるため、それぞれの駅の外出率を算出した上で、15駅の外出率の単純平均値を東京都の外出率としている。

その上で、分析には7日間の後方移動平均値を用いている。これは平日及び休日により外出率が異なること、また同じ休日であってもその並び方(連休か飛び石連休かなど)により外出率は異なる。さらに、日々の外出率は振れが大きいことから、趨勢としての外出率を用いている。なお、Agoopの流動人口データでは愛媛県のデータが公表されていないことから、以下の分析では46都道府県のデータを用いている。

1.2|新規感染者数
新規感染者数については、日次ベースの新規感染者数の公表値(厚生労働省)を用いている。ただし、このデータでは、実際に感染症が発症したのか、検査における陽性者の数値であるかは区分できない。マスメディアでは新規感染者数の実数が日々のニュースで伝えられることが多く、どうしても、実数の大きさから東京都や大阪府等の人口集中地域の状況が中心に伝えられる。しかし、各地域の感染者数の重要度を確認するには、各地域の人口数でみて10万人当たりの新規感染者数で検討する必要がある。ここでは、人口10万人当たりの感染者数を用いている。人口10万人当たりの感染者数については、過去7日間の移動平均値をもとに各日の感染者数を算出している。
2推計
2.1推計区分
推計にあたっては、人口密度及び飲食店への営業要請の実施有無や要請内容に応じて、図表3のように区分しておこなっている。飲食店への要請状況は、感染症の時期により大きく異なっていることがわかる。特に、飲食店への要請はすべての地域で実施されているわけではない。このように、地域間で対策が異なっていることから、すべての地域を一括して推計するだけでは、外出率の抑制効果の状況が明確とならない可能性がある。
推計区分
2.2モデル
(1)需要者の自発的な外出率の抑制効果
Covid-19の先行きの感染状況が予測し得ないものとして、Covid-19の不確実性が、需要者の経済行動に影響を与えていると考え、以下の式(1)をもとに推計する9
推計モデル1
ただし、cは地域、は期間、infは人口10万人当たりの新規感染者数、λcは固定価格効果要因、Xは感染症以外の外出率へ影響を与える変数として各地域の政策状況違い区分する形で推計している。
 
9 推計モデルは細野(2021)と異なり、NPIにかかる変数は入れていない。また、推計に用いる変数は7日間後方移動平均値を用いており、曜日ダミーを用いていない。
(2)飲食店の営業自粛の外出率への抑制効果
アメリカでの1918年のスペイン風邪を巡るNPIの効果については、Hatchett et al. (2007) やMarkel et al. (2007)では、NPIの実施期間の長さをもとに、その効果を分析している。ここでは、Markel et al. (2007)でのモデルを参考に飲食店への休業要請および時短要請が実施されている期間を「1」とするダミー変数をもとに、その効果を検証する。
推計モデル2
ただし、 cは地域、は期間、NPIは飲食店への営業自粛要請期間を1とするダミー変数、λcは固定価格効果要因、XはNPIの実施期間以外の外出率への影響を与える変数として、各地域の実施期間の長短、飲食店への要請で例外規定及び、飲食店以外への施設への休業・時短要請の有無により区分した分析をおこなっている。
 

5――外出抑制効果の分析結果

5――外出抑制効果の分析結果

ここでは自発的な外出抑制(図表4~5)及び、飲食店への営業自粛要請(図表6~7)の外出抑制に関する推計結果を確認する。感染の波ごとを比較する目的から、外出率への影響を示すパラメーターのみの記載である。数値は被説明変数(外出率)が%表示の数値であるため、パラメーターも%表示としている。

1第1波(2020年2月1日~5月31日)
(1)自発的な外出抑制の効果
15時台の状況をみると、新規感染者数の増加により-4.39%の外出率の抑制につながっていることが確認できる(図表4、1行目)。特に、大都市圏を含む地域は-5.82%、それ以外の地域は-3.41%と大都市圏を含む地域の方が外出率抑制効果は強い。特に、飲食店への休業要請・営業要請の対象時間帯(19時台以降)になると、-6%前後と外出抑制効果が高まっている。

緊急事態措置の実施の有無でみると、緊急事態措置が実施された地域では15時台から-4.43%と実施されなかった地域が-1.48%と比較して外出抑制効果は高い。外出抑制効果はその後も持続し19時台以降-6%前後の外出抑制効果が確認できる(図表5、1行目)。当時は、食事提供施設の営業は20時まで(酒類提供は19時まで)と要請されていた。

また、飲食店以外の各種施設についても休業・時短などの措置が採用されており、第1波で外出抑制の効果が大きなものとなったとみられる。
 
(2)飲食店の営業自粛の効果
第1波の場合は、一部の地域を除き概ね緊急事態宣言が採用されていることから、営業要請の効果は人々の自発的な抑制効果と同様の傾向が確認できる。15時台の-26.64%から、飲食店への要請が始める19時台30.43%へと外出抑制効果がたかまっている。特に、大都市圏を含む地域では40%に近い減少となっており、それ以外の地域より概ね10%以上外出抑制効果が大きくなっている(図表6、1行目)。

要請内容の強弱の比較では、要請期間が40日以上と長い地域の場合には19時台以降30%を超える抑制効果があり,要請期間が40日未満の地域より5%~7%程度高い(図表7、1行目)。
2第2波(2020年7月1日~930日)
(1)自発的な外出抑制の効果
第2波については第1波時とは異なり、飲食店以外への営業要請を行っていないことから、自発的な外出率抑制効果は全地域でみて-0.59%と第1波時の1/8程度となっている(図表4、2行目)。19時台以降には小幅ながら減少幅が拡大している。特に、第1波と同様に、大都市圏を含む地域の方では19時台以降1%程度の抑制効果があり,それ以外の地域より0.3%程度高い。

しかし、酒類提供制限(19時以降)や時短要請(20時以降、東京都のみ22時以降)実施の有無については、要請ありの地域の場合-0.54%~-0.66%であるのに対して、要請なしの地域は-0.71~-1.18%と、効果が高い(図表5、2行目)。このことから、自発的な外出抑制効果は飲食店への営業時間の自粛要請がなくとも確認できる状況にあった。
 
(2)飲食店の営業自粛の効果
飲食店への営業要請の効果は、全地域でみると15時台で第1波の-26.64%から-6.61%へ1/4程度低下している(図表6、2行目)。19時台以降についても、-7.82%~-8.67%と第1波時より大きく低下している。

実際に要請を行った地域について、ガイドライン遵守の飲食店を対象外とするのか、全ての飲食店を対象とするかでは、全ての飲食店を対象とする方が-7.32%~-9.27%と,ガイドライン遵守の飲食店を対象外とする要請を行った地域(-5.13%~-7.40%)より外出抑制効果は高い(図表7、2行目)。この背景には、ガイドライン遵守の飲食店を対象外とする例外がある場合には、営業をしている飲食店があると、外出する誘因が生じ、抑制効果が低下するのではないかと考えられる。
3第3波前半(202010月1日~1227日)
(1)自発的な外出抑制の効果
第2波より新規感染者が大幅に増加しているにも関わらず、15時台の推計結果は有意ではなく、新規感染者数の増加が外出抑制に影響していない(図表4、3行目)。19時台以降は-0.28%~-0.48%と第2波の半分程度となっている。特に、大都市圏を含む地域での外出抑制効果はゼロ近傍から-0.29%と第2波の1/10程度まで低下している。しかし、それ以外の地域は第2波の時と概ね同程度の外出抑制効果が確認できる。

飲食店への要請有無でみれば、要請あり地域では第2波よりやや効果低下しているものも、-0.39%~-0.59%の抑制効果が確認できる。しかし、要請なし地域では19時台や20時台では有意ではなく、それ以外の時間帯も効果が大きく低下しており、飲食店への営業自粛要請が人々の自発的な外出抑制効果に影響していることがわかる(図表5、3行目)。
 
(2)飲食店の営業自粛の効果
15時台の外出抑制効果は有意ではない。飲食店への営業自粛要請の対象時間となる19時台以降でみれば、それ以外の地域では-8.84%~-11.00%と第2波を上回る効果が確認できる(図表6、3行目)。大都市圏を含む地域でも外出抑制効果は確認できるものの、第2波より効果は低下し、-2.18%~-6.09%程度にとどまっている。

飲食店への要請の強弱(ここでは要請期間が20日以上もしくは20日未満)でみれば、要請期間の長さが外出抑制の効果に影響しているわけではない(図表7、3行目)。逆に、要請期間が20日未満の地域での外出抑制効果が強い。

(2021年06月10日「基礎研レポート」)

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