2021年06月04日

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3-2. オフィスビルの新規供給見通し
日本不動産研究所「全国オフィスビル調査(2020年1月時点)」によれば、福岡市は、新耐震基準以前(1981年以前)に竣工したオフィスビルの割合が40%と、主要都市の中で最も高い(図表-17)。そこで、これら築40年以上が経過したオフィスビルの建て替えを促す目的で、天神地区では「天神ビックバン」プロジェクト、博多駅前では「博多コネティッドボーナス」が進行中である。
図表-17 新耐震基準以前(1981年以前)に竣工したオフィスビルが占める割合
(1) 「天神ビックバン」プロジェクト
天神地区5では、容積率や航空法の高さ制限の緩和等により再開発を誘導する「天神ビックバン」プロジェクトが2015年にスタートした(図表-18)。このプロジェクトでは、延床面積を約44.4万m2から75.7万m2に拡大、雇用数を約4万人から9.7万人に増加させるという数値目標を掲げている。

2021年9月には、「天神ビックバン」プロジェクトの第1号案件となる「天神ビジネスセンター」(延床面積:約6.1万m2)が竣工予定である。翌2022年は、「旧大名小学校跡地」で、25階建て(延床面積:約9.0万m2)の複合ビル(ホテル「リッツ・カールトン」・オフィス棟等)が開業予定である6

2022年以降も、「天神ビックバン」の優遇施策を活用した再開発が複数予定されている。西日本鉄道は、「福岡ビル」跡地の天神一丁目 11 番街区に複合ビル(延床面積:約14.5万m2、オフィスの賃貸可能面積:約4.9万m2)を開発し、2024年に開業予定である7。ヒューリックは「ヒューリック福岡ビル」を、ホテルを核とした大型複合商業ビルに建て替えを行い、2024年末に完成予定である8。また、明治通りと天神西通りが交わる交差点に立つ「天神西通りビジネスセンター」(延床面積:約1万m2)と「住友生命福岡ビル」(延床面積:約1.1万m2)は、2024年末を目処に、一体で再開発を行う予定である9

「天神ビッグバン」プロジェクトは、当初、2024年末までに竣工する物件が対象であったが、新型コロナウィルス感染症対策機能の導入を促す狙いで、期限が2年延長された10。今後も優遇施策を活用した活発な大規模開発が続く見通しである。
図表-18 「天神ビックバン」の主なプロジェクト
 
5 天神交差点から半径約500mのエリア
6 大名プロジェクト特定目的会社 「(仮称)旧大名小学校跡地活用事業「感染症対応シティ」に向けた取り組みを実施」(2021年2月8日)
7 西日本鉄道「「福ビル街区建替プロジェクト」「感染症対応シティ」に向けた安全・安心なビルへ計画変更~国内最高水準の大型複合ビルへ~」(2020年11月12日)
8 西日本新聞 「天神にまた高級ホテル 「ビッグバン」活用次々 大型複合ビル計画、24年末完成」(2019年1月26日)
9 日本経済新聞 「福岡・天神西のビル2棟、建て替え検討 住友生命など」(2020年1月21日)
10 日本経済新聞 「福岡市、「天神ビッグバン」2年延長 コロナ対策条件に」(2020年8月27日)
(2) 「博多コネティッドボーナス」
福岡市は、2019年5月にビルの建替えを促す優遇処置制度「博多コネティッドボーナス11」を公表し、博多駅周辺の再開発を後押ししている。このプロジェクトでは、延床面積が約34.1万m2から約49.8万m2に拡大、雇用数は約3.2万人から約5.1万人に増加するとの経済波及効果を試算している(図表-19)。

博多駅周辺では、2021年2月に「博多深見パークビルディング」(延床面積:約1.3万m2)が竣工した。2022年には、NTT都市開発が、博多駅東一丁目敷地(旧博多スターレーン跡地)において「博多コネティッドボーナス」を活用した開発を計画しており、オフィスを含む複合施設が竣工予定である。

その後も、大規模開発計画が複数予定されている。JR九州、福岡地所、麻生の3社で構成する企業グループは、「福岡東総合庁舎敷地」を活用し、11階建てのオフィスビル(延床面積:約1.9万m2)を建設し、2024年に開業予定である12。また、西日本シティ銀行は福岡地所と共同で、博多駅前の保有ビル(本店本館ビル・本店別館ビル・事務本部ビル)の連鎖的な建て替えを行う。2025年に本店本館ビルの竣工、2028年には本店別館ビル、事務本部ビル跡地の新ビルの竣工を予定している。延床面積は現行の約2.6万m2から2倍以上に拡大する見込みで、一部をテナントに貸し出すとしている 。
図表-19 「博多コネクティッド」の主なプロジェクト
 
11 つながり・広がりが生まれる広場の創出など、賑わいの拡大に寄与したビルの容積率を最大で50%拡大する等の優遇処置。
12 日刊産業新聞 「博多駅東の総合庁舎敷地/オフィスビル建設へ/JR九州など24年めど」(2019年9月3日)
(3) 福岡市の新規供給予定面積
福岡におけるオフィスの新規供給面積は2010年から2019年にかけて、年間10,000坪を上回ることはなく、低水準の新規供給が続いた。2020年は、「九勧承天寺通りビル」や「D-LIFEPLACE呉服町」等が竣工し、新規供給面積は11年ぶりに1万坪を上回った(図表-20)。

今後も、福岡市では、「天神ビックバン」プロジェクトや「博多コネティッドボーナス」を背景に、多くの大規模開発が進行中で、2021年と2022年は、年間20,000坪を超える新規供給が予定されている。
図表-20福岡オフィスビル新規供給見通し
3-3. 賃料見通し
前述の新規供給見通しや経済予測 、オフィスワーカーの見通し等を前提に、2025 年までの福岡のオフィス賃料を予測した(図表-21)。

福岡市では、コロナ禍においても就業者数が増加している。しかし、コロナ禍が「企業の経営環境」や「雇用環境」に与えたダメージは大きく、「在宅勤務」を採り入れた新たな働き方が大企業を中心に定着しつつある。そのため、福岡市のオフィス需要はしばらくの間、力強さに欠けることが予想される。

一方、福岡市では、「天神ビックバン」プロジェクトや「博多コネティッドボーナス」を背景に、多くの大規模開発が進行中である。開発後のオフィスビルストック(延床面積)は、天神地区で約1.7倍、博多駅前地区で約1.5倍に拡大する見込みである。以上を鑑みると、福岡の空室率は当面の間、上昇傾向で推移すると予測する。

福岡のオフィス成約賃料は、空室率の上昇に伴い、下落基調で推移する見通しである。2020 年の賃料を100 とした場合、2021 年は「94」、2025 年は「87」への下落を予測する。ただし、ピーク(2020 年)対比で▲13%下落するものの、2018年の賃料水準「89」と同水準であり、リーマンショック後のような大幅な賃料下落には至らない見通しである。
図表-21福岡のオフィス成約賃料見通し
 
 

(ご注意)本稿記載のデータは各種の情報源から入手・加工したものであり、その正確性と安全性を保証するものではありません。また、本稿は情報提供が目的であり、記載の意見や予測は、いかなる契約の締結や解約を勧誘するものでもありません。
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金融研究部   主任研究員

吉田 資 (よしだ たすく)

研究・専門分野
不動産市場、投資分析

(2021年06月04日「不動産投資レポート」)

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