コラム
2021年06月01日

なぜ韓国の若者は仮想通貨に熱狂するのか?

生活研究部 主任研究員・ヘルスケアリサーチセンター・ジェロントロジー推進室兼任   金 明中

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<文政権の下、不公正と格差が拡大した韓国で、仮想通貨は唯一逆転のチャンスになってしまっているからだ>

韓国では仮想通貨に対する若者の関心が高まる中で、価格の乱高下により被害を受ける者も増加している。仮想通貨とは、国家やその中央銀行によって発行された法定通貨ではなく、ブロックチェーン1という仕組みにより管理される「暗号資産」で、主にインターネット上で電子的な決済手段として広く流通している。
 
最近は、法定通貨との混同を防止するために、「暗号資産」という名称も使われており、仮想通貨の代表的な例として「ビットコイン」や「イーサリアム」などが挙げられる。
 
韓国では2013年4月に「コービット(新韓銀行と提携)」が初めて仮想通貨取引所を設立した後、2014年12月に「ビットサム(NH農協銀行と提携)」と「コインワン(NH農協銀行と提携)」が次々と取引所を設立。仮想通貨の市場規模が急速に拡大した。
 
韓国の代表的な仮想通貨取引所である「ビットサム」は、2017年8月19日の1日の取引高が約2.6兆ウォンに達したと発表した。これは2017年8月18日の韓国証券取引所(KOSDAQ)の1日取引高約2.4兆ウォンを上回る金額である。
 
1 「ブロックチェーン」とは複数の取引を1つのブロックにまとめて記録し、それを鎖のようにつなぐ技術である。すべての取引が公開されるので、不正取引を防止する仕組みとなっている。

2018年に取引所閉鎖を試みるも

さらに、仮想通貨の元祖とも言える「ビットコイン」の2017年12月初めの価格は年始の20倍以上に暴騰した。8万ウォン(約7,800円)を投資して資産が280億ウォン(約27.4兆円)まで増加した人などの成功事例がマスコミから次々に報道され、若者を中心に仮想通貨市場への関心はさらに高まった。
 
韓国のリクルート情報サイト「サラムイン」が2017年12月に会社員941人を対象に実施した調査によると、回答者の31.3%が仮想通貨に投資していると回答した。一人当たりの投資金額は100万ウォン(約9.8万円)未満が44.1%で最も多く、1000万ウォン(約98万円)以上を投資した人も12.9%に達した。尚、一人当たりの平均投資金額は566万ウォン(約55万円)だった。
 
仮想通貨取引の急増を受けて、韓国政府は仮想通貨の不正利用や過剰な投機ブームを防ぐ目的で規制を強化し始めた。2017年12月28日には、実名での取引を義務付ける「仮想通貨取引実名制」や仮想通貨のオンライン広告への規制強化などを柱とする特別対策を実施すると発表した。
 
さらに、2018年1月には当時の朴サンギ法務部長官が仮想通貨取引所の閉鎖に向けた特別法を制定する方針を明らかにした。すると、市場が反応し仮想通貨の価格は急落した。また、朴長官の「取引所閉鎖」という発言に対して、20代や30代が強く反発し、文在寅政権の支持率を下げる原因にもなった。
 
実際、仮想通貨に対する20代と30代を中心とする若者の関心は他の世代より高い。不動産や株式より投資しやすく、デバック(デバックは韓国語で、大儲けという意味)が期待できるからだ。4月21日に野党「国民の党」の権垠希議員が公開した韓国の大手仮想通貨取引所4カ所(ビットサム、アップビット、コインワン、コービット)の投資家内訳を見ると、今年の第1四半期の上記した取引所4カ所の新規加入者は249万5,289人で、このうち20代と30代の割合はそれぞれ32.7%と30.8%で、全体の6割を超えていることが明らかになった。
 
また、就業情報サイト「アルバ天国」が大学生1750人を対象に実施したアンケート調査(5月24日に公開)でも、回答者の半分以上(52.9%)が仮想通貨を肯定的に考えており、回答者の約4分の1(23.6%)は現在仮想通貨に投資していると答えた。
 
同調査によると、若者が仮想通貨への投資を始めた最大の理由は「比較的に小額で投資が可能な点」(25.2%)であり、次いで「多様な投資を経験するため」(16.3%)、「既存の財テク手段より収益率が高い」(15.1%)などの順であった。

投資資金を一転、保護することに

大学生の平均投資金額は141万ウォン(約13.7万円)で、上述した会社員の566万ウォン(約55万円)を大きく下回った。投資金額は、アルバイトからの収入(66.4%)、親からのお小遣(15.7%)、預貯金を解約した資金(11.1%)などから調達されていた。
 
最近では1日の取引高が20兆ウォン(約1.95兆円)を超えるなど、若者を中心に仮想通貨が再び過熱気味な傾向にあり、韓国政府は再び規制強化に動き出している。殷成洙(ウン・ソンス)金融委員長は4月22日、「仮想通貨については税金を賦課する計画である。但し、金融資産としては認めることはできないので政府の保護の対象にはならない。(中略)特定金融情報法が3月に施行されたことにより、今年の9月まで政府に登録した仮想通貨取引所のみ運営が許可されるが、4月22日時点で登録した仮想通貨取引所は1カ所もない。登録をしないと200ぐらいある仮想通貨取引所はすべて閉鎖される可能性がある」と話した。
 
殷委員長の発言を受けて、4月23日に韓国の仮想通貨取引所で取引された「ビットコイン」等の仮想通貨は大きく下落した。また、殷委員長の発言に対して、仮想通貨の投資家の間では、投資家を保護するなどの措置は何もなく、税金だけを賦課しようとしている、との不満の声が出てきた。さらに、殷委員長の自主的な辞任を促す青瓦台国民請願が始まり、5月23日には20万人を超える同意を受けた。
 
若者を中心に不満の声が沸き上がると、殷委員長は5月26日に「9月までに申告を終えた仮想通貨事業者(仮想通貨取引所)を通じて取引する投資家の投資資金は、自然に保護される」と発言の強度を弱めた。これは、仮想通貨の主な投資家である20代や30代の若者を意識したからである。
 
実際、2017年末から2018年初にわたる、仮想通貨に対する規制強化は若者の政権離れの一因となり、今年4月7日のソウルと釜山のダブル市長選での与党の敗北の原因にもなった。与党も野党も、政権離れした20代と30代の若者の支持を取り戻さないと、来年の大統領選挙で勝てないことを十分に理解しているはずだ。
 
しかしながら、若者の心を取り戻すことはそれほど簡単ではない。386世代や既存世代とは違い、彼らの多くは安定的な職に就けておらず、また、生まれつきの不平等の拡大や、文政権の指導部を中心とした公正さの欠如により大きな挫折を経験している。
 
不動産や株式に投資できる経済的余裕がない若者にとって、仮想通貨は「デバック(大儲け)」が実現できる、そして既存世帯との格差を縮める最後のチャンスと考えているのかも知れない。だから、彼らは仮想通貨に対する政府の規制強化を受け入れようとしないのだ。
 
従って、韓国政府は仮想通貨に対する規制を強化するだけではなく、なぜ若者が仮想通貨に熱狂しているのかを十分に把握した上で仮想通貨による被害が拡大しないための対策などを講じる必要がある。また、仮想通貨以外にも世代間の格差が解消できるように多様な機会を提供すべきである2
 
2 本稿は、「なぜ韓国の若者は仮想通貨に熱狂するのか?」ニューズウィーク日本版 2021 年 5 月28日に掲載されたものを加筆・修正したものである。
https://www.newsweekjapan.jp/kim_m/2021/05/post-38_3.php
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生活研究部   主任研究員・ヘルスケアリサーチセンター・ジェロントロジー推進室兼任

金 明中 (きむ みょんじゅん)

研究・専門分野
社会保障論、労働経済学、日・韓社会政策比較分析、韓国経済

(2021年06月01日「研究員の眼」)

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