2021年06月08日

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1―はじめに

経営者は、ウィズコロナ期にある今、平時を取り戻せるアフターコロナの時代を見据えて、従業員の働き方と働く場の在り方をどう考えるべきだろうか。

筆者は従来から、「メインオフィス(本社など本拠となるオフィス)」と「働く環境の多様な選択の自由」の重要性を主張してきたが、コロナ禍を経てもその重要性は全く変わらない、と考えている。この「2つの重要性」は、コロナ後を見据えた企業経営のニューノーマル(新常態)においても、変えてはいけない「原理原則」であり続ける、と考えたい

2―コロナ禍で導入された在宅勤務

コロナ禍の中で多くの企業で導入された在宅勤務でのテレワークは、緊急時のBCP(事業継続計画)対策であって、従業員が時間・場所にとらわれない多様で柔軟な働き方を個々の事情に応じて自らで選択できるようにする「働き方改革」とは全く次元が異なるものである。

在宅勤務の生産性は、自宅の環境要因によって従業員間で大きな格差が生じかねず、企業は在宅勤務を平時に本格導入するなら、生産性格差是正のために従業員に環境整備(例:オフィス家具やIT関連機器の購入、ワークスペース設置のためのリノベーションの実施など)の金銭的サポートを行うべきだ。

テレワークの場の選択肢をホームワーク一辺倒ではなく、従業員の居住地近隣のサテライトオフィスへ拡大することも一法だ。

3―人間社会の本来の在り方

コロナ後の人間社会の在り方を考える上で、山極壽一京都大学前総長とドイツのアンゲラ・メルケル首相の考え方に学ぶべき点が多い。両者に共通した考え方は、「コロナ後においては、人間同士のつながり・信頼関係を形成するために欠かせない、かけがえのない移動・接触の自由を安易に放棄してはならない」ということだろう。

コロナ禍により、人間は実世界(フィジカル空間)での活動が大きく制限され、テレワークやオンライン会議、遠隔授業、ネットショッピングなど仮想(サイバー)空間に追いやられた。しかし、実世界での人間同士のつながり・信頼感・人的ネットワークの形成は、仮想空間では代替できない。

インターネットや人工知能など仮想空間でのテクノロジーも上手に使いながら、コロナ禍で制限されていた実世界での創造的活動を取り戻すことこそが、コロナ後の在り方ではないだろうか。人間社会の本来の在り方である、リアルな場で共鳴・協働することを放棄すべきではない。

4―変えてはいけない原理原則

1|メインオフィスの重要性
イノベーション創出の起点や経営理念・企業文化の象徴と位置付けられるメインオフィスの機能は、テレワークでは代替できず、主として大都市圏に立地する「メインオフィスの重要性」は今後も変わらない。逆にメインオフィスで醸成される従業員間の信頼感は、テレワークの円滑な運用に欠かせない。

筆者がコロナ禍の中で昨年いち早く打ち出した「コロナ前後でオフィスの重要性は何ら変わらない」との主張を裏付けるように、オフィス戦略の先進事例である米アマゾン・ドット・コムと同グーグルが、コロナ禍の中で、あえて米国内でのオフィス増床を続行するとの力強い表明を揃って行った。

グーグルのCEO(最高経営責任者)サンダー・ピチャイ氏は、「社員間でコラボレーションしコミュニティを構築するために直接集まることは、グーグルの文化の中核であり、今後も我々の将来の重要な部分となるだろう。だから我々は、全米にわたってオフィスへの大規模な投資を引続き行う」と述べている。同社では、社内にコミュニティを形成しイノベーションを創出するための場としてのオフィスの重要性が企業文化として根付いているため、コロナ禍の中でも必要不可欠な投資としてオフィスの大幅な拡張を躊躇なく続行できているのであり、ピチャイ氏のブレない考え方に筆者は強く共感する。

両社ともに、米国全土でオフィス増床を行う計画だが、広範なオフィス分散化により、BCPの強化や全米の多様なコミュニティでの雇用増・投資増を通じた地域活性化・地域貢献などを果そうとしているとみられる。シリコンバレーやシアトルでは、一極集中による集積の不経済が一部で現れ始める一方で、ニューヨークには、ハイテク企業が近年相次いで進出し、両社もオフィス拡張に積極的に動いていることから、世界有数のメガシティであるニューヨークでは、集積の経済(メリット)が依然として働いているとみられる。

メインオフィスの重要性を熟知し実践してきた米国の先進的なハイテク企業では、コロナ禍が終息し従業員の安全確保が確認されれば、コロナ対応として速やかに発動したBCP(在宅勤務体制への移行など)を直ちに解除し、メインオフィスでの業務を全面的に再開するのが基本形であろう。すなわち、不動産を重要な経営資源に位置付けるCRE(企業不動産)戦略の下でのオフィス戦略を組織的に実践できている先進企業であれば、コロナ後には平時の体制に戻すのであって、最先端のワークスタイルやワークプレイスを活用したこれまでの戦略に大きな変更は生じないはずだからだ。

一方、多くの日本企業では、これまでメインオフィスをイノベーション創出や企業文化体現の場として十分に活かし切れていなかった、と言わざるを得ない。多くの日本企業の在り方としては、導入・実践が遅れている大本のCRE戦略をしっかりと取り入れた上で、それに基づく創造的なオフィス戦略を新たに構築することが急務だ。

メインオフィスの役割・在り方は、再定義するまでもなく、米国の先進企業がこれまで実践してきたように、コロナ前から既に明確になっている。日本企業が今やるべきことは、オフィスの再定義ではなく、米国の先進企業が実践してきた「オフィス戦略の定石」を一刻も早く取り入れることだ。
2|働く環境の多様な選択の自由
従業員にその時々のニーズに応じて「働く環境の多様な選択の自由」を与えることは、働き方改革の本質であり、原理原則として実践すべきだ。

そのためにはメインオフィス内にも、従業員同士の交流を促すオープンな環境や集中できる静かな環境など多様なスペースの設置が求められる。平時での在宅勤務は、経営側からの指示ではなく、従業員が働き方の選択肢の1つとしていつでも自由に選択できるようにすべきだ。さらにワーケーションを含めたサテライトオフィスやコワーキングスペースなどのサードプレイスオフィスを選択肢に加えることも一法だ。

5―組織スラックを備えた経営を

1|短期志向から中長期志向の経営へ
働く環境の多様化とBCP対策の強化を進めるには、メインオフィスを働く場の中核に据えつつも、拠点配置の分散化・二重化が欠かせない。

コロナ禍を契機に、日本企業は短期的な収益や効率性にとらわれがちだった視点を改め、中長期のイノベーション創出やサステナビリティ(持続可能性)確保のために短期的には効率が低下しても、経営資源をぎりぎり必要な分しか持たない「リーン型」の経営ではなく、経営資源にある程度の余裕、いわゆる「組織スラック」を備えた経営を実践しなければならない。

多くの日本企業は、経営の短期志向と決別できるかが問われている。
2|利用率が下がったオフィススペースは組織スラックと捉えるべき
コロナ禍の下で在宅勤務比率の急上昇に伴いメインオフィスの利用率が大幅に低下した結果、一時的に発生している空きスペースは、ソーシャルディスタンシング(社会的距離の確保)のために有効活用できる組織スラックと捉え、経営者はコロナ後を見据えて胆力を持って耐えしのぐことが望まれる。

短期的なコスト削減のために安易にオフィススペースを削減したり手放したりするべきではない。コロナ後に多くの従業員がオフィスワークを希望する日が増えてきたり、事業が拡大することなどに伴い、より多くのオフィススペースが必要になっても、ウィズコロナ期の低いオフィス利用率に合わせたスペースに固定化するために、売却や賃貸借契約の解約をした後では取り返しがつかないからだ。
3|在宅と出社の厳格な切り分けは要注意
「オフィスワークとテレワークの最適なバランス(ベストミックス)を見つけるべき」との考え方には留意が必要だ。両者を厳格に切り分けてしまうと、イノベーションの源となる異なる部門の従業員などとの偶発的な出会いやインフォーマルなコミュニケーションといったセレンディピティ(思いがけない発見)=組織スラックの要素が削ぎ落とされかねない。良い意味での「曖昧さ」を残しておくべきだ。

両者のベストミックスは、本来従業員が個々のニーズに合わせて自由に選択する結果決まってくるべきものであって、経営側が具体数値を予めルール化して従業員に強いるものでは決してない。企業はガイダンスや推奨値(例えば、週3日以上の出社を推奨)を示して、組織スラック型の緩やかな運用を心掛けるべきだ。
 

※ 詳しくは、基礎研レポート「アフターコロナを見据えた 働き方とオフィス戦略の在り方(前編)」(2021年3月 30日)を参照されたい。
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社会研究部   上席研究員

百嶋 徹 (ひゃくしま とおる)

研究・専門分野
企業経営、産業競争力、産業政策、イノベーション、企業不動産(CRE)、AI・IOT、スマートシティ、CSR・ESG経営

(2021年06月08日「基礎研マンスリー」)

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【アフターコロナを見据えた働き方とオフィス戦略の在り方-メインオフィスと働く環境の選択の自由の重要性を「原理原則」に】【シンクタンク】ニッセイ基礎研究所は、保険・年金・社会保障、経済・金融・不動産、暮らし・高齢社会、経営・ビジネスなどの各専門領域の研究員を抱え、様々な情報提供を行っています。

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