2021年06月01日

家族計画の変化に見る、新型コロナの少子化への影響(3)-将来持ちたい子の数の減少について-

保険研究部 准主任研究員 岩﨑 敬子

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1―― はじめに

新型コロナ感染症は少子化にどういった影響を与えるのか。本稿では、ニッセイ基礎研究所が実施した独自のWEBアンケート調査1を用いた、コロナ禍での家族計画の変化に関する3つの傾向についての分析(一時的に妊娠を控える傾向、将来的に持ちたい子の数の減少、そして、結婚意欲の高まり)のうち、2つ目として、将来的に持ちたい子の数が減少した人の割合と要因、及び、特徴についての分析結果を紹介する。
 
1 「被用者の働き方と健康に関する調査」、2021年2月-3月に、18歳-64歳の被用者を対象として行われたWEBアンケート調査(n=5,808、うち40歳以下の回答は2,603件。)。調査方法や対象の詳細は、岩﨑敬子, 2021年5月31日, 「家族計画の変化に見る、新型コロナの少子化への影響(1)-イントロダクション-」基礎研レター (https://www.nli-research.co.jp/report/detail/id=67876?site=nli) を参照。
 

2―― 新型コロナによって中期的に…

2―― 新型コロナによって中期的に予想される出生数の減少は約2%

本調査では、一時的にコロナ禍で妊娠を控えたいと思った人は子を持つことを希望している人のうち約2割程度と予想された2。一方、表1の通り、40歳以下の回答者(2,603名)のうち、新型コロナ拡大によって将来的に持ちたい子どもの数が減った人の割合は、約3%であった。一方、新型コロナ拡大によって将来的に持ちたい子の数が増えた人も約2%いた。そのうち、新型コロナ流行前までは子どもを持ちたいと思っていた、もしくは新型コロナ流行前までは、将来的に子どもを持ちたいと思っていていたであろう人の間でみると3、新型コロナ拡大によって将来的に持ちたい子どもの数が減った人の割合は約4%で、将来的に持ちたい子の数が増えた人は約2%であった。このことから、2020年から2021年にかけては、一時的にコロナ禍で妊娠を控えたことによる出生数の大きな減少があるものの、将来的に持ちたい子の数の変化からみれば、中期的なネットでのコロナの影響による出生数の減少は2%程度と予想される。
表1. 新型コロナ感染症の拡大による、将来的に持ちたい子の数の変化(40歳以下、%)
また、将来子を持ちたいと思われる人のうち、持ちたい子が減った人の割合を、男女、婚姻状況、子どもの有無別に見ると、男女共に、既婚で既に子がいる人が、特に、将来持ちたい子の数が減った人の割合が大きいことが分かる。
 
2 岩﨑敬子, 2021年5月31日,「家族計画の変化に見る、新型コロナの少子化への影響(2)-一時的に妊娠を控える傾向について-」基礎研レター (https://www.nli-research.co.jp/report/detail/id=67884?site=nli)
3 新型コロナ流行前の妊娠希望の有無は、本調査では聞いていない。そのため、下記の報告値を使って、コロナ禍の前まで子どもを持ちたいと思っていた、もしくは、コロナ禍の前には将来的に子どもを持ちたいと思っていたと思われる人の割合を推計した。未婚者について:第15回出生動向調査より、未婚者のうちいずれ結婚する人の割合(男性85.7%、女性89.3%)×いずれ結婚する人のうち予定子ども数が0人ではないひとの割合(男性91%、女性93%)。子のいない既婚者について:ベネッセ総合研究所の未妊レポート2013(https://berd.benesse.jp/up_images/research/p1-16.pdf, 2021年5月21日アクセス)より、子のいない既婚者のうちの子どもを持ちたい人の割合(男性67.3、女性56.9%)。子がいる既婚者について:株式会社ベビーカレンダーによる調査の経産婦のコロナ流行前の第2子以降を希望する人の割合である48%(https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000079.000029931.html, 2021年5月21日アクセス)。
 

3―― 将来持ちたい子の数が減った…

3―― 将来持ちたい子の数が減った最も大きな理由は「子育てへの経済的な不安」

40歳以下の回答者で、将来的に持ちたい子どもの数が減った人の間で、その理由の分布を示したのが表2である4。将来的に持ちたい子の数が減った理由として最も多く選択されたのが、「子育てへの経済的な不安」で、新型コロナ拡大の影響で「将来的に持ちたい子の数が減った」と答えた人の45%が選択した。そして、次に多く選択されたのが「ワクチンの親子への影響の不安」で32%であった。 また、男女別に見ると、女性は「ワクチンの親子への影響の不安」と「自分の人生について考えた」人の割合が男性に比べて大きいという特徴がみられる。
表2. 将来的に持ちたい子どもの数が減った理由(40歳以下、%)
 
4 本調査では、1つ目の質問として「新型コロナ感染症の拡大によって、あなたの家族計画(結婚・離婚・出産計画や将来持ちたい子どもの数等)に変化はありましたか。」という質問で、「結婚したいと感じた」「離婚したいと感じた」「一時的にコロナ禍では妊娠を控えたいと思った」「将来的に持ちたい子どもの数が減った」「将来的に持ちたい子どもの数が増えた」「その他」「上記のような家族計画の変化はなかった」の選択肢から複数選択形式で選択頂いた後、2つ目の質問として「上記のような家族計画の変化はなかった」以外を選択した人に対して、再度複数選択形式で、「その理由はなんですか」と質問している。そのため、理由の分布については、1つ目の質問で複数の変化を選ばれている場合は、「将来的に持ちたい子どもの数が減った」こと以外の理由も含まれている可能性がある点に、ご留意頂きたい。
 

4―― 将来的に持ちたい子の数が減少した人の特徴

4―― 将来的に持ちたい子の数が減少した人の特徴

さらに、コロナ禍で将来的に持ちたい子の数が減った人の特徴を捉えるため、40歳以下の回答者を対象として、将来的に持ちたい子の数が減ったと答えた場合に1、それ以外の場合に0をとるダミー変数を被説明変数とし、様々な属性を説明変数としたプロビットモデルの推計を行った。結果は表3の通りである。

この結果から、年齢が若い男女、子どもが2人以上いる男性、高収入の男女(年収700万円以上の男性、年収1000万円以上の女性)、自分もしくは身近な人が新型コロナに感染した男性が、将来的に持ちたい子を減らした傾向が見られる。また、家事育児負担の増加は、女性の将来持ちたい子の数を減らす傾向が見られた。さらに、在宅勤務を行うようになったり、仕事量が減った男性は、将来持ちたい子の数が減る傾向がみられた。

経済的な不安は、一般的に収入が低い人の方が大きいと考えられるが、収入が高い人の方が将来的に持ちたい子の数が減少している傾向が見られた。そこで、経済的な不安を理由として将来的に持ちたい子の数が減った人の傾向が、収入によって異なるのかどうかを確認するため、追加の分析を行った。ここでは、「将来的に持ちたい子の数が減った」を選択し、さらにその理由として「子育てへの経済的な不安」を選択した場合に1、それ以外の場合に0をとるダミー変数を被説明変数とし、個人年収を説明変数としたプロビットモデルの推計を行った。結果は表4の通りである。この結果から、経済的な不安による将来的な子の減少に限った場合においても、収入が高い人の方がコロナ禍で将来的に持ちたい子の数が減った傾向があることが分かる。
表3. 将来的に持ちたい子の数が減った人の特徴(40歳以下)
表4. 子育てへの経済的な不安で将来的に持ちたい子の数が減った人の特徴(40歳以下)

5―― おわりに

5―― おわりに

本調査から、40歳以下で子を持ちたいと思っている人の約2割が一時的にコロナ禍では妊娠を控えたいと思ったことから、2021年は一時的に出生数が大きく減少するものの、将来的に持ちたい子の数の変化から見ると、中期的な出生数の減少は、2%程度と予想されることが分かった。

新型コロナ拡大によって将来的に持ちたい子が減った理由として最も多く選択されたのは、「子育てへの経済的な不安」で、次に多く選択されたのが「ワクチンの親子への影響の不安」であった。これは、経済的な不安を小さくする支援や、ワクチンの妊娠出産への影響についての正しい情報が明らかにされていくことが、中期的なコロナの少子化への影響を小さくするための対策として重要なことを示唆する。また、経済的な不安によって持ちたい子の数が減少する傾向は、収入が高い人の方が強い傾向もみられたことから、少子化対策としては、子育ての経済的な不安を小さくする支援は、年収の多寡にかかわらず、重要と考えられる。

さらに、将来的に持ちたい子の数が減少した人の男女別の特徴として、女性は家事育児の負担が大きくなると、将来的に持ちたい子の数が減少するのに対して、男性は、子どもが2人以上いたり、仕事量が減ったり、在宅勤務をすると、将来的に持ちたい子の数が減少する傾向が見られた。こうした傾向がみられる理由については、今後さらに検証されていく必要がある。1つの可能性としては、もともとの家事育児の男女の分担状況や役割概念の影響が考えられる。例えば、男性より女性の方が家事育児にかける時間は大きい傾向があるため5、コロナ禍で女性の家事育児の負担がさらに大きくなると、今後コロナ禍のような危機的状況が起こった際の負担を鑑み、将来的に持ちたい子の数が減った可能性が考えられる。また、男性が仕事量が減ると将来的に持ちたい子の数が減る理由としては、大黒柱とみなされることの多い男性6の経済的な不安が大きくなった可能性が考えられる。また、在宅勤務をすると持ちたい子が減る理由としては、在宅勤務で家事育児の大変さを見ることが増えて影響を受けた可能性が考えられるかもしれない。また、2人以上の子がいる男性は、それ以上の子どもを持つことに対して感じた経済的な不安や家事育児の大変さの程度も大きかったのかもしれない。今後、研究蓄積が進み、こうした具体的な理由の可能性についても検証されていくことで、子育てへの不安について、より効果的な社会的なサポート体制が整えられていくことが重要だろう。
 
5 「平成28年社会生活基本調査」(総務省統計局)
6 「男性にとっての男女共同参画」に関する意識調査報告書(2012, 内閣府男女共同参画局) によると、男性で、「一家の大黒柱は自分である」を肯定した人は約75%、女性で「一家の大黒柱は夫である」を肯定した人は8割以上であった。
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保険研究部   准主任研究員

岩﨑 敬子 (いわさき けいこ)

研究・専門分野
応用ミクロ計量経済学・行動経済学 

経歴
  • 【職歴】
     2010年 株式会社 三井住友銀行
     2015年 独立行政法人日本学術振興会 特別研究員
     2018年 ニッセイ基礎研究所 研究員
     2021年7月より現職

    【加入団体等】
     日本経済学会、行動経済学会、人間の安全保障学会
     博士(国際貢献、東京大学)
     2022年 東北学院大学非常勤講師
     2020年 茨城大学非常勤講師

(2021年06月01日「基礎研レター」)

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