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- Covid-19における外出抑制~人々の自発的な抑制と飲食店への営業自粛要請~
1――はじめに
感染拡大抑制の対策として中心となっているのが、飲食店1への休業要請・営業時間の短縮要請(以下、時短要請)である。第3波前半(2020年10月1日~12月27日)以降からは、飲食店への時短要請が中心とされている。つまり、供給を制約することにより、人々の外出抑制を期待するものである。他方、新規感染者数の動向を受けて、外出を自らの意思で抑制する動きも確認できる(小巻(2020a)、Hosono(2021)など)。これは需要者自身の自発的なものである。Hosono(2021)はこれらを「自発的ロックダウン」と呼び、この効果を考慮することが感染動向と経済への影響を検討する上で重要と指摘している。このように外出抑制効果では、飲食店が営業時間に関する自粛をおこなう効果と、人々が自発的に外出を控えようとする効果を検討する必要がある。
本論では、2020年2月1日から2021年5月7日までの4つの感染の波における外出の抑制効果の大きさについて実証的に検証することが本論の目的である。本論で検討するにあたり考慮すべきことは2点である。
第1に、これまでの地域別の対応について整理した上で、状況別に地域区分をおこなう。特に、感染の波ごとに地域間での感染状況が大きく異なっている。図表1は4つの波における47都道府県の人口10万人当たりの新規感染者状況について平均と標準偏差を示したものである。第1波では感染者数が少ないものの地域間での違いは大きくなかった。その後、感染者数の増加とともに標準偏差も大きくなっており、地域間での感染状況が大きく異なっていることを示している。このため、地域の対策をみると、実施期間、実施内容は全ての地域で異なっており、一律なものではない。ここでは地域毎の飲食店への要請内容から、類似した地域に区分して検討する。
1 飲食店の範囲については法律で対象となる範囲で食事提供施設と遊興施設に分類されるものがある。本論では酒類提供もおこなう食提供施設及び、遊興移設に分類されるキャバレーやナイトクラブ等も含む形で用いている。
2――新規感染者とNPIの推移
人口10万人当たりの新規感染者数(人口10万人当たりの感染者数)の推移をみると、4つの波が確認できる(図表2)。これをみると、感染者の波が次第に大きくなっているだけでなく、各地域の感染状況の標準偏差でみると、標準偏差もかなり大きくなっていることが確認できる。こうした地域間における感染状況の違いが外出率にも影響を与えている可能性がある。また、感染症への対策は2.2節でみるように地域間での異なった対応をとるようになってきたと考える。
本論では、第1波を2020年2月1日~5月31日、第2波を2020年7月1日~9月30日としている。また、第3波については途中に年末年始を挟みかつ2021年1月7日に第2回目の緊急事態宣言が発出されたことから、前半(2020年10月1日~12月27日)、後半(2021年1月7日~2021年3月31日)に区分している。第4波前半は2021年4月1日から5月7日としている。
2.1|第1波(2020年2月1日~5月31日)
2020年2月以降の感染拡大で国は、マスク着用、手洗いやうがい等の啓もう活動、学校休業及び外出自粛(人と人との接触機会を「最低7割、極力8割削減」)を促し、4月7日には埼玉県、千葉県、東京都、神奈川県、大阪府、兵庫県及び福岡県の7都府県に5月6日まで緊急事態宣言を発出した。その後、4月16日に全都道府県に範囲が拡大された。この宣言に合わせて、各都道府県は緊急事態措置として、(1)外出の自粛要請、(2)イベント開催の自粛要請、(3)施設の使用制限の要請などが実施された。特に、施設の使用制限では、社会生活を維持する上で必要な施設を除き、遊興施設、劇場、運動施設、生活必需物資の小売関係等以外の店舗及び、各都道府県は保有する施設について、休業要請がおこなわれた。また、飲食店についてはキャバレー等の接待を伴う飲食店(遊興移設に区分)に対して休業要請、食事提供施設については概ね5時から20時までの時短要請及び、酒類提供は19時までとの要請がおこなわれた。このように第1波では多くの施設が何らかの要請を受けた。
その後、5月4日には緊急事態宣言が5月31日まで延長され、各都道府県での措置についても延長された。しかし、新規感染者の状況は地域により異なり、全国への緊急事態宣言は5月14日に多くの地域で解除され、北海道及び大都市圏を含む7地域に範囲は縮小された。その後も対象地域が縮小される中で、5月25日には緊急事態宣言は解除された。
ただし、各都道府県の緊急事態措置は、自地域の新規感染者数などの感染状況に応じて柔軟に対応されている。鳥取県や徳島県など5県では飲食店への営業自粛要請が実施されていない。また、実施期間は地域により大きく異なる。緊急事態宣言に合わせて緊急事態措置を採用している地域が多いが、青森県や香川県など5県では緊急事態宣言から1週間程度後に飲食店へ要請をおこない、5月の連休明けに解除する地域がある。他方、1都3県などでは緊急事態宣言が解除された後も、6月中旬頃まで措置を継続した。このような対応の違いは外出率の減少幅の格差として確認できる(小巻[2020a])。
第2波では飲食店への営業自粛要請は,11都府県2と一部の地域のみで実施された。6月中下旬以降から、沖縄県を中心に一部の地域で新規感染者数が増加に転じ、それに対応して飲食店への時短要請が実施されている。それ以外の36道府県は不要不急の外出自粛などの注意喚起やマスク着用などの感染防止などの啓もうは行っているものの、飲食店への営業自粛要請などの供給面に制約を加える対策はほとんど実施されていない。
第2波での時短要請は、地域全体から特定地域を指定する要請がほとんどで、時短要請の場合には宮崎県を除き酒類提供の時間制限は設定されていない。休業要請の場合にはガイドライン遵守の店舗は対象外とする地域が一部でみられなど、第1波より緩和された要請となっている。
地域別には、カラオケ店や接待を伴う飲食店への休業要請は福井県、福岡県、宮崎県、鹿児島県及び沖縄県の4県で実施されている。しかし、埼玉県、千葉県、山梨県、大阪府では感染症防止のガイドラインに準拠していない接待を伴う飲食店に対してのみ休業要請をおこなっている。大阪府はガイドライン遵守店舗については酒類提供の制限なしの時短営業のみの要請を行っている。東京都は酒類の提供をおこなう飲食店及びカラオケ店への時短要請のみで、しかも5時から22時までの営業にとどめる要請で、第1波よりも緩和された内容となっている。
2 埼玉県、千葉県、東京都、福井県、山梨県、愛知県、大阪府、福岡県、宮崎県、鹿児島県及び沖縄県の11都府県.神奈川県、京都府、兵庫県は未実施である。なお、山梨県では、接待を伴う飲食店への休業要請を2020年4月20日から2021年2月12日まで実施していた。
第3波の前半期は飲食店への営業自粛要請で実施(21地域),未実施(26地域)と大きく対応が分かれた3。大都市圏を含む地域では兵庫県と福岡県は2021年1月まで飲食店への要請は実施していない。要請を実施した地域では、新規感染者数の増加時期が異なっていることから、ばらばらとなっている。この時期では青森県弘前市が最も早く、2020年10月20日から10月31日まですべての飲食店を対象とする休業要請をおこなった。北海道は11月7日から地区限定型で飲食店の酒類別に休業要請と時短要請を交え対応をおこない,山梨県では接待を伴う飲食店,個別に要件みたせば解除する方法で休業要請が継続している。
それ以外の地域は時短要請をおこない、多くの地域で22時(ただし,愛知県、京都府、大阪府は21時,広島県20時)までと第2波の20時より営業時間が長く、酒類提供の制限は広島市のみで実施されている。このように第2波に続き、第3波前半は地域により対応が大きく異なっている。地区限定型で飲食店の形態別に休業要請と時短要請を交えた対応をおこなっている。時短要請では、広島市は2020年12月17日から5時から20時までの時短要請に加え、酒類提供は19時までと、当時の要請では最も厳しい内容となっている。
また、各地域とも「不要不急の外出自粛」は要請しているが、劇場やパチンコ店等の遊戯施設へ要請はされず(一部の地域は協力依頼と弱めの要請をおこなっている)、図書館等の公共施設を閉鎖する自治体も多くない。
3 2020年12月末までに飲食店への営業自粛要請をおこなっていない地域は、岩手県、秋田県、山形県、栃木県、新潟県、富山県、石川県、福井県、三重県、滋賀県、兵庫県、奈良県、和歌山県、鳥取県、島根県、岡山県、山口県、徳島県、香川県、愛媛県、福岡県、佐賀県、長崎県、大分県、宮崎県及び鹿児島県の26県と過半を超えている。
第3波後半は、法律にしたがった緊急事態措置を実施する地域(11地域)、県独自に営業自粛要請をおこなう地域(13地域4)及び、未実施の地域(23地域)と3つの対応に分かれた。
年末年始にかけて東京都など首都圏での新規感染者数の大幅増加を受けて、政府は2021年1月7日に2度目の緊急事態宣言を発出し、1月8日から2月7日まで埼玉県、千葉県、東京都及び神奈川県の1都3県を対象地域とした。1月13日にはその対象範囲を、栃木県、岐阜県、愛知県、京都府、大阪府、兵庫県及び福岡県の2府5県に拡大し、11地域が対象となった。その後も、大都市圏を含む地域での感染状況が改善しないことから、栃木県を除く10地域について3月7日まで延長することとなった。しかし、感染状況の改善には地域差がみられ、3月1日には首都圏の1都3県を除き緊急事態宣言は解除され、首都圏(1都3県)の期間は3月21日まで延長され、その期日をもってすべての緊急事態宣言は解除された。
ただし、各地域で実施された緊急事態措置は2020年4月の時と比較すると、大きく軽減された内容となっている。飲食店への営業自粛要請では、山梨県を除き、休業要請ではなく時短要請と酒類提供時間の制限となっている。また、飲食店以外の他の商業施設などへの要請についても時短要請が中心となっている。東京都を例にみれば、大規模(1000平米超)な劇場や運動施設なども時短営業が要請され、イベントについては上限人数制限が実施されるなど、かなり軽減された内容となっている。
4 北海道,宮城県、福島県、茨城県、群馬県、長野県、岐阜県、広島県、愛媛県、高知県(1月11日まで)、熊本県、宮崎県、沖縄県では、独自に時短要請をおこなっている。
第4波前半は、第3波後半から引き続き営業自粛要請を行う地域、5月の連休中に要請をおこなった地域(9地域)及び,未実施の地域(12地域)に分かれる。
2021年3月21日に緊急事態宣言が解除された。その後も要請内容は緩和されたものの、宮城県、埼玉県、千葉県、東京都、神奈川県、愛知県、大阪府及び兵庫県の8都府県では飲食店への時短要請が継続されている。しかし、大阪府など関西圏でのCovid-19(変異株)への置き換えとともに、新規感染者数が急増し、4月1日には緊急事態宣言の前段階となる「まん延防止等重点措置5」が宮城県、大阪府及び兵庫県に発出された。その後,4月9日に京都府、沖縄県に拡大、4月16日に東京都、埼玉県、千葉県、神奈川県、愛知県に拡大された。しかし、大阪府などでは感染拡大ペースが鈍化しなかったことから,4月23日には東京都、京都府、大阪府及び兵庫県に対して3度目の緊急事態宣言6を発出し、まん延防止等重点措置の地域として愛媛県が追加された。さらに、新規感染者数の増加ペースが鈍化せず、Covid-19(変異株)が周辺地域へ広がりをみせ、いくつかの地域で最多となる新規感染者を確認することとなった。このため,5月7日以降,緊急事態宣言及びまん延防止等重点措置の適用区域を拡大し、期間を延長する形で新規感染者の抑制に努めている。
第4波前半は、飲食店への営業要請で、(1)酒類提供をおこなう飲食店に対しては休業要請、(2)酒類を提供しない飲食店には時短要請をおこない、飲食店への営業自粛要請がかなり厳しくなっている。
飲食店以外の施設については、地域により対応が分かれている。青森県など28地域は特段の要請はない。それ以外の地域では当初は休業要請が中心であったが、その後時短要請への緩和した地域、当初から時短要請のみとしている地域がある。この結果、隣接する地域間でみれば対応が異なるような状況にある。たとえば、首都圏では東京都のみ休業要請中心の対策であるものの、埼玉県、千葉県、神奈川県では時短要請にとどまっている。この中で、青森県など9県は第1波以来の飲食店への営業自粛要請に踏み切り、また、岡山県、徳島県はこれまでで初めての要請をおこなっている。他方で、岩手県など12県では飲食店への営業自粛の要請をおこなっていない。
5 まん延防止等重点措置の実施期間は宮城県、大阪府及び兵庫県は4月5日から5月5日まで。京都府、沖縄県は4月12日から5月5日まで。東京都は4月12日から5月11日まで。埼玉県、千葉県、神奈川県及び愛知県は4月20日から5月11日まで.愛媛県は4月25日から5月11日まで。なお,4月23日に宮城県,埼玉県、千葉県、神奈川県,愛知県及び沖縄県は5月11日まで延長された。
6 3度目の緊急事態宣言の実施期間は4月25日から5月11日まで。その後、実施期間は延長されている。
(2021年06月10日「基礎研レポート」)
大阪経済大学経済学部教授
小巻 泰之
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